長澤×野田、舞台で初タッグ「劇場は人と人が出会う場所」

2021.12.3 06:45

左から長澤まさみ、野田秀樹

(写真4枚)

劇作家・演出家の野田秀樹が率いるNODA・MAPの作品群のなかで、とりわけ傑作と名高いのが4人芝居『THE BEE』だ。脱走犯の小古呂(おごろ)に、妻子を人質に取られたサラリーマン・井戸が、妻子を救出しようと行動を起こしていくストーリーで、2人の不毛にして執拗なやり取りから、報復の連鎖がはびこる現代の縮図を、あざやかに描いている。

初演は2006年にイギリスで、翌年には日本語版を発表。その後2012年の再演を経て9年ぶりの日本語版上演となる今回、新キャストに、俳優・阿部サダヲや長澤まさみが抜擢された。12月16〜26日におこなわれる大阪公演を前に、NODA・MAP初参加の長澤と、初演以降主人公・井戸を演じ続け、今回初めて演出に専念する野田に話を訊いた。

取材・文/吉永美和子 写真/伊藤奈々子
スタイリスト/佐川理佳(長澤まさみ) ヘアメイク/木村真紀(長澤まさみ)

毎日ヘトヘトだけど、これはご褒美(長澤)

──野田さんの代表作のひとつ『THE BEE』をこのタイミングで、しかもすべてのキャストを入れ替えて再演しようと思った理由はなんでしょうか?

野田:タイミングとか関係なく、ずっと再演していきたいと思っていた作品だったから。意外に日本では、まだ3回目なんです。ただ私の年齢的に、ちょっと(井戸を演じるのは)厳しいんじゃないかなあ? と思って、井戸は阿部(サダヲ)さんに委ねることにしました。

──「日本演劇界屈指の運動量」と言われる野田さんの作品のなかでも、役者のノンストップ度がすさまじく、しかも小道具を使う段取りも多い、かなり激しい芝居ですからね。

野田:70分から75分、一時も止まれないから、相当しんどいはず。今日の稽古で(上演時間の)半分ぐらい通したけど、みんな汗だくでした。(川平)慈英とか、この世の終わりのような汗をかいてたね(笑)。

長澤:湯上がりみたいになってましたね(笑)。私も、毎日ジム帰りみたいな気分になってます。

──長澤さんは、本作のオファーがあった時、まずどのように感じましたか?

長澤:いつか出たいなあって思っていたので、本当にうれしかったです。野田さんの舞台で特に印象に残っているのは『パイパー』(2009年)なんですけど、主演の松たか子さんが大好きで、それもあって観に行きました。世界観やセリフに圧倒されて、10代の私からすると「何なんだこれは!?」って衝撃を受けましたね。ほかにも『キル』(2007年)を見に行ったり・・・ 

野田:早めに言ってくれたらねえ(一同笑)。

長澤:でもきっと、使い物にならなかったと思います(笑)。この作品の上演は、タイミングが合わなくて観られなかったんですけど、巡り巡って今回こういう(役をもらう)形になり、初めて台本やDVDを観て「やっぱりおもしろいなあ」と。しかも共演が大好きな阿部さんと聞いて、これはご褒美だと思いました(笑)。この数年忙しかったんですけど「ご褒美が来るまでがんばらなきゃ」というモチベーションでいたので。

「自分にはほかの人に見せる技術や度胸もない、と思ってたときに舞台と出合って。経験を積んで「見せられるもの」が身についていって、自信が少しずつ備わっていくといいなあと思います」と、力強く語った長澤

──とはいえご褒美と言うには、長澤さん演じる小古呂の妻は、井戸の暴力がエスカレートするに従って、どんどん自分を失っていくという、かなりハードな役ですよね。

長澤:本当に大変で、毎日ヘトヘトになって帰ってます。でも楽な役なんて、基本的にはないですから。

野田:長澤さんはカンがいいし、品もいいですよね。これまで秋山(菜津子)さんや宮沢(りえ)さんがやった役だけど、その2人とはまた全然違う種類の品があります。

そして、この物語のモチーフのひとつは、人間が「恐怖心」に負けてしまうということなんだけど、小古呂の妻ってその象徴なんだよね。たとえば独裁国家が、たった1人の男をやっつければ済むことなのにそれができないのは、お互いが監視し合ったりして「恐怖心」がシステム化されているからだ、と。気がつくともう本当に逃げられない所に追い込まれていって、そして自分そのものを放棄していく・・・そういう役ですね。

長澤:なんか「世間」って感じがするんです、小古呂の妻は。あんなに強く言葉で言うけど、実際は弱い人間なんだろうなって。

──恐怖から暴力にあらがうことを止めてしまい、そこで訪れる結末には、本当にゾッとさせられます。

野田:特に井戸は、どんどん加害者・・・悪い人間にならなくちゃいけないんだけど、どうやってそれを自分に納得させていくかが課題。私も経験したけど、「これは理解できない」というモノを作るには、なにかを自分のなかで作っていかないと絶対ダメ。長澤さんもこれから「被害者」というモノになっていくために、なにかを作って納得する瞬間が必要になってくるでしょう。でも大丈夫、ちゃんとお手伝いしますから。

長澤:ありがとうございます。

衣装クレジット

ワンピース4万6200円(バウム・ウンド・ヘルガーテン/エスアンドティ☎03-4530-3240) ブーツ5万6100円(ロランス/ザ・グランドインク☎03-6712-6062)リング<右手> 8万2500円 <左手/親指>9万6800円   イヤーカフ<上>1万4300 <下>2万2000円(トムウッド/ステディ スタディ☎03-5469-7110)、リング<左手/中指・薬指>1万3200円(ソワリー/☎06-6377-6711)

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