松下洸平の家康、なぜ腹黒? “初見殺し”3つの疑問を解説、谷原章介は何者?【豊臣兄弟】

1時間前

『豊臣兄弟!』第34回より。飼っていた小鳥を殺害され、嘆き悲しむ徳川家康(松下洸平)(C)NHK

(写真11枚)

豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。

9月6日放送の第34回「最強のライバル」では、初登場時から「クセが強い」「タヌキ」と言われつづけた、松下洸平演じる徳川家康のつらい過去が、まるまる一話を使って描かれた。彼のバックグラウンドをより理解するために、あまり細部までは触れられなかった人物や事件について紹介していこう。


■ 徳川家康が辿った、悲劇的な半生…第34回あらすじ

徳川家康(松下洸平)は、かつて今川義元(大鶴義丹)の元に人質に出されていた。義元は家康の慰めになるよう小鳥を与えていたが、家康が元服すると、その小鳥を殺すよう命じる。家康が決して自分の命令に逆らわないという、その証を見せるのが目的だった。

結局、小鳥は今川氏真(三河悠冴)に殺されて家康は号泣するが、側近の石川数正(迫田孝也)は、いつか家康が武家の頂点に立つ日が来ると励ます。

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。徳川家康(写真右、松下洸平)のもとへ毒草を持ってくる息子・長丸(のちの徳川秀忠/写真左、日影琉叶)(C)NHK

その24年後には織田信長(小栗旬)から、武田と内通していた正妻・築山殿と嫡男の処分を任され、結局は殺すことを選択する。そして現在は、羽柴(豊臣)秀吉(池松壮亮)に息子を養子に出すよう命じられた。

家康の心の内を感じ取った嫡男・秀忠は、家康の教えた毒草を渡して「父上を泣かせた敵を殺してくだされ」と告げる。家康は秀忠に「もう誰にも従わぬ。あとはこの父がやる」と語り、秀吉と戦う決意を固めた。

■ “初見殺し”の3つを解説…谷原章介は何者?

とにもかくにもこの第34回は、まさに“松下洸平劇場”だったというのが、感想の第一声だ。

ここに来るまで、家康のバックグラウンドは最小限しか提示されなかったけど、それもこの第34回を効果的に見せるために抑えていたのか・・・ということと、この日のために松下洸平をキャスティングしたのか・・・と、視聴者の誰もが感じたことだろう。キャスティング決めてくれた人、ありがとう!!

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。羽柴秀吉からの申し出に、苦言を呈する徳川家康(松下洸平)(C)NHK

というのはさておき、このときの家康の状況というのは、割といろんな大河ドラマで多方面から描かれてきたので、比較的把握している人が多いと思う。

ただ『豊臣兄弟!』で初めて大河ドラマ・・・というか、時代劇自体が初めてという人は、突然出てきた北条氏政(谷原章介)って何者? とか、突然出てきた妻子は誰? みたいなとまどいもあると思うので、その辺りを紹介しつつ、この第34回を振り返っていこう。

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。北条氏政(写真右、谷原章介)と話す徳川家康(写真左、松下洸平)(C)NHK

まず、家康の同盟相手として登場した北条氏政は、ゆうきまさみの漫画『新九郎、奔る!』(小学館)の主人公・北条早雲(伊勢新九郎盛時)が創始者となる、関東の後北条家(大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)に出てきた北条家と、区別をつけるためにこう呼ばれる)の4代目。

結果的に、北条家を終えんさせる戦犯となったこともあり、正直評価は高くない人物だ。ご飯にかける汁を、いつも2回に分けてかけたため、父親に「汁の量すら一度で決められない跡継ぎでは、もう北条は終わりだ」と嘆かせたという「汁かけご飯」の逸話が、やや独り歩きしている印象もある。

実際は、駿河侵攻ではあの武田信玄と渡り合ったり、領地を歴代最大規模に広げたりと、決して無能ではなかったようだ。家康とは、信長の死去で東国の領地が宙に浮いたときに対立するが、半年も経たずに和睦が成立。家康の娘が、氏政の嫡男に嫁ぐことになる。

そして、このとき自分の城を北条に譲渡することを勝手に決められたのにキレて、家康の生涯の敵となるのが『真田丸』(2016年)の真田昌幸&信繁(幸村)親子。この因縁話もおもしろいので、機会があったらぜひドラマを観て欲しい。

■ 2つ目:今川家の“人質時代”は修羅だった?

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。徳川家康(写真右、松下洸平)がかわいがっている小鳥を殺すよう命じる今川義元(写真左、大鶴義丹)(C)NHK

また、今回もっとも視聴者のヘイトを集めたのが、家康に小鳥を与えておきながら、愛着がわいた頃に殺すように命じた今川義元だろう。

『どうする家康』(2023年)で野村萬斎が演じた義元は、家康に「覇道より王道」という教えを授ける、生涯の師のような存在だったが、今回は戦国時代の奪う者/奪われる者の関係が、いかに絶対的かつ残酷なものかを植え付けるという、真逆の方向で家康の人格形成に影響を与える存在となった。

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。小鳥が銃殺され絶望する徳川家康(写真左、松下洸平)と、今川家への服従を冷酷に言い渡す今川義元(写真右、大鶴義丹)(C)NHK

実際の家康の人質生活だけど、将来の今川家の幹部候補として最高の教育を受けるなど、その待遇は決して悪くはなかったそうだ。『どうする家康』では、義元討死後の苦労をより際立たせるためか、この世の楽園みたいな世界になっていたから、たった3年でギャップがすごい(笑)。

しかし、どんなに今川家に優遇されていたとしても、やはり有事のときには真っ先に命が危なくなる立場なのは間違いないから、完全に心が休まることはなかっただろう。

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。小鳥を銃殺して誇らしげな今川家嫡男・今川氏真(三河悠冴)(C)NHK

さらに今回、家康の飼っていた小鳥を撃ち落とした(あの当時の銃の性能を考えたらすごすぎだろ!)氏真との関係も、晩年は茶飲み友達のような仲になることを考えると、さほど険悪ではなかったと思われる。

隠居先として故郷の岡崎ではなく、今川の領土だった駿府を選んだことを考えると、本当のところは『どうする家康』のように、楽しい思い出が多かったのかもしれない。

■ 3つ目:腕の見せどころ「信康・築山殿事件」

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。庭の小鳥を見ながら、過去のできごとを思い出す徳川家康(松下洸平)(C)NHK

もう一つ、初見殺しだったのは、家康が正室・築山殿と、嫡男・信康を処罰することになった背景だろう。

築山殿(近年は「瀬名」呼びが多い)は今川家の親戚筋だったため、信長に反感を抱いており、武田家と内通していることが、信康に嫁いでいた信長の娘の密告で発覚。信長は家康に対処を委ね、家康は2人を死罪にした・・・というエピソードだ。

ただ、この内通自体が、実際にあったかどうかもわからないので、家康がどうやって2人を死に追いやるのかは、脚本家の腕の見せどころになる部分でもある。

『おんな城主直虎』(2017年)では、信長に目をつけられた信康を助けようとして、築山殿がみずから成敗される道を選ぶという、母の愛を感じさせるエピソードに。

『どうする家康』では、ひそかに家康が武田と和平を結んだものの、織田と徳川の亀裂をもくろむ武田勝頼に反故にされ、信長の怒りを買う前に、築山殿と信康がすべての罪を背負う形で命を断つ。涙なくしては見られない悲劇だけど、築山殿が思い描いた「理想の世」の構想を家康が受け継ぐという、未来の希望を託すエピソードでもあった。

『豊臣兄弟!』第27回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第27回より。懐に毒を忍ばせていた徳川家康(松下洸平)(C)NHK

それで言うと『豊臣兄弟!』の築山殿は、小鳥も殺せなかった家康少年が、家の存続のために妻子に手をかけるようになれたという、彼の悲しい成長ぶりを示す役割を果たした。

それ以来、毒薬を持ち歩き「いつでも信長を殺せる」と考えることで、自分を保っていたというのだから、多分ここでも良い夫婦、良い親子関係だったのだろう。小鳥が死んで泣きじゃくったときと違い、一切の感情を殺して息子の遺骸を眺める家康の表情がやるせなかった。

■ 豊臣兄弟、“最強のライバル”の心を変えられる?

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。徳川家康(写真右、松下洸平)と話す小一郎(写真左、仲野太賀)(C)NHK

視聴者と違って、家康の本音を知らない豊臣兄弟は、おそらく家康を「いつもアドバイスとか薬とかをくださる良い人」としか思ってなかったフシがある。

もし、家康の真っ暗な胸の内や背景を知っていたら、秀吉はあんなにナチュラルに「息子を養子にください」と言ったり、秀長は「未来の平和のためには、今は人質を取っても仕方がない」みたいなことが言えただろうか?

『豊臣兄弟!』第34回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第34回より。羽柴討伐に向けて出陣を宣言する徳川家康(松下洸平)(C)NHK

やっぱり百姓上がりで、家族愛にあふれ過ぎてるほどあふれているということもあり、基本的に養子を取ることに対して、人質契約より「家族が増えるのはめでたい」という気持ちの方が大きそうな兄弟たち。

しかし、将来家康が兄弟の妹・あさひ(倉沢杏菜)と結婚して「家族」として迎え入れられたとき、少しは心を開くのだろうか? 今後の秀長と家康の関係を考えると、ポジティブな変化が現れることを、少しは期待してもいいかもしれない。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。9月13日放送の第35回「秀長誕生」では、徳川家康が小牧山城に本陣を構え、豊臣兄弟と激突。重要な作戦を任される存在として、兄弟たちの甥・三好信吉(豊臣秀次/山田涼介)が初登場を果たす。

文/吉永美和子


【動画】10代に見える…青年期を演じる松下洸平

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