映画『国宝』のロケ地となった劇場も特別公開で賑わい『京都モダン建築祭』開幕…今年の注目建築は?

5時間前

鴨川沿いでひときわ存在感を放つ建築は、花街・先斗町の芸妓さんや舞妓さんの練習や発表の場となる場所「先斗町歌舞練場」一般の人はなかなか訪れることができない内部を公開するとあって、公開日の11月1日には大勢の見学者が訪れた

(写真20枚)

京都の近代建築を特別公開するイベント『京都モダン建築祭』が10月31日に開幕。5回目となる2026年は、10月31日・11月1日と11月7日・8日の計4日間、計61件の建築が特別公開に。(見学には同建築祭のパスポート購入が必要)

西側には「先斗町歌舞練場」の文字

今回は、そのなかから京都の風物詩『鴨川をどり』の会場として知られ、映画『国宝』(2025年公開 李相日監督)のロケ地としても話題の「先斗町歌舞練場」(京都市中京区)に注目。同建築祭の実行委員長・笠原一人さん(京都工芸繊維大学 准教授)の解説とともに、見学者で賑わう現地の様子をレポートする。

関係者や来場者しか入ることができない「先斗町歌舞練場」の劇場内部を特別公開

◆ 「劇場建築の名手」が手がけた「先斗町歌舞練場」…映画『国宝』ロケで使用された場所は?

『京都モダン建築祭』での「先斗町歌舞練場」特別公開の様子

大林組の技師・木村得三郎氏の設計により、1927年(昭和2年)に竣工。木村氏は「劇場建築の名手」として知られ、2026年5月に閉館となった「大阪松竹座」も手がけている。また、「関西近代建築の父」と称される武田五一氏が設計顧問として携わっている。

西側からみた「先斗町歌舞練場」の外観

吉沢亮、横浜流星らが歌舞伎役者を熱演し、大きな話題となった映画『国宝』では、いくつかのシーンがこの場所で撮影された。(そのほか京都では「南座」「上七軒歌舞練場」など複数の劇場でロケを行っている)

『京都モダン建築祭』で賑わう「先斗町歌舞練場」ロビー。建物はいってすぐのこの場所も映画のシーンで登場

茶色のタイルや「なまこ壁」を思わせる外観に、見覚えがある人もいるだろう。映画では「浪花座」という設定で、喜久雄少年(黒川想矢)と半次郎の妻・幸子(寺島しのぶ)が、建物の前でハイヤーから降りるシーンや、玄関に入る様子をホールから捉えたシーンはじめ、複数の場面が撮影された。

客席に入るドア。金色の持ち手が、劇中の重要シーンでも登場している「先斗町歌舞練場」

今回の建築祭では、撮影に使われた玄関ホールやロビーはもちろん、舞台や1階、2階の各観覧席も公開された。来場者たちは、座布団が敷かれた桟敷席をはじめ、ほぼ全ての座席に実際に座ることができた。

2階の桟敷席から舞台を見下ろす「先斗町歌舞練場」

さらに、舞台に上って花道を歩いたり、演者の目線で舞台から客席を眺めるといった、普段はなかなかできない体験も。多くの人が、思い思いに写真を撮りながら見学を楽しんでいた。

舞台に上がって客席をみるという貴重な体験「先斗町歌舞練場」

◆ 「先斗町歌舞練場」の魅力とは?『京都モダン建築祭』実行委員長が解説

同建物の魅力と注目ポイントについて、笠原さんに解説してもらった。

まず注目したいのは、鴨川から見える東面で、屋根の軒下に窓が水平に連続して配置されていたり、その下に3つの縦長窓が配置されていたりするところだ。これは、当時流行したフランク・ロイド・ライトがよく用いたデザインである。

フランク・ロイド・ライト風の外観のデザインに注目「先斗町歌舞練場」

ライトは、旧帝国ホテルを設計したアメリカ人建築家。完成した「帝国ホテル」が、1923年の関東大震災で被害を受けなかったこともあり、ライト風建築が日本で一大ブームとなった。そういう時代背景も反映していることがわかる外観だ。

また外壁は、表面を釘などで引っ掻いて模様をつくった後に焼成する茶色のスクラッチタイルで覆われているが、これはライトが設計した「帝国ホテル」で採用したことに始まるもので、1920年代から30年代に全国的に流行した。

ひとつひとつ観察したいスクラッチタイル「先斗町歌舞練場」

一方で、屋根は和風の瓦屋根になっており、中国の蘭陵王の舞楽面を型取った鬼瓦が置かれている。ライトだけでなく、さまざまな要素が混ざっていることがポイント。

中国の蘭陵王の舞楽面を型取った鬼瓦「先斗町歌舞練場」

先斗町通りに面した西面は、鉄筋コンクリートの上から装飾タイルを貼って、日本のお城や土蔵でよく見られる「なまこ壁」のようなデザインにしている。陶器のような色むらには日本らしさが感じられる一方、タイルを用いているという点が近代的だ。「材料の扱いを見ても、和と洋が融合しているという捉え方ができます」と笠原さん。

西側には美しいタイル装飾「先斗町歌舞練場」

玄関を入ると、階段のヘリや壁に異なるタイルが貼られていて、レトロでかわいらしい。『京都モダン建築祭』で館内の案内係を務める「建築ナビゲーター」から、「階段のタイルは遊び心で1枚だけ逆さに貼られている」という解説があり、見学者たちはじっくりタイルを観察しながら、特別な1枚を探していた。

エントランスから中に入ってすぐレトロでかわいらしいタイルが次々に登場「先斗町歌舞練場」
「芸事には終わりがない」ということで、あえて1枚だけタイルを逆さにして「未完成」に「先斗町歌舞練場」

また、普段は出ることができないベランダから見る鴨川の景色も貴重だった。

2階休憩所や、ロビーの窓などからも鴨川の景色が楽しめる「先斗町歌舞練場」

赤いシートと先斗町の紋章の千鳥をあしらった提灯が印象的な劇場内は、鉄筋コンクリート造ゆえに柱のない大空間を実現している。天井は、日本の伝統的な折り上げ格天井になっていて、格縁が1本ではなく、2本になっていることで華やかさを演出。このように和と洋の要素を巧みに融合した、唯一無二の貴重な劇場が、今も現役で使われていることも大きな魅力のひとつだろう。

千鳥をあしらった提灯が並ぶ2階から1階客席を見学「先斗町歌舞練場」
劇場内で千鳥モチーフを探すのも楽しい「先斗町歌舞練場」

◆ そのほか京都で見ておきたい、おすすめ建築は?

今回紹介した「先斗町歌舞練場」以外にも、笠原さんに今回の建築祭で公開されたおすすめの建物を聞いた。

笠原さんが挙げたのは、実業家・谷川茂次郎氏(雅号・茂庵)が手がけた上質な賃貸住宅群「碧山居(谷川住宅群)」。世界的建築家・安藤忠雄氏が手がけた商業建築「TIME’S」。「同志社女子大学」の武田五一氏設計の「栄光館」と「ジェームズ館」。

安藤忠雄氏が手がけた商業建築「TIME’S」
水辺がこんなに近い建築はなかなかない。多くの人が「建築ナビゲーター」の解説に熱心に聞き入っていた建築「TIME’S」

この3つはいずれも、2026年の『京都モダン建築祭』において、初めてパスポート公開された建物18件に含まれる。すでに『京都モダン建築祭』での公開日程は終了しているため、見逃した人や、近代建築に興味がある人は、笠原さんが建物の見どころを詳しく解説しているYouTubeチャンネル「けんちくチャンネル」もチェックしてみては?

取材・文・写真/太田浩子

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