もはや名人芸、深川栄洋監督の映画術

2011年、『白夜行』『洋菓子店コアンドル』『神様のカルテ』の3本の作品が公開され、35歳という若さながら、現在の日本映画界を代表する監督のひとりとなった深川栄洋(ふかがわ・よしひろ)監督。
高校生のピュアな恋愛から、人間の心の深淵を覗き込むような問題作まで多彩な作品を手掛けつつ、常に高い評価を得てきた手腕はすでに名人芸と呼ぶべき域に達している。5月26日公開の最新作『ガール』を軸に、その映画術を紐解いてみよう。
取材・文/春岡勇二 写真/バンリ
深川映画術・その1 キャスティングの秘密
「香里奈さんはどちらかというとテレビ的な、切り取ったワンシーンの雰囲気に合わせてお芝居される方なのかなと思っていたのですが、それだけじゃなかったですね。演出の意図に沿って演技の質を変化させる対応力のある女優さんでした。演じてもらった広告代理店勤務の由紀子というキャラは、女性の生き方についてちょっと勘違いしているところはやはりあると思うんです。だから、前半の演技はなにも考えないキャラとして突っ走ってもらい、生き方に悩み出した中盤から後半はブレーキをかけて、手探りで何かを見つけるといった演技に変えてもらったのですが、香里奈さんはきちんと応えてくれました。ルックスに目が行きがちですけど、実は僕らが思ってる以上に演技の引き出しの多い方でした」(深川)

映画『ガール』は、人生に様々な悩みや歓びを抱える4人の女性の物語。演じるのは、香里奈、麻生久美子、吉瀬美智子、板谷由夏の美人女優たち。一度一緒に仕事をすると、俳優たちから「ぜひ、もう一度」と望まれることの多い深川監督だが、それは俳優たちにやさしいからではない。むしろ逆で、要求するものは高く、指導は厳しい。だが、それに応えることで、自分の中から新たな可能性を引き出してくれることを俳優たちも理解しているのだ。深川監督と俳優との信頼関係は、そんなプロ同士の、互いを高め合おうとする意識のなかに生まれている。
「今回、麻生さんには苦しんでもらいました(笑)。初めに、これまでのソフトな麻生久美子はいりません、ハードな一面を出してくださいと言ったんです。麻生さんは『わかりました。やってみます』と言ってくれて。大企業の中間管理職。それも男社会の中で抜擢された女性という役柄で、相当ストレスがたまってるようでした。でも、そのストレスこそ役に合っているわけで、役のためにストレスを維持してほしくて、休み時間にもさらに嫌味なことを僕は彼女に言ったりしてました(笑)。撮影終了後、『しんどかったー!』って、彼女本気で言ってましたからね。でも、それだけの成果があったことは、彼女の演技を観ればわかってもらえると思います」(深川)

「吉瀬さんは喜怒哀楽の振幅の大きい役で、泣いたり笑ったりしてもらったんですが、観ていてとても新鮮でした。彼女はあんな風にシクシク泣くんだ、あんなに大きく笑うんだっていう驚き。それが、ひと回り(12歳)年下の男性に惹かれる女性という役柄にも合っていて面白かった。仕事にも子育てにも孤軍奮闘するシングルマザーを演じてもらった板谷さんには、『頑張らせてよ!、私、頑張るって決めたんだから』っていう彼女の台詞に役柄のすべてを凝縮してもらいました。以前から僕の中に、女性はこういう覚悟の決め方をするんだという思いがあって。実は今回、僕自身の思いを一番反映させたのは、板谷さんのいくつかの台詞なんです。板谷さんにはそういう役割を担ってもらいました」(深川)

深川監督が描き分けることに留意したと言う主役の女性たちが素晴らしいのは当然だが、深川映画の見どころのひとつは、主役の脇の、それもどちらかと言えば小さめの役に魅力的な出演者を配している点だ。『ガール』では、主人公の女性たちの母親を演じている女優陣に注目してほしい。少女時代の香里奈の母を演じているのは、『真木栗ノ穴』『白夜行』『洋菓子店コアンドル』にも出演し、深川映画の常連とも言える粟田麗。『洋菓子店コアンドル』に続き、今回もほとんど顔が映っていないような役だが、やさしい母親像で存在感を示している。彼女の出演も深川監督への信頼の賜物だろう。麻生久美子の母親役はベテランの左時枝。そして、吉瀬美智子の母親を演じているのが天光眞弓だ。西川美和監督の『ゆれる』や、大宮エリー監督の『海でのはなし。』にも出ているが、映画出演はそう多くはない。ただ、小演劇のファンの人には、女性ばかりで非常に質の高い舞台を創出していた劇団「青い鳥」の設立メンバーのひとりとして知られている。そういえば『真木栗ノ穴』では、主人公の西島秀俊と関係を持つ中年女性の役で、「劇団M.O.P.」の看板女優だったキムラ緑子を起用していた。こういう人をキャスティングする目の配りが、深川監督のニクイところなのだ。
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