少年事件と私刑の今を問う「処罰感情が、加害者をより凶悪に」

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会
実際の事件をモチーフとした『先生を流産させる会』(2012年)で衝撃的な長編デビューを飾った、特別支援学校(旧養護学校)で教員として勤務していた経験もある内藤瑛亮監督。その後の作品でも鬼才の片鱗をうかがわせてきたが、6月1日から順次公開される新作『許された子どもたち』は、いよいよ著名な映画賞やベストテンの上位に食い込みそうな気配が漂っている。
同級生を殺しながらも、少年審判で無罪に相当する「不処分」を言い渡された少年。しかし、そんな彼に世間はSNSはもちろん、家族へも激しいバッシングを食らわせる。さまざまな少年事件から着想を得て、「あなたの子どもが人を殺したら、どうしますか?」と問いかける同作。自主映画として8年間かけて挑んだ作品について、内藤監督に深く踏み込んで話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ
「誰しもが加害者家族になり得ますし、そう思って生きなければ」
──短編『牛乳王子』(2008年)から12年。ついに内藤監督のキャリアを代表する傑作が生まれましたね。
自分としても代表作が完成したと感じています。初長編『先生を流産させる会』以降の8年間、思い悩んだことが反映されています。あの作品の公開時、あるご批判を受けました。モデルとなった実際の事件では犯人が少年だったにも関わらず、少女に変更した点です。「男性の罪を女性に擦りつけたミソジニストだ」というご批判がありました。
編集部注:ミソジニスト(女性、もしくは女らしさを嫌悪する人)、ミソジニー(女性や女らしさを嫌悪すること、女性嫌悪といった意)
──映画のなかでは女子生徒たちが先生を流産させるためにいろいろ仕掛けますが、元になった事件は男子生徒が給食に異物を混入させたんですよね。
「男性の罪を女性に擦りつける」と受け取られるとは想像もしておらず、また実際の犯人の少年たちの暴力性を、男性である僕が描かなかったことは確かに問題で、反省しました。
当時はミソジニーという言葉も知らず、それに関する文献を読むようになり、現在も勉強しています。そのなかに「女性嫌悪に陥る男性は男らしさに囚われ、男らしさによって自分自身を苦しめている」という指摘がありました。
──それはどういうことでしょうか。
本作にも反映しているのですが、男らしさに囚われた男は、弱い自分を受け入れられず、強い自分を演じようとするんです。そのときに女性や社会的弱者を傷つけたとしても、強い自分を獲得することが優先されてしまいます。

──つまりそれが、主人公の少年・絆星(きら)とその仲間であると。
絆星はもともといじめの被害者だった。でもそんな弱い自分を許せず、否定するためにいじめる側にまわり、強い自分を演じるようになる。加害者少年グループは男らしく演じることを嬉々としておこなう。そして女性蔑視的な言動をする。
序盤、案山子(かかし)を破壊する場面があるじゃないですか。最初に壊すのは女性を模した案山子なんです。そのほかにも、それを示唆するところがあります。
──『先生を流産させる会』から連なってきた内藤監督自身の経験が今作にあらわれているのですね。
絆星はのちに、弱い自分を受け入れてくれる少女・桃子と出会います。ただ、彼女との関係を進めることは、弱い自分を認めることになる。だから彼は躊躇するのです。
『許された子どもたち』
2020年6月1日(月)公開
監督:内藤瑛亮
出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃、ほか
配給:SPACE SHOWER FILMS
関西の上映館:テアトル梅田、出町座(6/12〜)、元町映画館(6/20〜)
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