松本穂香「見て欲しい、愛されたいという気持ちで演じた」

2020.3.21 21:00

大阪府堺市出身でもある松本穂香

(写真7枚)

NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で注目を集め、ドラマ『この世界の片隅に』や、映画『わたしは光をにぎっている』など今、次々と主役を務める女優・松本穂香。作家・菊池真理子コミックエッセイを映画化した『酔うと化け物になる父がつらい』で演じるのは、アルコール依存症の父、新興宗教にすがる母、モラハラ&DV彼氏・・・はたから見ると不幸でしかない人生を淡々と過ごしていく主人公の田所サキ。この役をどんな思いで演じたのか、撮影現場について話を訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤 撮影/南平泰秀

「家族ってすごいやっかいだなと思います」

──松本さんには2019年の『おいしい家族』という作品がありましたが、今回もまた「難儀なお父さんシリーズ」といいますか(笑)。

確かにそう言われてみるとちょっと変わったお父さんが続いてますよね。でも、 『おいしい家族』は監督が描くユートピアみたいな世界でしたね。

──今回はユートピアでは済まないわけで。

そうですよね。ぜんぜん真逆ですね。

──サキのお父さんに対する感情が、歳と経験を重ねるにつれ変わっていくじゃないですか? 最初は泥酔して帰ってきても、カレンダーに×印をつけるくらいで。さすがに三十路になるとそうもいかず、放ったきり。そうなったらそれでまた感情に揺れが生じて、訳もなく自分を責めるようになる。

お父さんというよりも、自分が悪いのかな、っていう風になってしまうんですよね。

──観てる方からすると「いや、全然あなたは悪くない」って思えるんだけど、どんどん内省的になっていって、その逃げ道を漫画という表現に求めるという。そんな感情を監督とどんなセッションをされたのかなぁと。

監督と役について話し合うことはほとんどなかったです。ただ、そのシーンごとに違和感があれば、調節し合うみたいな作業はありました。俯瞰した距離感っていうのかな、×印つけるのを止めたからと言って本当に(お父さんのことを)あきらめたわけではなく、やっぱり見て欲しいとか愛されたいっていう、歳を取ってもずっと変わらない気持ちを通していたから、多分大丈夫だったのかなぁと思っています。

左が、父役を演じる渋川清彦。©菊池真理子/秋田書店 ©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
左が、父役を演じる渋川清彦。©菊池真理子/秋田書店 ©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会

──お父さん役の渋川清彦さんは、もうずいぶん経歴も長いですし、クセのある役はそれこそいっぱい演られてきたけど、こういう精神的な弱さのある、ある意味ふつうの父親役というのは案外なかったんじゃないかな、と。ダメダメ人間なのにどこか愛嬌あるし。

なんか憎めないですよね。一緒に演じさせていただいてすごい方だなと思いました。ほかの人が演じていたらもっと違う感じになっていたかもしれないなと思います。

──といっても、やってることはアレなんで。どう弁護のしようもない感じはするんですけれども(笑)。

本編を見ると結構ですよね。 渋川さんご本人とは現場では、最初の「おはようございます」と「おつかれさまでした」くらいでほとんどしゃべらなかったです。

──え、そんな方なんですか?

いえ、普段はそうではないみたいです。役的にサキもお父さんもコミュニケーションしないという関係で、そこでどんどんお互いの気持ちもわからなくなってしまい、そのまま別れてしまうお話なので。そんなに仲良くなっちゃダメだろうし、自然とそうなっていったんじゃないかな、と思います。

松本穂香が演じたのは、高校生から30代までの田所サキ
松本穂香が演じたのは、高校生から30代までの田所サキ

──お父さんとの関係性において、カレンダーが重要な小道具になってますよね。サキが冒頭、壁にかかっていたカレンダーを剥がすと、『何か』にサキの目がじっと据わる。そして、物語が始まると×印が増え、ある夜にお父さんがカレンダーにおこなった『何か』が、エピローグで判明するという。いわば、カレンダーを用いた枠構造になっています。最初と最後のシーンは、撮影のどのあたりで撮られたんですか?

最終日に撮りました。元々はその予定ではなかったんですが、スケジュールに変更が出たりで。今となれば、それで良かったなぁと思います。あとから聞いたら、監督さんもカメラマンさんも、メイクさんも一緒に泣いてくれていたみたいで、だからみんなでひとつになれて撮れたんだと思います。感情的には、それまでに積み重ねてきたものがあるので「お父さん、お父さん」しか最初に出てこないとか、「ずるい」とか「遅い」とか、でも「悲しい」とか。本当にいろんな感情がぐちゃぐちゃになって。でも、もう(お父さんに)伝えることが出来ないっていう悲しさがそのまま出た気がします。

──冒頭で「化け物は本当は私だったのかもしれない」とサキは言います。その後、お父さんの行状を観た観客としては、決してそうじゃないよ、と声をかけてあげたくもなるんですけど。でも自らを責めるようにそう言ってしまう主人公に、感情を向けることは出来ましたか?

理解出来たというか、少なくともその時は本当にそう思わないと。感情をどこにも持って行きようがないし、どこにも向けようがなかったです。後から考えたら、そうじゃないなと思うんですけれど、なぜ、あのときはこうしてあげられなかったんだろう、っていう気持ちが出てきちゃうのは判ります。

──お父さんがついに倒れたときに、「一日でも長く生きてもらおうとは思わなかった」とも言ってしまいますしね。正直にも。

複雑な感情ですよね。いなくなったらいなくなったで悲しいし。

──かといってそんなに良い思い出もないし。

そうですね。家族ってすごくやっかいだなと思います。

『酔うと化け物になる父がつらい』

2020年3月6日(金)公開
脚本・監督:片桐健滋
脚本:久馬歩(お〜い!久馬)
出演:松本穂香、渋川清彦、今泉佑唯、恒松祐里、濱 正悟、浜野謙太、ともさかりえほか

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