マクド、せやかて…「大阪弁変換ツール」制作者の苦労を訊いた

2022.8.15 19:15

「天神橋ホームページ制作所」が運営する『大阪弁変換辞書』

(写真4枚)

SNSに投稿された創作漫画を読んでいると、「登場人物の関西弁は、大阪弁変換ツールを使用して翻訳しました」という注意書きをよく目にする。和英・英和翻訳なら分かるけど、大阪弁・・・?と調べてみると、『大阪弁変換辞書』というサイトがヒットした。

大阪弁ネイティブの筆者からするとあまりに未知数なサイトだな・・・ということで、「天神橋ホームページ制作所」として大阪市旭区を拠点に活動する浜秀彰さんにくわしく話を訊いてきた。

■ 漫画や小説で、大阪弁のキャラクターに使用する人が増加

──まず、「大阪弁変換辞書」を作ったのは何がきっかけで?

別サイト用に文章を大阪弁に変換する「大阪弁変換辞書」を作ったんですが、結局そのサイトは公開には至らずしばらく眠らせた状態でしたが、2015年に関西弁版『進撃の巨人』が話題となったのを見て、なにかの役に立つのではと思い公開しました。

創作を手掛ける方が、漫画や小説に大阪弁のキャラクターを登場させる際や、大阪弁でニュースを発信するサイトなどで使用されているようです。あとは良くない使い方ですが、匿名掲示板で口喧嘩をする際に利用している人もいるようで・・・(笑)。

──思いもよらない使い方ですね。でも文章を変換するのにわざわざ「大阪弁」を選んだのはなぜでしょう。何かこだわりがあるとか?

それが、僕自身は和歌山県出身で埼玉に住んでいた時期もあるので、純粋な大阪人ではないんですよね(笑)。わざわざ大阪弁辞書にしたのも、大阪愛が強いというわけじゃなく、昔からそういうソフトやツールがインターネットの世界にたくさんあったという背景があります。

既存ツールはジョークソフトの一環で精度の低いものがほとんどということもあり、そこまで気合を入れて作ったわけではありませんでした。でもこの辞書を使って小説や漫画などを作る人も増えてきて、僕が作ったツールのせいで変な会話になってしまうのも申し訳ないなと・・・。サイト作りの一環で生まれたツールが、こんな広がり方をするとは正直予想外でした。

『大阪弁変換辞書』の作業風景

■ 「さぶい」「押しピン」など・・・手作業でひたすら登録

──でも関西圏以外の方からすると便利なツールですよね。どういったシステムで大阪弁に変換しているんでしょうか?

このツールにはAIなどは搭載しておらず、事前に登録した単語を変換するというシンプルなシステムです。サイト公開時にまず500単語程度を登録し、現在では2499単語が登録されています。

2017年に『UDトーク』というトークアプリが大阪弁モードを導入する際にこのツールが使用されたのですが、その際に大幅なアップデートをしました。最初のうちは「さぶい(寒い)」「押しピン(画びょう)」などわかりやすい単語ばかりを登録していましたが、アップデートを経て動詞や細かい表現などにも対応するようになりました。

──まさかの地道な手作業だったんですね! なかなかハードな作業なのでは?

現在はサイトに設置している「大阪弁辞書登録申請」というフォームから指摘があった分を月ごとに修正・追加したり、自分で気になった単語をその都度登録するくらいなので、そこまで大変ではないんです。

もしAIや文章解析システムを導入していたら、前後の文章を含めて判断し学習するので精度もあがるんでしょうが、現状は僕がコツコツ入力している状態です。どうしても精度に限界があります。最近では穏やかですが、昔は「サイトをつぶせ!」など、批判的な声が寄せられたこともありました。

■ 今時使わないんじゃ・・・? モータープールや天花粉

──そんな過激派な方もいるんですね・・・。ちなみに、フォームにはどういう指摘やリクエストが寄せられるんでしょうか。

関西出身の人ならわかると思いますが、日常生活でそんなコテコテの大阪弁は使わないですよね。例えば「『こんにちは』を変換できない」と指摘されたことがありますが、「こんにちは」は、大阪弁でも「こんにちは」です。

また、以前ネットスラングの「せやかて工藤」を標準語に変換してほしいとリクエストがあったんですが・・・。「せやかて」って、普通の大阪人は使いませんよね。でもリクエストはあるので、「だからって工藤(こてこてのみ)」で変換はできるものの注釈をつけた状態になっています。

それと関西弁の言葉遊びで有名な「チャウチャウちゃうんちゃうん」。これは登録を希望する方が多く「こういう意味で合っているのかな」と迷いつつ登録した覚えがあります(あれ、チャウチャウじゃない?/チャウチャウじゃないんじゃねぇ?/え~、チャウチャウ違う?/違う違う、チャウチャウ違う/など)。

──なんとも難しいですね。ただ単語を登録するだけじゃなく、浜さんの解釈や知識も重要となりそうです。

主要な単語やふと思いついた単語、テレビなどで大阪弁の用法などが取り上げられたら追加するようにしています。ベタ版は「ハイカラうどん(たぬきうどん)」「モータープール(駐車場)」「天花粉(ベビーパウダー)」など、「今時、こんな単語使う?」みたいな言葉も多いかもしれません。

あと、神社仏閣を「~さん」と呼んだり。現在は「住吉さん」「太閤はん」など主要な神社仏閣は登録していますが、キリがないのでかなり端折っています。

それと大阪弁は地域差にくわえて、オッチャン・オバチャンだけが使うワードもありますよね。また、あくまで「大阪弁」に絞っているのでほかの地域の言葉はできるだけ避けるようにしていますが、「~しはる」など京都や兵庫でも使われている言葉もありますし、悩ましいですね。

変換を何度か押すと、「思わへんかったんや」「思わへんかってん」と変わっていくが、関西人以外はそのニュアンス難しいですよね・・・

■ 「バカがアホに変換できない!」と指摘されて

──フォームにリクエストがあっても、対応できない場合もあるんでしょうか?

以前、「バカがアホに変換できない!」と指摘を受けたことがあります(笑)。これは「バカ」だけだと簡単に変換できるんですが、その後に例えば「野郎」がつくと「アホ野郎」という間違った大阪弁になるので、変換できない仕様になっています。

似たような理由で「『マック』と打ったのに『マクド』とならない」と言われることが多いのですが、一口に「マック」といっても、人名やパソコンの名称を指すこともありますよね。すべてのマックを「マクド」に変換すると文章が通らなくなってしまうんです。

──なるほど、それは文章全体で見てみると意味が全く変わってしまいますよね。

指摘をそのまま反映していたものの、後ほどおかしくなることに気づき修正することもあります。例えば、学年を意味する「『年生』を『回生』に変換したい」という申請はよくあるのですが、正確には「回生」を使うのは大学のみ。

すべての「年生」を回生に変えるわけにはいきませんし、大阪でも、大学によっては「年生」のところもあるため、あえて「年生」はそのままにしています。

例えば以前は「最後」を「ケツ」に登録していたのですが、そうすると「これで最後だ!」というセリフを変換すると「これでケツや!」となってしまい・・・。これではさすがにおかしいので、今は削除しています。

■ コテコテすぎて「吉本新喜劇」になってしまい・・・「あっさり版」も導入

──緊迫感のあるシーンでその言葉遣いは不自然ですよね(笑)。なるべく綺麗に文章を変換するコツなどはありますか?

ひらがなだとほかの単語と誤変換される場合もあるので、なるべく漢字を使うことをおすすめします。長文でも、漢字や句読点をその都度使えば比較的スムーズに変換できると思います。動詞にくわえ、文末・文頭に付いた言葉も変換できるのは、昔からある変換ツールにはなかったような機能ではないかと思います。

──ちなみに、辞書は「こてこて版」「あっさり版」の2種類がありますが、これは元からあったのでしょうか?

はじめはベタな「こてこて版」だけだったのですが、ネイティブ大阪人らしき方から「こんなこと言わないよ」と指摘されることが増えました。それに「こてこて版」だけだと「吉本新喜劇」みたいな誇張された大阪弁になり、どうしてもリアルとかけ離れた言葉になってしまうので「あっさり版」も作りました。

あっさり版を使っていても、男言葉の乱暴な大阪弁になってしまう可能性もあります。そうすると例えば女の子のキャラクターなのに「大阪のおっさん」風な喋り方になる可能性も。作品として公開・製本化する場合、できれば関西出身の方にチェックしてもらってほしいですね。

こてこて版では「すんまへん」、あっさり版では「すんません」

──思っていたより、ずっと根気が必要そうな作業です。正直なところ、運営は大変じゃないですか?

本業のホームページ制作のかたわら運営しているので、どうしても対応が遅れることがあります。単語の申請や修正事項の指摘はありがたいのですが、仕様上対応できないことも。その場合は「この単語は変換できません」などの返事ができないのが心苦しいです。

ただ自分で言うのもなんですが、「大阪弁変換辞書」より力を入れている変換サイトは無いと思います。ありがたいことに時折話題となり、直接的な利益にはならないものの、褒めてもらえるとモチベーションも上がります。現状は代わりとなるサイトもないようですし、今後も粛々と単語を追加しつつ対応していきたいですね。

取材・文/つちだ四郎

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