もはや名人芸、深川栄洋監督の映画術
2012.5.29 12:00

もはや名人芸、深川栄洋監督の映画術

深川映画術・その2 キャラクターの秘密

「僕が一番気に入っているのはお光です、そう言って檀れいさんを口説きました。檀さんにこの役を演じてもらいたくて。嘘じゃないですよ、お光をいいなと思っているのは。お光は、若づくりって陰口を叩かれているような、ちょっとイタイ感じの女性。でも、年齢には不相応かもしれないけど、いつまでも派手で可愛い服装を楽しみたいっていう気持ちは女性なら誰しも持っていると思うんです。お光はそれを堂々と実行している。しかも、仕事は抜群にできるから、表立っては誰にも何も言わせない。カッコイイですよね。さらに彼女は、周囲の反応も含めて自分のことを自覚している。実は一番大人かもしれない女性です。役柄について檀さんとは現場でも何度も話し合いました。檀さんに演じてもらって、お光のキャラクターは何層も深まりましたね」(深川)

檀れいが演じた「お光」こと光山晴美 © 2012 "GIRL"Movie Project
檀れいが演じた「お光」こと光山晴美 © 2012 “GIRL”Movie Project画像一覧

深川監督の言葉どおり、主人公「由紀子」の会社の先輩である「お光」は、檀れいの好演で映画の中でもひときわ光る存在感を放ち、そのキャラクターの厚みは原作も越えてしまっている。このキャラクターを大きくしたり深めたりする造形のうまさが、深川映画の大きな魅力だ。『ガール』では、4人の女性主人公の相手役となる男性陣も見逃せない。演じるのは向井理、上地雄輔、要潤、林遣都という顔ぶれ。彼らのキャラクターについて、深川監督は独特の考えを話してくれた。

「4つのキャラクターで一人の『男』になる」と深川監督
「4つのキャラクターで一人の『男』になる」と深川監督画像一覧

「向井さんに演じてもらった香里奈さんの恋人は、茫洋としていて、女性を喜ばせるようなことはまるで言わないタイプ。でも、突っ走りがちな恋人をきちんと受け止めて見守る器の大きさがある。要さんは『女は家にいて、家庭を守っていればいいんだ』という旧い考えの持ち主。上地君は、妻の方が自分よりもキャリアや収入が上でも気にしないマイペースな夫で、やはりある意味度量の大きい男。林君は超イケメンなのに純朴で素直な青年、といった感じなんですが、実はこの4つのキャラクターって、どれも男というものが持つ、ひとつの局面だと思うんです。というのも、この映画では女性が自分の視野に入れたいときにしか男性が現れないから(笑)。だから、4つのキャラクターを併せると一人の『男』になる。女性たちが向き合わなきゃならないのは、この普遍的な『男』なわけです」(深川)

男性4人のキャラクターのなかで、深川映画として注目すべきは、要潤演じる「今井」。麻生久美子演じる女性課長の年上の部下で、仕事がかなりできることもあってキャリア・ウーマンを馬鹿にしている。女性から見ればすごく嫌な人物だ。実は、深川映画には、こういう性格の悪い人物がときどき登場するのだが、面白いのは、他の映画と違って彼らがほとんど反省したり、人間として成長しないことだ。『洋菓子店コアンドル』では、蒼井優演じる主人公がそうだった。恋人を追って鹿児島から上京してくるのだが、それはけっこう思い込みで、恋人の方はもう別れたつもりでいるのに自分の考えを押し付ける、そんな女の子だった。仕事のパティシエとしては成長するが、性格は最後まで変わらない。ではなぜ、深川映画ではそうなのか? それは、深川監督が、人間なんてそう簡単に変われるものではないということを知っているからだ。物語の都合に合わせてキャラクターを成長させたり変えたりすることは、実は楽なのだが、深川監督はそんな嘘はつかない。だから、深川映画は信用できるのだ。

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