濱口竜介監督「見せたいのは言葉ではなく、身体そのもの」
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映画『ドライブ・マイ・カー』でメガホンを取った濱口竜介監督
今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞のほか、国際批評家連盟賞など4部門での受賞を果たした話題の作品『ドライブ・マイ・カー』。秘密を受け取る機会を失ったまま妻を亡くし、孤独と後悔の日々を送る男が、もうひとつの孤独な魂と出会い、あることに気づいていく物語で、原作は村上春樹の同名小説だ。キャストや演出のみごとな設計について、濱口竜介監督に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二
「『声の手ざわり』は確かにあるなと」(濱口竜介監督)
──前作『寝ても覚めても』(2018年)の山本晃久プロデューサーから、次回作の原作候補として村上春樹さんの小説を提案されたのが企画の始まりだったそうで。
そうです。ただ提案された小説は、どう映画にすべきかわからなかった。そのとき、以前読んでいた村上さんの別の短編『ドライブ・マイ・カー』を思い出したんです。
──以前から村上春樹作品のファンだったんですか。
ファンとまで言っていいかはわかりませんが、一読者として面白く読んでましたね。20代の頃に村上さんの長編小説は大体読んでいて、内容もさることながら書き方に1番惹かれました。村上さんは自身の書き方を、井戸の底に降りていくように何かを書きながら、いわば深層心理を掘り下げつつ忘我の境地に至る・・・、という感じで表現されています。そのような境地に至って書きたい、という想いはずっと持っています。
──映画化するにあたって『ドライブ・マイ・カー』が頭に浮かんだのはなぜですか。
興味深かったのが「声」でした。主人公の家福は、妻の浮気相手と思しき男が妻について話す声を直観的にこれは心の底から発せられた真実のものだと判断する、と書かれているのですが、僕もドキュメンタリー映画のために多くのインタビューをおこなっていた時期があって、その経験からこういう「声の手ざわり」というものは確かにあるなと共感できたんです。
ただ、今考えると、それは村上さんのテキストの力だったと思います。その声も、いわば村上さんの深層から生まれた言葉で、書いた人の身体が刻み込まれている。だから読む人、聴く人に響く。僕はその書いた人の身体が刻み込まれた言葉というのを、劇作家・チェーホフにも感じる。そういった言葉を俳優が口にしたとき、すごく大きな力になると思うんです。
※編集部注/アントン・チェーホフ:ロシアを代表する劇作家であり、優れた短編を遺した小説家
──今回、劇中でチェーホフのお芝居を上演するという展開になるのですが、それはそういった村上文学やチェーホフの演劇に共通する、書いた人の身体が刻み込まれた言葉というのを映画で表出させたいという思いからですか。
いえ、見せたいのは言葉ではなくあくまでもそれを口にする身体そのものです。別の身体から生まれた言葉に触発されて生まれる俳優たちの身体の状態、そういったものを連ねていきたいと思っていました。
![](https://www.lmaga.jp/wp-content/uploads/2021/08/drive_my_car_hamaguchi1.jpg)
──原作『ドライブ・マイ・カー』が収められている短編集『女のいない男たち』、そこに入っているほかの2篇『シェエラザード』と『木野』も巧みに採りこまれていますね。
短編集に収録された作品自体がうまくつながっているということがあります。『ドライブ・マイ・カー』に登場するバーはおそらく『木野』の舞台となっている店で、その2作品は具体的につながっているんです。そして、本作の主人公の家福(かふく)という男が辿り着くべき境地は『木野』でたどり着く地点であると自然に読めました。『シェエラザード』も、共同で脚本を書いた大江さんと考えて、何かつながるものがあると感じて。
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