コントと喜劇の終着点、どちらも知る李闘士男監督の違いとは?
「登場人物に愛情が湧く映画を」(李監督)
──気になることがあるんですけど、春男って実は野心家で出世のことばかり考えているじゃないですか。そして周りからチヤホヤされたい。でも、そもそも住んでいる家がものすごく立派。あの一軒家を見るに、あれ以上野心を持つ必要なんてないと思うんですが。
あっ、痛いとこを突かれた! そこは、そこは言うたらあかんねん(笑)。
──ハハハ(笑)。
タネを明かすと、プロポーズシーンを成立させるためにあの一軒家にしたんです。あそこは、10分以上のやりとりがある大きな場面。それだけの尺を保たせるのってすごく大変なんです。春男に席を外させたり、再び輪に入れたりして、間合いやリズムを作っていくことになったんです。そういう立ち回りをやらせるには、六畳一間のスペースではできないんですよね。
──確かにそれだと場面として成立しないですね。
プロレスと同じ位置関係なんですよ。かつてジャイアント馬場さんが、「リングの真ん中に立っている人間が一番強そうに見える」と言っていましたよね。春男もあのシーンでは最初は中心にいるけど、どんどん外れていく。そこで彼の心の揺れが分かるようになっています。この映画で、もっとも大事なシーンなんです。六畳ではそれが表現できない。位置関係による心情表現ができるように、広めの家をチョイスしました。
──そういう意味では、食事のシーンの位置関係にも狙いがありますよね。かつての日本のホームドラマでは、食卓の中心には父親が座っている。でもこの映画は、態度の大きな息子が堂々と座ってメシを食っていますね。
あの息子が家族の中心にいることで、主人公の春男、ふたりの娘、母親のバランスが良くなるんです。あと、ぽっちゃりした体型が良いですよね。なんか隙がある感じがして(笑)。しかも彼は、父親に対して上から目線で喋る。もし『お父さんのバックドロップ』のときの神木隆之介くんみたいなシュッとした子役だったら、嫌味に映っていたはず。隙だらけなクセに偉そうにしているのがおもしろくて愛せるんです。
──この映画からは改めて、登場キャラクターに対する監督の愛情の深さが伺えます。
僕はもともとテレビの人間で、映画を作り始めたのはキャリアの途中から。やっと最近、「自分とは何ぞや」が見えてきたんです。僕が映画でやりたいことは、どれだけ登場人物に寄り添えるか。派手な映画の方が企画も通るし、お客さんも入りやすい。だけど、自分はそれで良いのか、と。
──なるほど。
昨今のひたすら刺激を追い求める日本映画は、ちょっと疲れるようになってきた。そもそも人間の本質って、実は些細なものだろうし、そういったところに着目しながら、誰もが登場人物に愛着が湧く映画を作っていきたいです。
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