【連載vol.19】見取り図リリー、アンディ・ウォーホルを観る

2022.11.12 12:15

アメリカで有名な商品をアートにしてしまった《キャンベル・スープ》《ブリロの箱》

(写真9枚)

アート大好き芸人「見取り図リリー」が、色々なアート展へ実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けするという企画「リリー先生のアート展の見取り図」第19回でございます。今回は「京都市京セラ美術館」(京都市左京区)で2023年2月12日まで行われている『アンディ・ウォーホル・キョウト』です。

アンディ・ウォーホルの作品を、ウォーホルの人生をたどりながら共に鑑賞できる展覧会となってます。ウォーホルは、アメリカではおなじみのスープの缶詰をモチーフにした《キャンベル・スープ》や、マリリン・モンローの《三つのマリリン》が有名すぎて、作品は観た覚えがあるけど、意外にウォーホルの作品だと知らない人も多いと思います。ただ、この展覧会を観るとわかるのですが、それらの作品以外も素晴らしい!

ウォーホルのアートセンス! 正直嫉妬してしまいます。中学1年生の時、仲良い友達に彼女ができたと言われた事を思いだしました。そんくらいの嫉妬です。話がずれました、すんません。

ウォーホルはポップアートの旗手と言われてますが、元々は商業デザイナー&イラストレーターとして大成功してたんです。横尾忠則先生(連載vol.7参照)とかもそのパターンですよね。まず最初にデザイナー時代の作品が並びます。これがまぁかわいい。赤いハートのスタンプの下に鳥のイラストが入っている《I Love You So》なんて、今の時代にもフィットしてるというか、バズりそうな雰囲気。それまでクライアントの意向に沿って活躍していただけあって、不安感がなく計算されてる構図なんだろうなと感じました。

そして、ウォーホルがアーティストになってからの作品が並びます。1956年に来日したときに生け花から影響を受けて描いたイラストの《花》。個人的にはこのシリーズの作品が1番好きでした。それまで、ウォーホルといえばシルクスクリーン(版画を使った印刷する技法)のイメージだったんですが、絵もめちゃくちゃうまい。

マジで観てほしい!線の描き方が天才的というか、線だけでもずっと観ていられる。僕が独特だなと感じている画家クリムトやルソーとはまた違う、言葉にできない線の魅力がありました。

生け花を見て次々と描いた《花》シリーズ、モノクロもあれば、彩色のものも…ズラリと並んで圧巻なので、ぜひ現地で

そしてウォーホルの代名詞である、大量生産・消費をテーマにしたポップアート作品もたくさん。スクリーンプリントを使うため、刷り具合によって風合いは少々異なれど、アート作品を大量生産できるスタイルです。《ブリロの箱》は、アメリカでポピュラーな洗剤パッドと同じデザインの箱を作りあげて展示されています。大量生産の製品をアートに落とし込む。同じ物を見てもある人には製品であり、ある人にはアートだというように。アートとデザインの垣根をなくしたのです。

1点物のオリジナル作品でしかアートを表現していなかった当時の業界に一石を投じてますよね。アートの定義を広げたのと同時に、アートの定義をめちゃくちゃにもしてますよね。ほんまロック。僕はウォーホルは革命家やと思ってます!

マリリン・モンローの写真を使って制作した《三つのマリリン》も、1962年にモンローが亡くなってすぐその作品を発表したそうです。故人をすぐアートにするという、まさか今やるわけないというタイミングで。

僕の勝手な解釈なのかもしれませんが、ウォーホルの根底には「反逆心」があったと思うんです。ウォーホルは同性愛者であり、幼い頃からキリスト教信者でありました。この当時キリスト教は、同性愛を認めていなかったそうで、ウォーホルからすれば、どんだけ神にお願いしようが救ってはくれなかった。そんな現実を変えるために、世の中の定義を破壊していったのだと思います。   

整形をし、銀色のカツラをかぶり、自分の名字もウォーホラだったのをウォーホルへと変えました。自分自身という定義も変えたかったんでしょう! そう僕が清水将企からリリーになったように。嘘です。僕はただ同期達にあだ名をつけられただけでした。

レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》を独自の解釈で描いた、ウォーホルの最後の作品《最後の晩餐》

そのウォーホルの考えを踏まえて、最後の作品を《最後の晩餐》を観ると震えます。めちゃくちゃ大きな絵にキリストがいます。その周りに、アメリカの大量生産を象徴する商品の値札、ハーレー、有名なメーカーのロゴマークなどがかかれています。神が指し示す世界と現代が作った現実の乖離を感じます。

そして絵の真ん中に大きく「C」と描いています。その意味は、キリスト(=Christ)の頭文字「C」と、癌(=Cancer)という病気の死に対する恐れを示した「C」という2つの意味があると言われています。ウォーホルは、インタビューなどでもその相手に合わせて言うことを変えたり、嘘をついたりで本心を見せない事で有名だったらしいのですが、最後の最後で本心を見せていると思います。

神に対する信仰心と死に対する恐怖。この作品を最後に亡くなっているのがまたドラマティックですよね。作品も、もちろんなんですが、グッズが凄いんです。元デザイナーというのも関係してるんでしょうか、めちゃくちゃかわいい! なんならグッズ用にデザインしたんじゃないかってくらい完璧! ハンドタオルめちゃくちゃ可愛かったなぁ。改めて、ウォーホルが現代のアートに与えた影響を感じる展覧会でした!

1966年のギャラリーで展示された作品《銀の雲》をオマージュした特別展示。フワフワと銀のオブジェが浮き上がって空間を楽しめます

『アンディ・ウォーホル・キョウト』

ポップアートの旗手であり、映画製作なども手がけたアンディ・ウォーホル(1928年~1987年)の大回顧展。アメリカのピッツバーグにある「アンディ・ウォーホル美術館」より門外不出の《三つのマリリン》、商業デザイナーと活躍してた頃のアートワーク、最後に描いた《最後の晩餐》など日本初公開作品約100点を含む、約200点を展示。京都限定の企画展となり、1956年にウォーホルが初来日した際の旅行のときの資料や、日本にインスパイアされた作品も楽しめる。

【見取り図リリーの近況】

肩肘張らず、普段の僕らのおしゃべりを繰り広げる新ポッドキャスト番組『スタンド・バイ・見取り図』が10月21日からスタートしました。Spotify、Apple、Amazonなどから過去回も聴けるのでぜひ! テレビでは冠番組の『見取り図じゃん』、『ラヴィット』(水曜)、『スローでイージーなルーティーンで』(月曜)などにレギュラー出演しています。大阪の「よしもと漫才劇場」などで撮影しているYouTube「見取り図ディスカバリーチャンネル」もご覧ください!

『アンディ・ウォーホル・キョウト』

期間:2022年9月17日(土)〜2023年2月12日(日) 月曜休館(祝日は開館、12月28日〜1月2日休)
時間:10:00〜18:00(入場は閉館30分前)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
料金:一般平日2000円、一般土日祝2200円、大学高校生1400円、中学・小学生800円
問い合わせ:075-771-4334

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