2020年上半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

2020.7.24 20:15

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会

(写真5枚)

「演出力は大したもの、前田悠希監督のこれから期待したい」(斉藤)

斉藤「日本を舞台としたという意味で『東京不穏詩』も僕は入れておきたい。インドのアンシュル・チョウハン監督のとんでもない傑作。元々はゲームのCGクリエーターなんだけど、ゲーム要素もインドっぽさも皆無。田舎出の女の子がデートクラブで娼婦をしていて、ヒモに絡まれたりするから、金を持って逃げてくる。で、田舎に帰ったらDVしていた親父やちょっと惚れていた純朴な男の子と再会して。『東京不穏詩』というタイトルだけど、田舎に逃れてきてからの方が物語はおもしろい」

春岡「あの映画では主演の飯島珠奈を始め、役者さんたちの力に驚いた。ほとんど知らない人ばっかりだったけど、みんな与えられた役を充分にこなれた感じで演じていて。自分の不勉強もあるけど、まだまだいい役者さんいっぱいいるんなだなあって改めて思わされたな」

田辺「アニメーションでは岩井澤健治監督の『音楽』にも触れておきたいです。登場人物が歩くところの横移動、引きの画、間合い。絵も、大橋裕之の原作のキャラクターがそのまま動いているような。バンドが音を鳴らす瞬間の気持ちの躍動を、音もそうですけど絵でちゃんと表現できた点はきわめて画期的だと思います」

斉藤「ドラムとベース2本で音楽を作って、ライブするところね。あれは燃える。いや、リミテッド・アニメーションならではの使い方がすごく上手いんですよ。岩井澤監督のアニメーターとしての感覚、リズムが良いよね。ほかには、誰も触れたがらないだろうけど『Fukushima50』も俺は普通におもしろかった」

田辺「あと『ワンダーウォール 劇場版』も僕は好きです。京大吉田寮の取り壊し問題を題材にしていますが、寮のなかのオールジェンダーの話だったり、年の差があっても敬語を使わないだったり、でもそんな吉田寮内でも時代の流れと価値観に変化が出ているという。「ここには壁がない」と思っていたけど、そうじゃない。実はめちゃくちゃ現実的な物語で、こういう場所でみんなが目を覚ましてしまう瞬間こそがもっとも残酷だっていう」

斉藤「脚本の渡辺あやはやっぱり唯一無二ってことが分かった作品だよね。天才的なホンしか書けない、っていう」

田辺「渡辺あやは京大出身ではないけど、『その街のこども』(2010年)然り、事実に関する徹底的なリサーチをもとに各人物感情に寄り添ったホンを丁寧に書く。それがあらわれていた」

斉藤「あと撮影もすごいよ、コレは。もともとNHK京都放送局の2018年の地域ドラマだったけど、僕はその年のナンバーワンだった。1時間ものとして完璧だったから、劇場版は良かったんだけど、あれで完結したものでもあったから最後の演奏シーンを入れたのはどうかなって思うよね。とはいっても、前田悠希監督の演出力は大したものだし、これから映画監督として期待したい」

春岡「上半期ベストってことでいくと、やっぱり『37セカンズ』。これは間違いないだろう。そして、僕は『his』」

斉藤「Lmaga.jpは関西のメディアだし、せっかくなら『ワンダーウォール 劇場版』を入れても良いんじゃないかな。作品としても、もちろん素晴らしいので。あと『初恋』『音楽』あたりも」

田辺「『許された子どもたち』も外せませんよ。というか、もともとベスト3を選ぶ企画ですけど、もはやそれでは収まりきらなくなっていますね」

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