上半期の洋画ベスト3はコレ! 評論家による映画鼎談

2021.9.5 17:15

左から、春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキ

(写真5枚)

「Lmaga.jp」の恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々の映画メディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。見逃したのならば、観ておくべき! 2021年・上半期公開の外国映画ベスト3を厳選しました。

文/田辺ユウキ

「こんなに楽しく、刺激的な音楽映画はない」(田辺)

斉藤:これをナンバーワンに挙げるのは、もはや反則レベルじゃないかってくらい素晴らしいのが『アメリカン・ユートピア』!

田辺:大傑作でしたね。観ていてこんなに楽しく、そして刺激的な音楽映画はありません。

春岡:俺も『アメリカン・ユートピア』がナンバーワン。これを観た人の多くは文句なしにそう感じたんじゃないかな。久しぶりにデイヴィッド・バーンのパフォーマンスを鑑賞したけど、改めて大好きだなと。

※編集部注/『アメリカン・ユートピア』:ミュージシャン、デイヴィッド・バーンと11人の音楽家たちによる演奏とダンスパフォーマンスで魅せる音楽映画

映画『アメリカン・ユートピア』(C)2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

斉藤:僕はロックの文脈のなかで、永遠のナンバーワンがトーキング・ヘッズなんですよ。ず〜っとデイヴィッド・バーンのソロアルバムも含めて聴いていて。この映画でチョイスされた曲のコーラス、全部歌えるくらい好き(笑)。

※編集部注/トーキング・ヘッズ:デイヴィッド・バーンが所属していたアメリカのバンド

田辺:『アメリカン・ユートピア』のすごいところは、そういうコア層から、全然知らないライトファンまですべて魅了できるところですね。

斉藤:そういう意味では、トーキング・ヘッズのコンサートをジョナサン・デミ監督が撮った『ストップ・メイキング・センス』(1984年)の延長線上にあるよね。ショーとしてまず素晴らしいからね。あれは深夜帯の劇場を満杯にさせて、1980年代のミニシアターブームを作るきっかけになったけれど、ライブフィルムの域を超えていたから。

映画『ノマドランド』主演のフランシス・マクドーマンド (C) 2020 20th Century Studios. All Rights Reserved.

春岡:抗いようがないおもしろさという意味では、企業が破たんして住む場所を失ったファーン(フランシス・マクドーマンド)が、ノマド(遊牧民)として季節労働の現場を渡り歩く『ノマドランド』もあるね。これもまた「しょうがない」っていう1本。

斉藤:何なんでしょうね、あの美しさは。まさにジョン・フォードの映画のようなアメリカの原風景がそこにありますね。つまり西部劇なんです、流浪人の話だし、それってカウボーイだから。

春岡:そうそう、荒野のなかで「でも私は生きていく」という決意がある。しかも、フランシス・マクドーマンド、デヴィット・ストラザーン以外は登場人物のほとんどが本物のノマド(英語で遊牧民、流浪者の意)で、素人と聞いて驚いた。みんないい顔しているし、喋りもうまい。クロエ・ジャオ監督とマクドーマンドの撮影環境づくりのうまさがわかる。

田辺:マクドーマンドがAmazonの発送センターで働いているシーンのリアルさとかね(笑)。

斉藤:「これがアカデミー賞を獲ったらちょっとすごいぞ」と思っていたけど、本当に作品賞を受賞した。これからのハリウッドの映画の作り方は変わってくるのかもしれない。なんせこの監督の次回作はマーベルですしね!

※編集部注/クロエ・ジャオ監督はマーベル作品『エターナルズ』の公開を11月5日に控えている

春岡:公開は7月半ばなんだけど、アカデミー賞脚本賞を受賞した『プロミシング・ヤング・ウーマン』も予告的に挙げておきたい。主演のキャリー・マリガンはやっぱり良い役者で、彼女が主演賞でもおかしくなかった。まあ、マクドーマンドっていう相手が悪かったよね。

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