2020年上半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

2020.7.24 20:15

主人公の少年・絆星を演じる上村侑。2020『許された子どもたち』製作委員会

(写真5枚)

「タナダユキ監督は、ためらいがない」(田辺

斉藤「あとセックスを描いた映画ということで、タナダユキ監督の『ロマンスドール』ね。ここまで突っ走ってくれる作品とは思わなかったよ」

田辺「そういえばタナダユキ監督自身、それこそ『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!』(2006年)のとき、出演者としてセックスシーンとかやったりしていましたよね。だからというわけでもないですが、撮る上でもためらいがない。セックスをちゃんと撮った映画でした」

斉藤「高橋一生の映画では一番いいんじゃないかな。若い頃からいろいろと出ていたけど、晩成型ではあるよね。周りからチヤホヤされるようなポジションになってはきても、『自分はここの位置じゃない』という感じがあった気がしていた。でも徹底的な受けの演技をしていて、ついに自分の居場所を見つけた映画というか。あときたろうね。助演男優賞もののボケっぷりが最高」

春岡「『ロマンスドール』の高橋一生は普通の男女関係における男前と言うより、どこか屈折したところがあって、それがすごい色気になっている」

田辺「タナダユキ監督はだれが見ても、二枚目みたいな役者を活かすのがメチャクチャ上手いですよね。あとベッドシーンが見てて面白い。それこそ、さっきの『あんたセックスしたことあるの』ですよ」

春岡「あと、上半期といえば豊島圭介監督の『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』ね」

田辺「豊島監督はインディーズホラーの『怪談新耳袋』シリーズの印象が強くて、近年も『森山中教習所』(2016年)、『ヒーローマニア-生活-』(2016年)だったので、三島由紀夫のドキュメンタリーをやるってところにちょっとびっくりしました。ドラマ、映画を膨大に撮っているけどドキュメンタリーはなかったですよね」

斉藤「僕は三島由紀夫関連をほぼ全部追いかけているんだけど、三島と芥正彦の対話がここではやっぱりおもしろいのよ。新潮社から全書き下ろしも出ているんだけど。ものすごく高い次元でひたすら言葉を闘わせていて、ある種の知的ユートピアなんですよ。喧々がくがくの論戦じゃなくて、ほぼ両者のベクトルは同じ。でも天皇を受け入れるか受け入れないかだけが食い違ってるというか。TBSが全部撮っていて、YouTubeにも断片的にあがっていたし。僕はそれを観ていたから、その一部が映画になったって感じなんだよね」

春岡「討論会が1969年の5月で、翌70年の11月に三島は亡くなる。それが分かっているとあの対談は一段とおもしろくなる。また、あの芥があの後どうしてるのかと思ったら、最後に出てきて普通のメチャクチャかっこいい親父になってるんだよ!」

斉藤「相変わらずレベルが高いというか、はぐらかしの芸が完成したというか(笑)。というか芥は結果、誰にも理解されずにやっていた。だけど演劇やパフォーマンス界では彼の名前は誰でも知っている。そんな芥の問いかけって、美学的な抽象性であったり、誰もついていけない博覧強記だらけなんだけども、三島だけは全部理解できて、親切にも噛み砕いて言葉にしている」

春岡「芥の話はみんな分からない。そこへ『今の君の話はおもしろかった』と三島が出てくる。そして解説して、みんな「そうだったのか」と考え直す。芥の方が気持ちのなかでは「ありがとうございます」と思っているよね。それを言わないし、言えないけれども、たばこに火をつけたりしているのがその現れだったりする。ああいう場面ががすげぇ良いんだよ」

斉藤「三島が自決したとき、みんな、芥と同じ思いだったと思うのよ。本当に自分の理想的な死に方をした、という部分でね。あそこで芥も方向性を見失ったのかもしれない。三島のスター性、知性がやっぱりすごいね」

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