【京都・老舗の継承】地球温暖化でピンチ…? 京都で237年続く名店が「みりん粕の奈良漬」を守り続ける理由

1時間前

「田中長奈良漬店」7代目・代表取締役の田中長兵衞さん(2026年9月撮影)

(写真10枚)

京都人に長年愛されている手土産のひとつに、寛政元年(1789年)創業、「田中長奈良漬店」(京都市下京区)の奈良漬『都錦味淋漬(みやこにしきみりんづけ)』があります。7代目の代表取締役・田中長兵衞さんにお話を聞きました。

■完成までに1〜2年、江戸時代から続く製法

奈良で生まれた「奈良漬」は、野菜を塩漬けして「酒粕」に漬け込んだ食品。平城京から出土された木簡に「かすづけ」と記されていたことから、奈良時代から野菜の保存食として食べられていたと考えられています。

「田中長奈良漬店」の奈良漬『都錦味醂漬』
「田中長奈良漬店」の奈良漬『都錦味醂漬』

一方、「田中長奈良漬店」は、初代・田中長(和泉屋長兵衞)が創業時にみりんの醸造を行っていたことから、酒粕のほかに「みりん粕」も利用して奈良漬をつくり始めました。もち米の甘さが感じられる“みりんの風味”を大切にした奈良漬として、「都錦味淋漬」は登録商標を取得しています。

同店の奈良漬は、野菜を2回塩漬けしたあと、酒粕とみりん粕を合わせた「粕床(かすどこ)」に段階的に漬け替えながら塩分を抜いていき、旨みをのせていきます。最初は野菜から出た塩分を多く含んだ使い慣らした粕どこに漬け、そこから塩分濃度を変えた粕床に段階的に付け替えていき、最後は酒粕とみりん粕と調味料の「さら粕」で味を整えて仕上げます。漬け替えは合計7回ほど。完成まで1年半から2年かかります。

昔からの手作業でつくられる「田中長奈良漬店」の奈良漬。こちらはウリの塩漬けをしています(提供画像)
昔から今も変わらず手作業でつくられる「田中長奈良漬店」の奈良漬。こちらは昭和時代の写真。ウリの塩漬けをしています(提供画像)

漬け込みは手作業で、つくり方も創業時からほぼ変わっていません。ウリやスイカ、キュウリなど、野菜の種類はあるものの、商品は都錦味淋漬のみです。飲食店には卸しておらず、料理人さんも一般の人に混ざって直接購入に訪れます。「『良い商品を、誠実な商いで』をモットーに仕事をさせていただいております」と田中さん。

同店の都錦味淋漬をいただくと、シャキシャキやパリパリ、サクサクなど野菜ごとに異なる歯ごたえがあり、みりんの甘みがプラスされたまろやかな酒粕の香りとコクが口の中に広がります。定番の野菜のほか、ショウガやゴボウ、ニンニクなどがあり、過去には季節限定でフキ、ソウメンカボチャ、松茸などもあったそうです。白米との組み合わせは鉄板。鰻屋では、お口直しとして鰻の蒲焼きにも添えられてきました。

現在は空調管理された倉庫で熟成されます
現在は空調管理された倉庫で熟成されます

そのほかにチーズと組み合わせたり、奈良漬タルタルソースにしたり、チャーハンの仕上げにパラパラとかけるのもおすすめだそう。「奈良漬っていうと馴染みのない方もいるんで、そういう方に向けて何かとっかかりなれば」と、アレンジレシピもホームページなどで多数提案します。

2021年に発売した「奈良漬バターサンド」も、新しい奈良漬の楽しみ方として人気がありましたが、現在は製造体制の再構築のため販売を休止中。なるべく早く再開できれば…と準備しているそうです。

田中さんが子どもの頃は、祖母や母が容易する賄いにも必ず奈良漬がありました
田中さんが子どもの頃は、祖母や母が用意する賄いにも必ず奈良漬がありました

現在72歳の田中さんが代々続く「長兵衞」を襲名したのは約8年前。姉が二人いる長男で、特に継ぐように言われたことはなかったそう。ですが、生まれた時からお店の2階に住み、小さい頃にはウリがお店に運びこまれる景色や、仕事をする両親を見て育ちました。そのため「いずれこの商売をするのかな」と自然に思っていたそうです。

大学は同志社に進み、先代に就職先は自分で探すように言われた田中さんは、「1回は京都から出たい」と考えます。そして「第一生命保険」に就職し、福井県や神奈川県、福岡県で合計6年間勤めました。「大学まで京都から出ていなかったので、京都以外を知れて、全く違う業種を経験できてよかった」と振り返ります。

奈良漬をカットして袋に詰める「詰め場」
奈良漬をカットして袋に詰める「詰め場」

昔から変わらず手間と時間をかけてつくる奈良漬ですが、原材料の野菜は、以前つくっていた品種や産地ではつくれなくなってきています。

漬物に使用する野菜は、大きくなる前に収穫し、その場で塩漬けにするところまでを農家の方々にお願いしています。移動による傷みを防ぐためのこの作業は、非常に手間がかかり効率も悪いため、引き受けてくださる農家を探すだけでも一苦労です。さらに地域の高齢化も深刻で、「自分の代で終わりにせざるを得ない」と明かす農家が何軒もあるなど、「農家の後継者不足」も大きな課題となっています。

酒粕とみりん粕を合わせた「粕床」に段階的に漬け替えます(提供画像)
酒粕とみりん粕を合わせた「粕床」に段階的に漬け替えます。こちらも昔から変わらず、今も同じ工程をしています(提供画像)

さらに、清酒やみりんを搾ったあとの酒粕・みりん粕は、春先に酒造家から引き取り、タンクで4か月ほどかけて熟成させてから使用します。しかし近年は気温上昇の影響もあり、熟成中の粕の色が以前より濃くなってしまうという変化が起きているそうです。

「元となる粕の色が濃いので、どうしても製品の色が強くついてしまうんです。作り方も味も昔とまったく変わっていないのに、人間って『色が濃い=味が濃い』と脳で感じてしまうんですよね。余計なものを加えず自然のまま作っているからこそ、その気候や自然の変化がダイレクトに影響してしまうのが今の悩みです」と田中さんは明かします。

田中さんには将来を期待する娘がいます。「娘は東京農業大学応用生物科学部醸造化学科で学んで、継ぐつもりでずっとおったんですけど、子育てが忙しくてなかなか仕事をすることが難しくなっていて…。味覚で確認してきた奈良漬の味についても、次の代で科学的な数値で管理できるようになればと思っていました」と、味を引き継ぐ方法を模索しています。

昭和43年ごろの「田中長奈良漬店」の外観(提供画像)
昭和43年ごろの「田中長奈良漬店」の外観(提供画像)
現在の「田中長奈良漬店」の外観。創業から237年、さまざまな困難を乗り越え、今も創業地にあり続けています
現在の「田中長奈良漬店」の外観。創業から237年、さまざまな困難を乗り越え、今も創業地にあり続けています

「地球温暖化による猛暑や酷暑、豪雨など、近年私たちを取り巻く自然環境は急激に変化しています。酵母菌と向き合い、自然と対話しながらモノづくりを続けてきた私たちにとっても試練です。しかし、お客様に喜んでいただけるより良い商品づくりを第一に、いろいろ工夫し、時代の変化に対応しながら永く繋いで行きたいと思います」と、希望を語ってくれました。

樽詰販売もありますが、食べきりサイズで扱いやすい袋詰めが主流になっています
樽詰販売もありますが、食べきりサイズで扱いやすい袋詰めが主流になっています

取材・撮影・文/太田浩子

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