目隠しで作った愛犬の彫刻、神戸で作品展

2018.7.28 07:00

作品《お出掛け犬》を説明する中ハシ克シゲさん。軽トラックの助手席に愛犬「サン」を乗せてアトリエに通う際、中ハシさんはサンの鼻を触ることが多いと言う

(写真5枚)

「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で1989年からおこなわれている名物企画『美術の中のかたち-手で見る造形』、29回目の今年は『触りがいのある犬-中ハシ克シゲ』展で、11月4日までおこなわれています。

通常は目で見る美術作品を、本展では触って鑑賞できます。視覚障害者が美術に親しむ機会を設けるのと同時に、視覚優位の美術のあり方そのものを問う企画なのです。

中ハシが本展のために制作したのは、自身の愛犬をモチーフにした油粘土の塑像です。触っても壊れたり、汚れたりしないよう、表面に樹脂が塗布されています。彼が日々愛犬と接するなかで記憶に刻まれたポーズを造形化していますが、興味深いのは中ハシが目隠しをして(=視覚を遮断して)塑像に挑んだということです。

《お座り犬》床に座り、「お手」をしている愛犬「サン」。ちなみに犬種はコーギー

普通、彫刻家が作品を作る時は、全体と部分を何度も見直します。また、前後左右上下あらゆる角度から造形を検証します。しかし、触覚だけで制作すると、そういう訳にはいきません。必ずある1点を起点に造形をおこなうことになり、全体像をチェックできないのです。また、自分が触れなかった部位や手が届かない場所は作ることができません。

こうして出来上がった作品は、視覚的にいびつな形の部分があり、なかには内部の骨組みが露出しているものもあります。しかし中ハシにとっては、自分が愛犬に触れた時のフォルムを忠実に反映しており、触覚的にはきわめてリアルな造形なのです。

ときに触覚は、視覚以上に人間の記憶や感性を刺激します。本展で目を閉じて(もしくは目隠しをして)作品に触れたとき、ペットとの触れ合いや赤ちゃんとのスキンシップを思い出す人も多いでしょう。そこには目で見る作品とは違う、もうひとつの美術の地平が広がっているのです。料金は一般500円。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『美術の中のかたち-手で見る造形 触りがいのある犬-中ハシ克シゲ』

期間:2018年7月7日(土)〜11月4日(日)※月曜休(9/17・24・10/8開館、9/18・25・10/9休館)
時間:10:00~18:00(特別展開催中の金土曜~20:00)※入場は閉館30分前まで
会場:兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)
料金:一般500円、大学生400円、70歳以上250円、高校生以下無料 ※障がいのある方とその介護者1名は無料
電話:078-262-0901

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