恒例の評論家鼎談、邦画・勝手にベスト3
2019.8.3 18:00

「この映画は、物書きの音楽に対する嫉妬」(春岡)

斉藤「あと、最高に強烈なのが、穐山茉由監督の『月極オトコトモダチ』!」

田辺「上半期のインディーズ映画のなかで、最大の驚きでした。物語の運び方が抜群です」

斉藤「穐山監督はケイト・スペード ジャパンの社員で、PRマネージャーしてるねん。で、30代になって、映画美学校に通って、今回が初の長編映画。『MOOSIC LAB 2018』でグランプリを獲って、社員をしながら映画を撮ったという」

春岡「へぇ、面白いね。『月極』ってことは、ブランド品をシェアするような話?」

斉藤「いや、レンタル友だちの話。レンタル彼氏とかあるやん。男女は友だちのままで関係を続けられるかという、まさにラブコメディ的命題そのものを扱ってるんだけど」

田辺「役者の演出もお見事でした」

斉藤「主演は徳永えり。やっぱりさすが上手い! 昔から力はあったけど、『わろてんか』でいい役(トキ)やって、30歳を超えてから大活躍よね。また相手役の橋本淳がいいのよ」

春岡「橋本って、劇団☆新感線の?」

斉藤「違う、違う。橋本じゅんじゃない。舞台の出演は多いけど、橋本淳はこれで映像でも完全に売れるでしょ。アラサーの編集者・望月那沙を演じるのが徳永で、レンタル友だち業をやっている柳瀬草太役が橋本。で、那沙の女ともだち・小野珠希に、芦那すみれ。芦那って、シンガーソングライターのBOMIやねんな。俺、一緒にトークショーやったのに、知らんかった」

田辺「そうそう。芦那すみれって、BOMIと同一人物なんです」

映画『月極オトコトモダチ』のワンシーン(左が芦那すみれ)画像一覧

斉藤「で、シンガーソングライターの珠希が、音楽を通じて柳瀬と距離を縮めていくのを見た那沙が、2人の仲を嫉妬するのよ。柳瀬とは友だちのはずなのに。と同時に、ネットマガジン編集者の那沙は、レンタル友だちとの関係性をルポにしている」

春岡「あぁ、なるほど」

斉藤「那沙は、自分を表現するためにどうしたらいいか、言葉をどう操ったらいいか、を考えているという」

春岡「それ、突き詰めると、表現としてモノを書くより、という話だよな」

斉藤「そう、物書きとしてのジレンマがあるわけ。音楽って、いきなりセッションするじゃない。でも、言葉はそういうことはできない。つまり、『MOOSIC LAB』が目指している、音楽×映画の実験室という・・・」

春岡「それこそ、『MOOSIC LAB』の最大の意味だもんな。この映画は、物書きの音楽に対する嫉妬だよ。物書きの人間は、どうあっても音楽には敵わないもん。またそれを恋愛絡みで描いていて、自分の気になってる人が、音楽で軽く持ってかれちゃったりした日には、すげえ立場ないよな」

映画『月極オトコトモダチ』のワンシーン(左から橋本淳、徳永えり)画像一覧

斉藤「色彩と空間の使い方が素晴らしくて。けっこう突き詰めた真面目な話ではあるんだけど、空の抜け感が爽やかで。ラブコメディの枠から外れそうで外れない、ということを分かってやっている。1作目でこれって末恐ろしいな」

春岡「大人だよなぁ、やっぱり。ちゃんと社会人として、広報の仕事もやってるという意味が、そういうところで出るよな。机上で映画の勉強をしました、とは違う強さがある。本人は映画監督志望なんだよね?」

斉藤「いや、もう映画監督になっちゃった、完全に。だって、誰よりも映画監督やもん、こんなん撮っちゃったら。一昨年、『MOOSIC LAB』でグランプリ獲った岩切一空監督の『聖なるもの』も僕らは絶賛したけど、『月極オトコトモダチ』はメジャー感がスゴい。その差は大きい」

次頁:「人の死で感動したの、久しぶりでした」

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