独立後初の長編作、米林宏昌監督の挑戦

2017.7.19 20:00
(写真3枚)

「あの楽器を教えてくれたのは、高畑勲監督」(米林監督)

──今回もまた米林監督らしい、非常に緻密なミニアチュール趣味ともいえる美術があちこちで見られますよね。

最初はもっと絵っぽさを出したおおらかな美術を、久保(友孝:「でほぎゃらりー」所属の美術監督)さんからは提案されたんですけれども、やっぱりお客さんの立場に立ったら、本物に見えててほしい。筆ムラを減らしてもらったりディテールを加えていくうちに、どんどん細かくなってきて(笑)。

──やはり米林作品には、細密な美術は欠かせませんから。

美術の力というのを信じているので、今回も美しいシーンをどんどん入れていこうと思って。実際にイギリスにロケハンに行って、向こうで感じたものや、植物などの自然物、調度品などの描写は作品に取り込んでいっていますね。

──異世界に入って、エンドア大学に着く直前の雲海の様相もすごかったですね。魔法世界に降りてきたところの風景はかなり幻想的で、ロジャー・ディーン(世界的に有名な、イングランドのイラストレーター、アートデザイナー)みたいな感じもちょっとあって。

ああいう光の加減を作り上げられるのが、31歳の若い久保さんなんです。『思い出のマーニー』冒頭の公園シーンや、マーニーと杏奈が背中合わせになってるポスターを描いてくれたり。その持ち味を十二分に活かした作品にしたいなと思ったので。結構難しいことをやってるんですよね、夜明け前から夜が明けるまでをカットごとに描いてくれたり。

──物語が1日ちょっとの話だから、陽の光の移ろいというのが大事になってきますものね。

それがうまく描ければ美しい作品になるだろうし。原作からそうなんですけれども、けっこう夜が舞台になっているので。夜に旅立つシーンの光源を何にしようかとかね。真っ暗になってしまいますし(笑)。シーンごとに工夫しながらなんとかやり遂げました。

ジブリ退社後、初の長編作品『メアリと魔女の花』を完成させた米林宏昌監督

──前2作に続いて・・・と言っていいと思うのですが、今回もまたケルティックな音楽ですね。最初から最後までハンマー・ダルシマーがずっと響いていて。

あの楽器を教えてくれたのは、高畑勲監督なんです。

──そうなんですか。高畑監督の映画で聴こえましたっけ?

いや、高畑監督は使っていないんですよ。「こういう楽器がありますよ」と教えていただいて、調べてみると、メアリの世界観に合いそうだなと。で、村松(崇継)さんに頼んで作曲してもらったんです。村松さんもダルシマーを使った演奏はしたことはなかったので、アメリカの演奏者ジョシュア・メシックさんにお願いして。SEKAI NO OWARIの間奏の部分もダルシマーを使っているんですけれども、日本ではメロディーを演奏できる人が見つからなくて、結局それもジョシュアさんにお願いしました。物語のなかから最後の主題歌へ上手く移っていけたので良かったなと。

──米林作品では特殊な音色を用いた音楽もひとつの重要な要素ですよね。前もハープだったり、ギターだったり、室内楽的で繊細な音楽が映画にぴったりでした。

弦楽器を使うと、「響く」というか、センチメンタルなリズムが演出できるんです。今回は飛行シーンなどに、ダルシマーの音が合うだろうなと思っていました。それにメアリが後半、そのダルシマーの流れるなかピーターを救うために走っていく。一貫してダルシマーがメアリの走っているシーンに合わせることで、よりメアリを応援したくなるようになったなと思って。毎回いろんなものに助けられながらやっているわけですよ、音楽であったり、声であったりとかね。

──でも、1本の映画を作るのにそうした細かいひとつひとつの要素は大切ですよね。

そうですね。音楽が付くことで見えてくるシーンがあったりとかしますからね。作画が遅れていたので、音楽をつけるタイミングもすごく逼迫して、かなりギリギリのところだったのだけれども、まぁ結果的に良いものが上がって、さすが村松さんだなと思いましたね。

映画『メアリと魔女の花』

2017年7月8日(土)公開
監督:米林宏昌
出演(声):杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、遠藤憲一、渡辺えり、大竹しのぶ
配給:東宝
TOHOシネマズ梅田ほかで上映

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