鱗形屋の片岡愛之助、初の生存退場にSNS祝福【べらぼう】

2025.5.23 18:30

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。重三郎と手紙をやり取りして、恋川春町の新作のアイデアを出し合う地本問屋の主人・鱗形屋(片岡愛之助)(C)NHK

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森下佳子脚本・横浜流星主演で、江戸文化の仕掛け人となったプロデューサー・蔦屋重三郎の人生を描いていく大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月18日の第19回「鱗の置き土産」では、板元として重三郎の師となりライバルとなった、鱗形屋孫兵衛が退場。彼が重三郎に残した2つの大きな置き土産と、演じる片岡愛之助の巧みな演技に、改めてその存在の大きさを印象付けることになった。

■ 鱗形屋が蔦重のために暗躍…第19回あらすじ

店をたたむことになった鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の元に、いつも鱗形屋の細見を仕入れていた書物問屋・須原屋市兵衛(里見浩太朗)が訪問。実は細見は、鱗形屋の商売を奪う形となった重三郎が、須原屋に代わって買い取っていたことを告白した。その事実に動揺する孫兵衛に、市兵衛は「ここを発つ前に償っておきたいことはないか」と問いかけ、孫兵衛は耕書堂で恋川春町(岡山天音)の本が出せるよう働きかけることにする。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。吉原の女将や戯作者たちと、青本のアイデアを出し合う重三郎(写真中央、横浜流星)(C)NHK

2人は春町には内緒で、文を交わしながら彼が飛びつきそうな企画を考え、狙い通り耕書堂で本を出すことを承知させた。2人はひそかにこの結果を喜びあい、孫兵衛は記念に、焼失をまぬがれた『塩売文太物語』の版木を重三郎に渡す。それは重三郎にとって、初めて読書の喜びを知った本だったので泣いて喜び、それを見た孫兵衛も「うちの本読んだガキが本屋になるってよぉ・・・びっくりがしゃっくりすらぁ!」と涙ぐむのだった。

■ 敵?バディ?蔦重に「置き土産」残した鱗形屋

重三郎を商売敵としてあからさまに敵視したかと思えば、本のアイディアを出し合ってはしゃぎ、すっかり仲良しになったかと思うと「蔦重を利用してやる」と悪意をチラつかせる・・・単なる主人公のライバルではなく、成長するきっかけを与え、反面教師ともなった鱗形屋孫兵衛。結果的に店を閉めることになり、負け犬となってドラマからフェイドアウトするのかと思ったら、まさにサブタイ通り大きな土産を残して去っていくという嬉しい展開となった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第13回より。重三郎に恨み言を言う、地本問屋の主人・鱗形屋(片岡愛之助)(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第13回より。重三郎に恨み言を言う、地本問屋の主人・鱗形屋(片岡愛之助)(C)NHK

自分の商売を奪った相手として、重三郎を憎んでいた孫兵衛の心を溶かすきっかけを作ったのは、重三郎が影で鱗形屋を支援していたことを打ち明けた須原屋市兵衛だった。その直前に孫兵衛は、恋川春町から『金々先生栄花夢』は孫兵衛に案思(アイディア)をもらったから書けたと弱音を吐かれていた。あれは重三郎と一緒に考えたものという引け目を思い出したところで、重三郎の善行を聞く。須原屋さん、まさに神タイミングだった。

■ 愛憎混じる師弟関係、最後は「本」の意義に涙

そこで孫兵衛は、重三郎にいろいろとひどい仕打ちをした償いとして、春町が耕書堂で仕事できるよう取り計らうことにした。その手土産に必要なのは、今、春町が渇望している画期的な案思。閉店ショックでしおしおだったのが、この企みを思いついた途端シャキーン! となって、重三郎と生き生きと往復書簡を交わす。そのおかげで「100年先の江戸」という、春町も瞬時に絵のインスピレーションが湧いて出てくる、最高の案思が生まれた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。絵師・喜多川歌麿(写真右、染谷将太)と鱗形屋からの手紙を読む重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHK

孫兵衛を演じた片岡愛之助は、インタビューで「孫兵衛は商売が下手」と指摘していた。確かに発刊した本自体は、伝説になるほどすばらしい作品が多いけど、明和の大火という不運や、偽版という失策も重なって、それを売上に直結させることはできなかった。彼の編集者の才能を、きちんと商売につなげることができるパートナーに出会えていたら、蔦屋に負けないほど繁栄させられたのだろうが・・・。

しかし孫兵衛は、細見の改を通じて重三郎に本作りの楽しさを教えただけでなく、重三郎の本好きの原点となった『塩屋文太物語』の版木をプレゼントすることで、改めて「本」は人を救い、心を明るくし、すなわち世界を明るくするという役割を噛みしめさせる・・・という、大事な役目を果たした。そして孫兵衛にとっても「子どもに楽しんで欲しい」という思いで作った赤本が、子どもの頃の重三郎を喜ばせ、本屋を目指すまでになった事実を知ることができたのは、冥利に尽きることこの上なかったはず。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。地本問屋の主人・鱗形屋から板木をプレゼントされた重三郎(横浜流星)(C)NHK

前回は重三郎と喜多川歌麿(染谷将太)が、お互いがお互いの「救いの神」となり、絆を深めたことを描いていたが、今回は孫兵衛と重三郎が本づくりの先輩後輩として「本を読む喜びを知った者」「読者の人生を変える喜びを知った者」と、喜びのエール交換をし合うような、しみじみと感動する回となった。このまま憎まれ役として退場するかと思われた鱗の旦那だったが、最高の花道を飾ることができて安堵した視聴者も多かっただろう。

今回の鱗形屋のはからいの数々について、SNSでは「最後に粋で意気地を見せてくれて、この愛憎入り混じったある種の師弟関係の結末、素敵でした」「本って本当いいもんですねえ・・・うっうっ」などの感動の声もあったが、耕書堂で書くと春町に言われた孫兵衛が、一瞬「やった!」の顔→すぐスンとして不義理を怒るフリ→でも笑いが抑えられない・・・という愛之助の細かい演技にも「鱗形屋さんかわいすぎ」「愛之助さんの笑顔たまらん!!」と注目の声が集まった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。地本問屋・鶴屋、西村屋を訪ねた鱗形屋の長男・鱗形屋長兵衛(三浦獠太)(C)NHK

こうして2人はお互いに、本づくりの楽しさを味わって別れました、めでたしめでたし・・・と思いきや、重三郎と鱗の旦那の往復書簡を取り持った孫兵衛の長男・長兵衛(三浦獠太)以外、地本問屋界隈では、春町の耕書堂移籍にこんな裏話があったことを知らない。周囲が重三郎許すまじの感情を高めたのを、やっぱり鱗の旦那はフォローしておいた方が良かったのではないだろうか。特に重三郎を親の仇と思っている次男が奉公している、西村屋与八(西村まさ彦)には・・・。

■ 大河ドラマで不憫な片岡愛之助、初の生存退場!

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。重三郎と本への想いを話す地本問屋の主人・鱗形屋(片岡愛之助)(C)NHK

そして今回でクランクアップしたという愛之助。これまで出演した大河では、桶狭間の戦いで討たれた今川義元、関ヶ原の戦いで切腹した大谷吉継、河原で早々に暗殺された北条宗時と、改めて並べてみても気の毒すぎる退場ばかりだった。今回のおだやかな退場に「大河ドラマ出演史上初の生存退場」「満足気に表舞台から去る愛之助さん大河では新鮮でよかった」「初のハッピー退場とみんなに言われてて笑った」という声も(笑)。また近々大河ドラマで、できれば最終回まで登場する役で再会できることを期待している。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月25日の第20回「寝惚けて候」では、重三郎が大田南畝(桐谷健太)を通じて狂歌の世界に出会うところと、将軍家後継問題にまつわる様々な思惑が描かれていく。

文/吉永美和子

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