上半期の洋画ベスト3はコレ! 評論家による映画鼎談

2021.9.5 17:15

左から、春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキ

(写真5枚)

「『時間』をめぐる題材がとても良かった」(田辺)

田辺:「『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督にシンパシーを抱いた」とインタビューで話していたのが、『ブータン 山の教室』のパオ・チョニン・ドルジ監督。素人の出演者をいかにうまく使うか、そこで生まれるドキュメンタリズムについて、ドルジ監督は「おこがましい話ですが、その点はクロエ・ジャオと通じるものがあるかもしれません」と。

ちなみに『ブータン』は、僕みたいな「移動動画」「地理動画」が好きな人間にはたまらないものがありました。主人公が目的地の辺境の村・ルナナ村へ向かうまでの移動シーンはずっと見ていられる。

※編集部注/『ブータン 山の教室』:都会好きで歌手を夢見る教師のウゲン(シェラップ・ドルジ)が、標高4800mにあるルナナの学校に赴任し、自分のなかで変化を見出していく作品

斉藤:直近のバス停からルナナ村まで山道歩いて、慣れた脚でも7日間くらいかかるんだよね(笑)。あの道中での出来事も実際に監督が経験したことだとか。

田辺:あと何が良いって、旅の道中、立ち寄る先々の場所が標高何メートルなのか丁寧に出してくれるところ! しかもそういうハードな場所に何人の人間が住んでいるかも明記される。僕はそういう土地データが好きなんで、かなりくすぐられるものがありました。

春岡:残念ながら俺は未見なんだけど、なるほど、それはおもしろいね。

学ぶことに必死なペン・ザムをはじめとする、子どもたち。(C)2019 ALL RIGHTS RESERVED

斉藤:この映画を撮る前の1年間、ルナナ村を往復して、映画を撮るための機材と準備を運び込んだんだって。なんせ電源もないから。そんなちょっとブッ壊れてるところが画面に出てるのよね。僻地に赴任させられる主人公は学校教員なんだけど、「ブータンは世界一幸せな国」みたいなTシャツを着てたりするくせに、本人はそんなの微塵も思ってない。

田辺:本当は、オーストラリアへ行ってミュージシャンになりたいのにね。

斉藤:『ノマドランド』に近いという点なら、出演する村人の現実の境遇も生かしている。とても可愛らしい少女が出てくるけど、お父さんはどうしようもない酔っ払い。それも事実らしいしね。

田辺:あと、アカデミー賞絡みでいくと『ミナリ』がありましたね。いや、おもしろかったですけど、さすがに『ノマドランド』の対抗馬に挙げられるのは違うと思いました。

※編集部注/『ミナリ』:1980年代、農業での成功を夢見て一家でアメリカに移住してきた韓国系移民のジェイコブが、経営に没頭するあまり思わぬ事態を引き起こしてしまう

春岡:ちゃんとした、まっとうな物語ではある。ユン・ヨジョンが助演女優賞選ばれたことも納得できるけどね。

斉藤:すごいといえば、台湾のチェン・ユーシュン監督の『1秒先の彼女』。何をするにも人よりワンテンポ早い女性と、ワンテンポ遅い男性の話なんだけど、案の定ヘンな作品! っていうか。最近のチェン・ユーシュン監督作って観れてないやろ?

※編集部注/『1秒先の彼女』:何をするにもワンテンポ早い女性と常にワンテンポ遅いの男性による、バレンタインデーを巡るラブストーリー

田辺:『ラブゴーゴー』(1997年)、『祝宴!シェフ』(2013年)のイメージが強いですよね。今作も、『ラブゴーゴー』にハマった身としては、あれと通じるものを感じました。「時間」をめぐる題材がとても良かったですね。

※編集部注/『ラブゴーゴー』:台湾を舞台に、複数の男女の恋模様を描くラブコメディ

斉藤:昔のチェン・ユーシュンの映画が好きな人は絶対好きやんな。最近だと、福岡と京都の映画祭でやったままになっちゃった『健忘村』(2017年)とか観て欲しいんだけどね。かなり狂ってるし。

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