盗難で唯一戻った仏像の右手、特別公開

2018.11.3 05:00

東京文化財研究所の化学分析の結果でも「白鳳時代の金銅仏として矛盾がない」という結果が出たという香薬師像の右手。高さ8.6センチと小ぶりで可愛らしい

(写真4枚)

長らく所在不明になっていた「新薬師寺」(奈良市高畑町)の香薬師像(国指定重要文化財・銅造薬師如来立像)。2015年に発見されたその右手が、約70年ぶりに同寺で公開されている。

白鳳時代(美術史の時代区分で645~710年頃)の仏像のなかでも傑作と名高い香薬師像は、新薬師寺創建に由来し、光明皇后が念持仏としてあつく信仰したと伝わる美仏。明治期に2度の盗難で両手足が切り離され、3度目の盗難(1943年)で行方知れずになった受難の仏像として知られている。

これまで、ノンフィクション作家・貴田正子さんと新薬師寺・中田定観住職の調査により、同像の右手だけが盗難を免れていたことが判明。しかし、その右手も寺から流出しており、長らく所在不明になっていた。その後、右手は鎌倉の東慶寺で保管されていることがわかり、2015年に確認。奇跡の大発見として話題になった。

法隆寺の夢違観音像(国宝)、深大寺の釈迦如来倚像(重文)と並び、「白鳳三仏」として知られる新薬師寺の香薬師像のレプリカ。この3像は似通った点が多い事で知られる
法隆寺の夢違観音像(国宝)、深大寺の釈迦如来倚像(重文)と並び、「白鳳三仏」のひとつ・香薬師像のレプリカ。この3像は似通った点が多い事で知られる

寺に戻された右手は、安全のため「奈良国立博物館」へ寄託。今回は『正倉院展』の期間にあわせ、本来安置されていた新薬師寺で約70年ぶりの特別公開となる。「香薬師様は、光明皇后の一番大事な念持仏なので、聖武天皇と光明皇后ゆかりの正倉院御物と同じ価値があるもの。(右手だけではあるが)正倉院展期間中に参拝できるのは本当に意味がある事です」と中田住職。

群馬県から訪れた女性(60歳)は、「戦時中という時代もあり、お寺の善意が裏切られる形で盗まれ、残念な気持ちですが、貴田さんの尽力や、多くの善意でようやく右手が姿を現されたのでうれしい。本当に本体が出てきて下さったらいいなと思う」と熱心に右手を見つめた。

公開は11月12日まで、ご本堂(国宝)内一角のケースにて、朝9時から夕方5時まで。拝観料は大人600円、中高生350円、小学生150円。

取材・文・写真/いずみゆか

『香薬師像右手 特別公開』

日程:2018年10月27日(土)〜11月12日(月)
時間:9:00~17:00
会場:奈良市高畑町1352 新薬師寺ご本堂内一角
電話:0742-22-3736
拝観料:大人600円、中高生350円、小学生150円

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