2020年上半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

2020.7.24 20:15

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会

(写真5枚)

今年は新型コロナウイルスの影響で、映画館の休業や公開延期など、新作を観る機会が失われてしまっていた上半期。上映された作品数は少なかったかもしれないが、観ておくべき作品は多数。

数々の映画メディアで活躍し、Lmaga.jpの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2020年・上半期公開の日本映画、ベスト3を厳選・・・したいところが、その枠に留まることなく厳選。

文・編集/田辺ユウキ

「やっぱり『今は今泉力哉だ』となったね」(斉藤)

田辺「2020年の上半期は新型コロナウイルスの影響で、映画の劇場公開が中断、延期が相次ぎました。もちろんマスコミ試写会も全部中止。そんななか、まさか上半期ベストの座談会をやるなんて!」

斉藤「もし公開延期がなかったら、上半期は行定勲監督、今泉力哉監督がものすごいことになっていたんだよ。行定さんは『劇場』『窮鼠はチーズの夢を見る』がもともと上半期に予定されていた。どちらも今年1番を譲れないくらい圧倒的。で、さらに外出自粛中にリモートで2本の映画を作った。これがまた傑作だったんだよね」

田辺「そのひとつが、行定監督が新型コロナの状況下ですぐに脚本を書いて、高良健吾たちに話を振った『きょうのできごと a day in the home』。リモート飲み会を若者たちがやっていて、他愛のない話をずっとしている。でも所々、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(2016年)の話などが出てくる。で、『あのモノクロの映画を撮っている人。何だっけ。あの映画、良かったね』『誰だっけ?』とか。この話が後半にちょっと効いてきたり」

春岡「リモート飲み会でジャームッシュの話をするとか、雰囲気がぴったりじゃん」

斉藤「ZOOMでの撮影だから、たまに音声が途切れたりするのよ。でも、ワンテイクでそのまま突っ切って撮り直ししない。声のズレも込み。それが次第に、ひとりのヒロインをめぐる恋愛ドラマに発展していく」

田辺「有村架純ですよね。柄本佑の元嫁役。で、『どうやら全員と関係を持っているぞ』と」

斉藤「そのあたりの展開と芝居が全員上手い。行定組の役者で固めてね。MOROHAのアフロだけが、『俺はみんなの事情を知っていたけど黙っていた。彼女に憧れていた』とかさ。で、その次に撮ったリモートの『いまだったら言える気がする』は、アイナ・ジ・エンド(BiSH)が抜群だったね」

田辺「作品の公開延期がなかったら本来は行定監督が上半期の話題の中心だったし、でも新型コロナの影響下という点でも、行定さんのリモート作品は大きなトピックスですよね」

宮沢氷魚演じる迅、藤原季節演じる渚と、娘・空役の外村紗玖良 Ⓒ2020映画「his」製作委員会

斉藤「その点、今泉監督の『街の上で』が2021年春まで公開が延びたとはいえ、『his』『mellow』が1月に劇場公開されて、どちらも素晴らしかったし、やっぱり『今は今泉力哉だ』となったね。『his』は今泉さんのなかではちょっと画が弱くて「もっとやれる」と感じたけど、でも話が感動できる」

春岡「物語的というか、映画的というか。これまでの今泉映画より分かりやすくなっていたけど、それで良いと思ったんだよ。宮沢氷魚、藤原季節がオープニングシーンでセーターを交換して、それで『別れようか』『えっ?』のくだりは特に素晴らしい。あと松本穂香ね。劇中、宮沢氷魚に振られちゃっても、藤原季節との関係を『素敵ね』と言えたり、あと藤原季節が連れてきた女の子の世話をしてあげたり」

田辺「今泉さんはどの作品を観ても、今の時点の社会の問題意識や空気感も繊細に察して物語化しますよね。その上で、ラストで女性が宮沢氷魚、藤原季節のことを『もうええから』と受け入れてくれるカタルシスもちゃんとあります」

斉藤「今泉映画としてはかなりドラマティック。そもそもドラマ版も丁寧で出来が良かった。あのふたりの高校生時代の話なんだけど。『his』も良いけど、僕は『mellow』やなあ」

田辺「役者と監督の肌のあいかたは絶妙に良かったですよね」

斉藤「これまでも日常運転系で、三角関係四角関係の映画をたくさん撮っているけど、妙に空気が心地よい。主演の田中圭も『おっさんずラブ』シリーズの印象が強いけど、これは一味違う。今泉映画が合うんだろうね。田中圭はこれまで山ほど映画にも出ているけど、ついに大きな結果を出したなって思ったよ」

田辺「今泉監督は昨年からの快進撃もあるし、『his』『mellow』もベスト級なんですけど、近年はこの座談会でも今泉作品はずっとランクインしているので、あえてもう入れなくても良いかなって(笑)と思ったりもします」

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