『ばけばけ』のすべては「丑の刻参り」から…書き直し前の“全然面白くなかった”台本とは

『ばけばけ』より、ふじきみつ彦氏が振り返る第1回の「丑の刻参り」のシーン (C)NHK
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)が明日3月27日、最終回をむかえる。最愛の夫・ヘブン(トミー・バストウ)を喪い、トキ(髙石あかり)は悲しみに暮れていた。そんなとき、かつての“恋敵”であったイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が現れ、「どうして最期に、怪談なんて幼稚なものを書かせたの」とトキを責める。
これを受けてトキは、自分が家庭に縛りつけたことでヘブンの「書くの人」の可能性を狭めてしまったのではないかと、後悔の念に苛まれてしまう。

しかしその後イライザは、錦織(吉沢亮)の弟で帝大の研究室に籍を置く丈(杉田雷麟)に向かって「おトキさんにしか書けないものがある」と言う。さらに、トキに「レフカダ・ヘブンの回顧録」を綴るように、そして丈に彼女のリテラリーアシスタントを務めるようにうながす。
かくしてトキは、愛するヘブンと過ごした日々をふり返りながら、ぽつりぽつりと語り出したのだった・・・。

全125回の脚本を書き終えたふじきみつ彦さんにインタビューをおこない、約2年にわたる『ばけばけ』の制作をふり返ってもらった。「冒頭3週分の脚本の書き直しが大きなターニングポイントだった」とふじきさんは話す。
■ 修正前の台本では「丑の刻参り」に勘右衛門の姿がなかった
1月23日に放送された『あさイチ』(NHK総合)に「プレミアムトーク」のゲストとして出演したふじきさんは、『ばけばけ』の第1〜3週までの最初の台本について「面白く書けてない」「これを25週流すわけにはいかない」と感じたと語っていた。
その後、クランクインから逆算したデッドラインぎりぎりのところで3週分の書き直しをやり遂げた。そしてこの書き直しがあったから、それ以降は楽しく書けたとも話す。
その突破口となったのが、物語冒頭から強烈なインパクトを残した第1回の「丑の刻参り」だったという。ふじきさんは、こう語る。
「書き直しをする前から『丑の刻参り』のシーンはあったんですが、修正前の台本では、そこで繰り広げられる会話がまったく違っていました。はじめのころ僕は、松野家が士族の家であるということにとらわれすぎて、会話をもっと真面目でかしこまった感じで書いていて。当初は、丑の刻参りにも勘右衛門(小日向文世)がいなかったんです」。
ふじきさんは、勘右衛門がいなかった理由についてこう続ける。
「本打ち(脚本打ち合わせ)で、『松野家のなかでもっとも武士然としている勘右衛門が、丑の刻参りの場に居合わせるのはおかしいだろう』という話になりました。『自分たちがうまくいかない現状を、誰かを呪うことで打破しよう』なんていう考えを、武士の生き方を追求する勘右衛門は持たないはずだと。
修正前の台本では、司之介が五寸釘で藁人形を木に打ちつけ、フミ(池脇千鶴)とトキ(幼少期:福地美晴)がそれを見守る、というシーンになっていました。本来、丑の刻参りは1人でやるもので、その時点ですでにいろいろとおかしいんですけどね(笑)。
だけど書き直しで、僕はまずスタッフさんに無断で、丑の刻参りのシーンに勘右衛門をいさせました。勘右衛門には『丑の刻参りの場にいられる元武士』でいてほしいと思ったんです」。
■「松野家の会話が書けていなかったから…」

第1回、蝋燭の前でトキがヘブンに語る「松野トキの話」として、彼女の少女時代の回想が始まる。そのファーストシーンが「丑の刻参り」だった。
実際に放送されたシーンでは、司之介が藁人形を木に打ち付けながら「この理不尽極まりない苦難の時を時代を乗り越えようと、一家揃って世を恨み、丑の刻参りをする。最高の夜じゃな」と言っている。
それを見ていたフミが「最高ではないと思いますが」とツッコみ、勘右衛門が「どちらかと言ったら最低の夜じゃろ」とかぶせる。このシーン、修正前の台本ではどんなものだったのだろうか。ふじきさんは語る。
「前の台本では、まず冒頭の司之介・フミ・勘右衛門の3人による会話が書けていませんでした。当初勘右衛門はそこにいなかったし、フミは司之介にツッコむような感じではなく、もっと奥ゆかしいキャラクターにしていました。少女時代のトキも、書き直す前はあまり喋らない子だったので、最初の『丑の刻参り』のシーンは司之介とフミしか喋っていない状態になっていました。
ところが、書き直しでその場に勘右衛門を入れたことで、松野家4人のキャラクターが立ってきた。トキが立って寝ているくだりも、書き直しで加わったことです。やっぱり松野家のキャラクターが定まっていないから、最初の台本は面白くなかったんですね」。
■ しじみ汁を飲んで「あ〜」も、書き直したからできた
勘右衛門の「ペリーも呪っちょくれ」や、それに応じた司之介が2つめの藁人形を打ちつけながら叫ぶ「黒船めが! ミシシッピ! サラトガ! プリマス!」という台詞。思い返せば確かにこの「丑の刻参り」、笑わせながらも松野家の人々のキャラクターがよくわかるシーンになっていた。さらにふじきさんは、こんな裏話も披露してくれた。
「実は尺に入り切らなかった部分もあるんです。トキが立ったまま寝ているのを見た勘右衛門が『立ったまま寝られるとは、おじょはたいしたものじゃ』と言い、司之介が『もしかして神の子なんだないか』とかぶせる。それにフミが『そげなことはございません。私たちの子です。第一、神様は寝ませんから』と返す。
さらに司之介が『いやいや、神様も寝るじゃろ』と言って、勘右衛門が『寝ないぞ神様は。神様は毎日徹夜をされちょる』・・・みたいなやりとりが、本当はもっと続くんですが、放送ではカットされました(笑)」。

「『丑の刻参り』で松野家の関係性がうまく書けた」。それが突破口だったと語るふじきさん。
「『丑の刻参り』が書けたら、その後のシーンがどんどんうまく転がっていきました。結果、そのままのトーンで最後の25週まで書き続けることができた。トキがしじみ汁を飲んで『あ〜』と言い、司之介が『「あ〜」と言うな、「あ〜」と』とたしなめる。まあ、司之介の勝手な思い込みなんですけど(笑)。このお馴染みのシーンも、書き直し後にできたものです。
そんなわけで、視聴者の皆さんが選ぶ『よかったシーン』ランキングには入らないかもしれないけれど、僕としては『丑の刻参り』がすべての出発点で、すごく印象に残っているシーンです」。

◇
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)は3月27日、最終回をむかえる。
取材・文/佐野華英
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