僕らが「日活ロマンポルノ」にハマる理由
2011年1月に開催された神代辰巳監督(ロマンポルノのエース)の回顧上映が大ヒット! これを受けて急遽、日活ロマンポルノの名作25作品を一挙に上映する企画が決定した(2011年5月21日〜)。誕生から40周年となる今、かつての青少年はもちろん、映画好きを中心に女性にも人気が広がっているロマンポルノ。
観れば必ずトリコ、現代の商業映画には絶対真似できないキョーレツな作家性とは・・・? 「日活ロマンポルノこそ、我が青春!」と言い切る2人(高橋聰と春岡勇二)が交わす(蒸し)暑い会話から、その魅力、さらには観るべき作品たちを検証してみよう。
取材・文/廣田彩香
高橋聰
大阪日日新聞編集員。1946年福岡県生まれ。映画記者生活40年。「おおさかシネマフェスティバル」委員長。駆け出し時代に取材で多くの日活ロマンポルノの女優、監督と出会い、公私ともの親交を持つ。
春岡勇二
映画評論家。1958年島根県生まれ。学生時代、土曜日はたいてい日活の映画館に居た。新旧のロマンポルノを観ていた。社会からハミだした者たちに、「それでも生きろ」と言うドラマがうれしかった。
ロマンポルノが、監督にチャンスを与えた!
春岡「僕は中学・高校は田舎だったんだけど、日活ロマンポルノの話は耳に入ってて、それは観たくて観たくて。大学進学で大阪に出て観られたから、1977年頃からか。アウトサイダー・・・いわば『社会からハミだした者たち』のドラマ、そこに注がれる視線の温もりが、社会不適応者予備軍だった僕にとって、とても心地よかったんだよなぁ」
高橋「僕なんかはもろ、リアルタイム。1971年の夏に日活のNKマークがなくなる(日活が映画製作を一時中断した)っていうんで、ファンは感傷に浸ってた。そしたら11月に突然、日活ロマンポルノと銘打って成人映画に路線変更すると。どんなもんかなと観てみれば、目が一点に固まるぐらいすごかったなぁ!」
春岡「それまでにもピンク映画はあったんだけど、日活ロマンポルノは日活の撮影所が使えた、っていうことが大きいですよね」
高橋「撮影所には機材がそろっているからね。予算こそ安いけど・・・ピンクで300万円、そしてロマンポルノは750万円の予算なんて言われてたかな。そこに若い監督を、どんどん起用したんだよね」
春岡「ロマンポルノ路線になったからって、日活がスタッフを新しく雇ったわけじゃないから。『ポルノなんて撮れるか!』と言って辞めた人も少なからずいたんだけど、『映画撮れるんだったら何でもやる』『俺たちの時代がきたな』って、それまでどっちかというと不遇だった人たちに、スポットライトが当たった。神代辰巳(※註1)なんて、1968年にデビューしたものの、デビュー作の『かぶりつき人生』がコケて干されてたんだよね。それが、ロマンポルノで復活して大ブレイク。僕は、神代さんが日本で一番好きな監督ですね」
※神代辰巳(くましろ・たつみ):生々しい人間の生(=性)を見つめる日活ロマンポルノの帝王として、海外ファンも多数。代表作は、名作と賞賛される『赫い髪の女』など。
高橋「日活ロマンポルノの制約は、ただ映画1本のなかにセックスシーンを3回入れれば良いだけ。だから自由なんだよね。神代は干されてた4年間、一般映画を作るつもりで書き溜めしてた脚本を、ロマンポルノに直しただけだから。だから彼の作品は、完璧な青春映画だ」
高橋「海外でも、特にアジアの監督はけっこう、日活ロマンポルノに影響を受けてるんだよね」
春岡「台湾のツァイ・ミンリャン監督の『愛情萬歳』。あれって絶対、曾根中生監督の作品観てますよね?」
高橋「韓国のキム・ギドク監督も絶対観てるね。あと『浮気な家族』のイム・サンス監督も、影響受けたって自分で言ってたもん。『ロマンポルノで、ほかにどれを観たらいいですか?』って本人に聞かれたからね」
春岡「だけど1970年代当時は、やっぱりロマンポルノって差別はされてた。ポルノを観るなんてなんだ、ってバカなこと言うヤツもいたし。むしろ今のほうが、映画的に市民権を得てる。けど、僕らがなんでロマンポルノを観つづけていたかというと、やっぱり単純におもしろいから。圧倒的な作家性がある」
高橋「職人技だもんね。70分そこらの尺で、充分おもしろいんだから」
春岡「いわゆるプログラムピクチャー・・・東映のヤクザ映画のような、プログラムを埋めるためにつくられたB級映画がプログラムピクチャーなんだけど、それこそ実は、職人たちの腕の見せ所だった」
高橋「2時間だらだら流れてる今の映画を観たらほんと、腹が立つよ。あんなん70分でできるじゃないか! ロマンポルノの爪の垢でも煎じて呑め! っていう。神代辰巳なんかは、海外でも特集上映が組まれるほどロマンポルノを代表する監督だし、この名作選ではほかにもすばらしい監督がいることを知ってほしい」
春岡「今回はラインアップにないけど、田中登監督の『人妻集団暴行致死事件』なんて、すっごい名作。今やってるつまんない映画に金払うより、ロマンポルノを2本観たほうが絶対おもしろい!」
『日活ロマンポルノ名作選』
期間:2011年5月21日(土)~6月10日(金)
会場:シネ・ヌーヴォ(大阪市西区九条1-20-24)
料金:前売1回券1000円、3回券2400円、フリーパス券12000円
電話:06-6582-1416(シネ・ヌーヴォ)
※全作品R18指定(18歳未満は鑑賞不可)
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