谷垣健治監督「ドニー・イェンには、最高か最悪しかない」

2020.12.29 17:15

ドニー・イェンの特殊メイク姿。左遷されてしまい自堕落な生活を送り、体重が急増してしまった刑事フクロンを演じる。(C)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

(写真5枚)

デブゴン・・・といえば、サモ・ハン・キンポー主演の映画『燃えよデブゴン』(1978年)が有名だが、2021年1月1日公開の映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』では、ハリウッドでも活躍するアクション俳優・映画監督ドニー・イェンがオマージュ。暴飲暴食で体重66kgから約122kgへと倍増したドニー演じる刑事フクロンが、事件を解決するために香港と東京を奔走する。

監督を務めたのは屈指のアクション映画監督として名高い、奈良県出身の谷垣健治。映画『るろうに剣心』シリーズ(2012、2014)を手がけ、2021年には最終章、さらにアメリカで『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』を公開予定。これまでもドニー・イェンと数々の作品で信頼関係を築き上げ、アクション映画業界で絶大な信頼を寄せられる谷垣監督に、今回の見どころや逸話などを訊いた(一部ネタバレあり)。

取材・文/ミルクマン斉藤

「『太ったドニー』っていう時点で社会派映画じゃない」

──今回の映画、何回か泣いちゃいましたよ。

え、どこで泣くんですか?(笑)

──昔の香港映画が僕も大好きなんで、あのメイクであれだけ動かれるとやはり全盛期のサモ・ハン・キンポー(洪金寶)を思い出したり。

やっぱりサモ・ハンって、太ってるけど滑稽なことはしないじゃないですか。太ってるだけで意識はブルース・リー(李小龍)だから、そこはドニー・イェン(甄子丹)も踏襲したんですね。今の時代感も含めて、太っているけどカッコいいというのに途中で路線変更したのがあったので、それは正しかったのかなと思います。

──サモ・ハンの映画ってそうですもんね、割とシリアスなものが多いし、ホラーものでもそっちをきっちりやってる。そのあたりがうれしいのはあるけれど、東京タワーでヌンチャク出されたら、そりゃ泣きますよ。

そうですよね。名曲『ドラゴンへの道』のテーマもかかりますからね。

──でしょ? 音楽も然り。

ですよね。音楽が権利的によく使えたなと思って。原曲を現代的にアレンジしてよりドラマティックになってると思います。

で、太ってるけど、東京に来たら最後は東京タワーっしょ?ヌンチャク使うっしょ?音楽も使うっしょ?と、変にアレンジしようとは考えませんでした。ドニーもブルース・リーが大好きだけど、元のデブゴン自体がブルース・リーのオマージュみたいなものだから。

──まんまですもんね。

という意味では「ブルース・リー」リスペクト、アクション的には空間を立体的に用いたり小道具を多用した「ジャッキー・チェン」リスペクトもあるし。まぁ、香港映画リスペクトで作ったと思ってもらって良いです。

──そういうところがストレートに出ているところが。

おっしゃるとおり、ストレートに、変にヒネらなかったというのがね。ヒネらなさすぎや、という話もあるけど、今アクション・コメディが香港映画に無いじゃないですか?

大阪を訪れた谷垣健治監督。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーで、スタントマンとして活躍。2001年に香港映画『金魚のしずく』でアクション監督デビュー

──そうですねえ。かなり殺伐とした路線に傾いちゃってるから。

いつの頃からか、ジョニー・トー(杜琪峰)あたりからかな、活劇で見せるというよりはオフビートな感じの「お?そうくるか?」みたいなのが多くなってきて。いや、僕も好きなんですよ、ああいう映画。

だけど、「太ったドニー」っていう時点で社会派映画はだれも期待してないしね(笑)。そういうところでは娯楽映画を真っ当に作ったという感じです。

──でも、そういうドニーさんの路線を決定づけた『SPL/狼よ静かに死ね』(2005年)のタイマンバトルがパロディとして回想シーン的に入ってたりする(笑)。

あれは、権利的に使わせてもらえなかったからわざわざ撮り直したんですよ。(オリジナルでの対戦相手の)ウー・ジン(呉京)は出ないだろうからフィリップ・ンっていうウォン・ジン(王晶、本作のプロデューサーであり長年にわたり香港映画のヒットメイカーであり続ける監督)の会社と契約しているアクション俳優に来てもらって。ちゃんと当時の場所に行って、当時と同じ服を着て、カット割りも同じようにして、オチだけちょっと変えるっていうね。

もう一つ、『導火線FLASHPOINT』(2007年・ドニー・イェン主役)のシーンも入れ込んでいます。「俺はベトナム三兄弟を倒したり」とか台詞だけでクスッとするところだったのが、ドニーが絶対これは画面入れないとお客に伝わらん!とか言い出して、これは本編の映像を借りることができました。

だから、本撮影があって、編集があって、そのなかでこれちょっと足りないよねって。東京タワーも中国で作ったやつをまた香港で作り直したんですよ。

──なんでそんな2カ所で撮ることになったんですか?

撮り終わったあとにヘリコプターとの絡みが少ないよなって。それで、ヘリコプターが接近してきて危ないって言う絡みをやっぱり撮るべきだったなということで東京タワー作ったんですよ。

──あれ、全部作ったんですか?

いや、一部ですけどね。東京タワーを香港で作ったら名所になりますよ(笑)。

──あはは。でも合成ですよね。

もちろん。ただ、アクションしてるステージは全部作りましたし、ヘリコプターも。警視庁の資料を見て美術部が原寸大で。

──すごいですねぇ。

いやぁ、すごいっすよ。なんちゃって歌舞伎町もね。僕らはただの背景じゃなくて、歌舞伎町をアクションの舞台にしなければダメだから、美術部に割り切って「アクションをするための歌舞伎町」を作ってくれと。

──それも含めてアクション・コーディネートされたんですね。

そうですね。実際の歌舞伎町で、アクションをできるかと言ったらできないと思うんですよ。東京タワーなんてもっとできないじゃないですか、そう言う意味ではセットで撮って良かったなと思います。

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