少年事件と私刑の今を問う「処罰感情が、加害者をより凶悪に」

2020.6.2 20:45

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会

(写真5枚)

「非行少年にとって教育こそが重要な罰なのでは」

──あと、話そのものが抜群におもしろい。「法で裁けないなら私刑で」というネット上の書き込みが登場しますが、それが物語に重要な意味をもたらします。過激なバッシングに熱狂する大衆、それに苦しむ加害者家族、その狭間で葛藤する被害者家族が描かれています。

ただ、過剰なバッシングは被害者の救済には繋がりませんし、加害者を贖罪から遠ざけることになる。絆星役の上村侑くんと母役・黒岩よしさんによると、バッシングが過激化した場面を演じていると、被害者の顔が浮かばなくなったそうです。

──演じながら、そういうメンタルに陥ったわけですね。

攻撃から身を守ることにしか意識が向かなくなる、と。本作の加害者とその家族も罪と向き合うことをやめてしまう。当然本人の責任もありますが、嬉々として私刑をおこなった者たちのせいでもあるはず。そして、自己満足的な処罰感情が加害者をより凶悪なモンスターに育てていく。

──たとえば炎上案件における特定や晒しなど、「私刑」は定番化していますよね。そして、それはもう止められない風潮になっている。悪いことをした人に対する処罰感情は誰にでもありますが・・・。

本作でも事件に直接関係ない者たちが処罰感情に駆られて、加害者やその家族を激しく糾弾する。社会正義という大義名分があるから、彼らは自身を肯定し、より過激化します。処罰感情にもまた中毒性がある。

ですが、被害者の立場を利用して、処罰感情を発散することは、独りよがりな自己満足に過ぎません。僕自身も、本作を企画したモチベーションは怒りでした。少年事件における加害者が十分な罰を受けていないんじゃないかという怒り。でもいろんな文献を調べていると、それが表面的だったことに気づきました。

内藤瑛亮監督。絆星と桃子が手を繋いで歩くシーンでふたりの背後を新幹線がカットインする強烈な場面は「芝居に合わせて良いタイミングで新幹線がガーッと通過するところを絶対に撮りたかったので、かなり粘りましたね」

──何が表面的だったのでしょうか。

たとえば少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引きさげる問題。大人と同じ刑法を受けると、65パーセントが起訴猶予で終わるんです。35パーセントは裁判所へ送致されるけど、ほとんどが罰金や科料で終わる。刑務所に入ったとしても内省は求められず、刑務作業を淡々とこなしていればいい。

──なるほど。

少年法は全件送致主義。すべての少年が家庭裁判所に送致されます。そこでは少年が非行行為をした背景が調べられ、少年の矯正処遇では教育的な働きかけがあり、内省を求められる。

再犯率は成人受刑者より少年の方がはるかに低い。刑務所勤務の方に聞いた話ですが、少年院と刑務所の両方に入ったことがある人は、『少年院の方が反省を求められるから、刑務所よりきつい』と言ったそうです。非行少年にとって教育こそが重要な罰なのではないでしょうか。

──教育こそが罰というのは盲点でした。

実情をよく知らないまま、厳罰化した方がいい=少年法の適用年齢を引きさげろ、と考えている方も少なくないはず。でも安易に決めつけをしないで、調べていくことが大事です。この映画がそういう動きのきっかけになってほしいです。

『許された子どもたち』

2020年6月1日(月)公開
監督:内藤瑛亮
出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃、ほか
配給:SPACE SHOWER FILMS
関西の上映館:テアトル梅田、出町座(6/12〜)、元町映画館(6/20〜)

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