河瀬直美「挑戦しないと作る意味ない」

「『映画内映画』の存在自体、挑戦だった」(河瀬直美監督)
──とはいえ、監督の現場ではムダな私語は禁止されていますが、永瀬さんはちょっと気を遣っていただいたと。
まあ、藤さんですからね。藤さんも、合間を縫って仕事を入れない人なんですよ。『愛のコリーダ』(1976年・大島渚監督)に出演されて以降、大きな事務所を離れて、個人事務所でやられてきていると思うんですね。当時、『愛のコリーダ』というのはセンセーショナルな作品だったので、相当覚悟を決められたと思うんです。で、そこからはそういう作品の関わり方をされている人だから、ちゃんと分かっていただいている。そういう人は別に(ほかの俳優と)接触しても大丈夫なんだけど、なにも分かってない人が、役を全うしている最中の永瀬くんに全然違う話をするのはちょっと・・・ということです。
──今作でもそうですが、藤竜也さんの役者としての重みがすさまじいですね。
もうね、半端ないですよね。すべてにおいてレベルが違う。脚本に書かれていることは当然やりつつ、そこに深みを持たせながらちゃんと表現もできる人なんで。ほとんどなにもオーダーがなかったですね。
──なるほど。そんな今回の映画『光』、すごく興味深く拝見させていただいたんですが、複雑に組み立てられつつ、なおかつ、多角的に物事を考えさせられる脚本ながら、1本の道で繋がった映画に仕上がっています。監督がこれまで描かれてきた「生きること」。それと同時に、「映画」についても多重的に描かれていますよね。
「映画内映画」が存在していること自体、やっぱり挑戦だったし、そこでまた映画の表現じゃなくて、音声ガイドの表現を使って映画を語るということだから、何重の構造にもなっているので、非常に複雑な数式を解くみたいな。それでいて、映画を観た人がそれを解かないと観られないのではなく、シンプルなストーリーにしないとダメだったんで。

──これまで、映画で「映画」について語ったことはなかったですよね。
そうですね。やっぱり、できるかどうか分からないからやるんです。つまり、自分がこれだったらできるだろうと思うことをやっても仕方ないというか。自分自身が、スキルアップできない。だから、挑戦していかないと作る意味が無いんじゃないかなと思うんです。映画監督って、1年に何本も作れるわけじゃないから、やっぱりこの時期、このときに、これしか作れないというものに挑戦していくんです。
──そのあたり、映画として形になるかどうか、見えてくるのはどのあたりですか?脚本の段階とか?
(撮影完了後の)編集ですね。
──えっ、そこですか!?
ええ。だから編集において、あらゆる可能性を残すような撮り方をしてます。
──たとえば、映画の中盤に、障がい者の方が音声ガイドを作る美佐子(水崎綾女)に、「映画ってすごく、広い世界を生きてるんです」という諭す場面があるじゃないですか。目の見えない方々が言う重みもあって、すごく胸に突き刺さると同時に、映画そのものの深さを思い知らさせるシーンですが、あれは・・・。
あれは即興。セリフも彼女から出てきた言葉です。
──即興ですか!あのシーンはどういう想定で撮影されていたんですか。
彼女が参加した音声ガイドのモニター会に、私も同席したんです。だから、どのようなことを言うのかは分かっていて、彼女をキャスティングしました。彼女の紡ぎ出す言葉の美しさは、一度お会いしただけなんですけど、やっぱり感じていたので。

──あのシーンでは、誰よりも映画を愛して、映画のなかで生きることを楽しみにされている方だな、と思いました。
うん、そうですね。
──それと同時に、監督の映画に込めている想いというのも、同じように感じられました。あのセリフを聞いたとき、どういう思いでした?
私だけでなく、あそこにいた俳優陣全員が、あの言葉に感動しました。強いて言えば唯一、美佐子だけが分かってなかった(苦笑)。作り手として、脚本の段階ではおそらく雅哉(永瀬正敏)がそれを言わなきゃいけなかったんです。でも、雅哉ではなく、本当の視覚障がい者の方が言ってしまった。
──あのシーンでは、美佐子の分かってない感じがすごく出てましたね。
あれがリアルなんですよ。
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