奈良の伝統行事「鹿の角きり」が今年も、迫力の攻防戦に大歓声

神官役が江戸時代からの作法で雄鹿の角を切る様子 (10月7日撮影)
鹿が恋をする秋。国の天然記念物である「奈良公園」(奈良市春日野町)の雄鹿が発情期を迎えた。10月7日から3日間、「春日大社」境内地にある「鹿苑(ろくえん)」の角きり場で、江戸時代から約350年続く古都奈良の伝統行事、古式『鹿の角きり』がおこなわれている。
はちまきに法被を着た勢子(せこ)と呼ばれる人々が、全力疾走で逃げる雄鹿たちを太鼓の音ともに追い込んで捕まえる真剣勝負の攻防戦は圧巻。会場からは、大きな歓声があがった。多いときには、1日に約2000人もの来場者が訪れる人気の行事だ。
■ 大怪我と隣り合わせ…そもそも何故「角きり」を?
「奈良公園」の鹿は、野生動物でありながら、人の暮らしと密接して共生しているため、この時期になると昔から、人が雄鹿の角に突かれて怪我をするなどの被害が発生。また、鹿同士が突き合って死傷するケースもあり、それらを防ぐために、「鹿の角きり」がおこなわれるようになった。
現代では、公園内の雄鹿に対して、奈良の鹿愛護会が角きりをおこなっているが、この古式「鹿の角きり」は、江戸時代の角きりの様子を今に伝え、「鹿と奈良の人々との共生の中で受け継がれている秋の伝統行事」として親しまれている。
取り押さえられた雄鹿は、鹿用枕が置かれたゴザに寝かされ、神官役が興奮した雄鹿の口に「水差し」の水を含ませて気を静めてから、ノコギリで角を切り落とし、神前に供えられる。

角に血管や神経は通っていないため、人間でいうところの「爪切り」に近く、翌年には新しい角が生えてくるという。切られた角は販売され、その売り上げは、公園内の鹿の保護活動に充てられている。
この行事は、奈良の鹿愛護会と「この人ならば」と見込まれた縁故関係者による約20名の奉仕者「勢子(せこ)」によって、守り伝えられており、7日には、15歳から奉仕(現在は成人以上から)しているという勤続30年の乾徹さんらの表彰もあった。
現在は、割竹を十字に組み縄を掛けた捕獲具「十字(じゅうじ)」を雄鹿の角に投げかけて捕まえるが、かつては手づかみで捕まえていた時代もあり、乾さんは、救急車が常駐していたほど、大怪我と隣り合わせだった時代に素手で雄鹿を捕えていた経験もある人物だ。
■ 角が無くても危険「追い回すのは絶対にやめて」

角きりで雄鹿と向き合う時の気持ちを乾さんは、「お互いに怪我をしないように安全第一。真剣に対峙する緊張感が続くので、1日が終わると本当に疲れます」と語る。この伝統を次世代に伝えるため、後継者育成もおこなっており、「一番古い勢子で50年の人がいる。身体が続く限りやり続けたい。伝統は守らなければ」と力を込める。
公園内では、角が切られた雄鹿を見かけるが、怖さをよく知る乾さんは「角が無くても、全力の鹿に体当たりされたら人は吹っ飛んでしまいます。本当に危険なので、発情期の雄には近づかず、無理に追い回すのは絶対にやめて」と呼びかけた。
古式「鹿の角きり」は、10月9日まで。「鹿苑」の角きり場で、午前11時45分~午後15時(最終入場は14時30分)。観覧料は、大人1000円、小学生500円で小雨決行、荒天中止。
取材・文・写真/いずみゆか
古式「鹿の角きり」
期間:2023年10月7日(土)・8日(日)・9日(月祝)
場所:春日大社境内 鹿苑角きり場(奈良公園内)
時間:11:45~15:00(開場11:15 最終入場14:30)
観覧料:大人(中学生以上):1,000円 こども(小学生):500円
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