少年事件と私刑の今を問う「処罰感情が、加害者をより凶悪に」

2020.6.2 20:45

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会

(写真5枚)

「母親に責任を擦りつける社会の圧力があると考えています」

──そんな絆星が気持ちを委ねるもうひとりの相手が母親です。ただ、この母親は絆星への愛情が過度で、彼への守衛的本能がすごい。鑑賞者は彼女を憎らしく思うはず。

絆星の母親は息子の無実を妄信しています。ただ、親ならば世界中を敵に回しても、子どもの味方でいたいという心理はある。あと、誰しもが加害者家族になり得ますし、そう思って生きなければいけません。

加害者家族=特殊と考えることは、自分の家族に起こり得る不幸から目を逸らし、加害者少年の贖罪や更生の支え手となる家族を不当に傷つけ、不寛容を助長することになります。

──本作でも、どうしてもそういう先入観で母親を観てしまいますね。

加害者家族支援をおこなうNPO法人「WorldOpenHeart」の阿部恭子理事長によると、現代の非行少年の家庭は、いわゆる普通の家庭であることが多いそうです。貧困や虐待といった分かりやすい不幸が見当たらず、少年を凶行に駆り立てた背景が不透明なんです。

──たしかに絆星ももともとは不自由のない家庭で育っています。それに家庭内では親思いのかわいらしい息子。母親からしたら「こんなに良い子が人を殺すわけがない」となるはず。

臨床教育学博士・岡本茂樹さんが著書『いい子に育てると犯罪者になります』で解説されていたのですが、親の前で良い子を演じて蓄積した負の感情は、犯罪という形によって噴出することがあります。でも親は、子どもの良い面しか知らないから、信じられない。自分の子どもが加害者であることを受け入れられなくなる。

母親(写真左)が行方不明になった絆星を探すために立ち上がる場面の撮影は「マイケル・ベイ監督の映画を意識しました。人物を中心に据えて、カメラが旋回するワークがよく登場しますが、あれをやろうと思いました」2020『許された子どもたち』製作委員会

──たしかに、絆星の母親は何があっても受け入れません。

子どもが過ちを犯してしまったら、受け入れることが大切です。それは決して甘やかしではない。また、しつけは母親がするものという古い家族観が、この社会に縛られていることも問題。本作の母親が過剰な行動をしてしまう背景には、母親に責任を擦りつける社会の圧力があると考えています。

──たとえば親子でカラオケのシーン。思春期にも関わらず親とにこやかにデュエットする絆星が、暴力性を備えているとは想像できませんよね。しかもそこで歌われているのが『キミに会いにいく』というピースフルな曲です。ちなみにどこかで聴いたような歌詞とメロディなので既存曲かと思ったら、内藤監督が作詞したオリジナル曲なんですよね。

岡本真夜さんの『Tomorrow』や内田有紀さんの『幸せになりたい』を参照して作りました。あとは西野カナさんとか。「詩的な暗喩はなく、思ったことをそのまま詞にする」「とにかく前向き」が作詞のテーマです。

──映画におけるカラオケシーンは、その人物の心情や願望を表現するものとしてよく描かれます。

そうですね。富田克也監督の『国道20号線』(2007年)のカラオケ場面の影響もあります。主人公の同棲女性が安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』を歌います。結婚を求めながらも、それが叶わない状況の痛々しさが露わになっていましたよね。

あと、川崎中一殺害事件の加害者家族がカラオケ好きだった、ということもあります。また、これは恋愛の歌なので、それを母子が歌うことで近親相姦的な気味の悪さを意図しました。

『許された子どもたち』

2020年6月1日(月)公開
監督:内藤瑛亮
出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃、ほか
配給:SPACE SHOWER FILMS
関西の上映館:テアトル梅田、出町座(6/12〜)、元町映画館(6/20〜)

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