“老害”を目指した山口馬木也、『篤姫』重なる宮﨑あおい…2人が果たした役割【豊臣兄弟】

2時間前

『豊臣兄弟!』第33回より。自害しようとする市(宮﨑あおい)を止める柴田勝家(山口馬木也)(C)NHK

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豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。

8月30日放送の第33回「北庄(きたのしょう)城の別れ」では、市と柴田勝家がついに退場。この2人が『豊臣兄弟!』で担った役割を考えるとともに、入れ替わりで初登場を果たした千利休についても振り返ってみよう。


■ 茶々「織田と浅井の血は絶やさぬ」…第33回あらすじ

賤ケ岳の戦いで羽柴(豊臣)秀吉(池松壮亮)に破れた柴田勝家(山口馬木也)は、居城の北庄城に帰還。市(宮﨑あおい)に逃げるよう諭すが、市は勝家とともに死ぬ覚悟を決め、娘の茶々(井上和)、初(田牧そら)、江(西川愛莉)だけを逃すことに。

市は茶々に、兄・織田信長(小栗旬)からもらった守り刀を与え、茶々は織田と浅井の血を決して絶やさないと告げる。姉妹が庇護された直後、秀吉は北庄城の総攻撃を命じた。

『豊臣兄弟!』第33回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第33回より。羽柴秀吉のもとで庇護される浅井三姉妹。写真左から、三女・江(西川愛莉)、長女・茶々(井上和)、次女・初(田牧そら)(C)NHK

市は先に自害しようとするが、勝家はそれを制し「いま一度あらがいましょうぞ」と言って、場内を戦いながら一緒に逃げる。小一郎が遅れて城内に入ると、藤堂高虎(佳久創)や石田三成(松本怜生)らが、市と勝家を天守の頂上まで追い詰めたところだった。

勝家は「これが戦じゃ」と微笑みながら、市とともに城から飛び下りる。秀吉の勝利が決まり、皆が涙ながらに勝ち鬨を上げていた頃、小一郎は焼け落ちた城のなかで慟哭していた・・・。

■ 『篤姫』とも重なる…宮﨑あおいの“お市様”

『豊臣兄弟!』第12回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第12回より。小谷城の市(写真右、宮﨑あおい)のためにやってきた藤吉郎(写真中央、池松壮亮)と小一郎(写真左、仲野太賀)(C)NHK

従来の豊臣秀吉が出てくるドラマでは、秀吉と市の関係は、秀吉が一方的に好意を抱いている設定が多かった。そのため、北庄城の戦いでは、市の死を悲しむより、勝家を倒した達成感が前に出ているように感じられたものだ。

しかし『豊臣兄弟!』では、市が秀吉&秀長を「良い遊び相手」として気に入っていて、兄弟もまた“信長強火担”の同志的な気持ちを抱いていた。だからこそ、兄弟たちが自分たちの理想を優先して、市を死に追いやった、その内なる葛藤と戦うというテーマが生まれた。

『豊臣兄弟!』第10回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第10回より。織田信長(小栗旬)と話す妹・市(宮﨑あおい)(C)NHK

もう一つ、宮﨑あおいが演じた市が特徴的だったのは、従来は織田信孝(結木滉星)がセッティングしたと言われる勝家との結婚を、天下取りの野心が見えた秀吉を牽制するために、みずから結婚を命じるなど、政治力と決断力のある女性として描かれたことだ。

初登場の段階で兄・信長(小栗旬)に私見を述べるなど、情勢をよく把握している描写がされていたが、ちゃんと自分の頭で考えて、自分の道を決めることができる強いお市像というのは、令和になってようやく生まれたキャラだったように思う。

『豊臣兄弟!』第32回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第32回より。柴田勝家(山口馬木也)と話す市(宮﨑あおい)(C)NHK

そして前回、自分で自分の道を決められることを喜んでいた市の姿は、信長が死んだあとに、否応なく自分で道を切り開かざるを得なくなった豊臣兄弟の姿とかぶる。

特に秀長は、これまでは信長という絶対的なトップの決めたことに、ただ従っておけばいいという立場だった。しかし、秀吉がトップに成り代わろうとすれば、今まではすべて信長が引き受けていた、敵方の恨みや憎しみや殺意などが、すべて兄や自分に向けられることになる。その恐怖や責任を、果たして引き受けられるのか? が、山崎の戦い以降の秀長の課題だったのだ。

前々回で市が秀長にかけた「(信長と同じようにマイナス感情を全部背負うことになる)兄を支える覚悟があるか?」という問いは、まさに秀長の現状を端的に表す言葉だった。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。越前・北庄城で小一郎(仲野太賀)に詰め寄る市(宮﨑あおい)(C)NHK

そして、秀長の迷いを100%理解して指摘できたのは、「兄が苦しい時は私も苦しい」と、魔王キャラに成らざるを得なかった兄の苦悩を体感し、女ながらにそれを引き継ぐ覚悟を決め、ある意味信長の幻影のような存在となった・・・、さらに秀長にとっては、同じ「偉大な兄を持つ者」仲間でもあった、この『豊臣兄弟!』の市だけだったのだ。

これが従来のように、男たちの思惑に流されて勝家に嫁いだ市だったら、こうはならなかっただろう。直接政に関わることはできないけれど、女性でも・・・あるいは、女性だからできる働きかけで、逆に男たちを突き動かしていく姫君。

宮﨑あおいが最年少で主人公を務めた『篤姫』(2008年)の天璋院篤姫とも、どこか重なるところがある。あれから役者としてさらに一回り大きくなったところを、市の成長とナチュラルに重ねていく姿が、まさに円熟の域だった。次にまた、大河に出てくる日が来ることを待ち望んでいる。

■ “老害”なのに愛された…山口馬木也の勝家像

『豊臣兄弟!』第28回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第28回より。本能寺の変を知り、今すぐ挙兵しようとし、佐々成政(写真左、白洲迅)に制止される柴田勝家(写真右、山口馬木也)(C)NHK

一方、山口馬木也が演じた柴田勝家だが、市が定番とはやや異なるベクトルのキャラクターを見せたのに対して、こちらは私たちがイメージする「柴田勝家」像を忠実になぞった造形だった。

ただ、そのイメージを、従来の何倍マシマシという感じで濃厚かつ強固にしていくことで、大河史上最高と言われるほど、印象に残る勝家像を作ることに成功したと言えるだろう。

『豊臣兄弟!』第30回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第30回より。羽柴秀吉(写真右、池松壮亮)が提案した合議制に納得した柴田勝家(写真中央、山口馬木也)(C)NHK

山口は、勝家を演じるに当たって、兄弟にとっての「老害」になることを意識したと、インタビューなどで語っている。

頭の硬い重臣として、身分の低い秀吉たちを軽視してあらゆることに反対し、最後は彼らの天下取りを阻むボスキャラ的な存在として倒されるのが、勝家のテンプレートと言えるもの。史実からの逸脱がなにかと話題になる『豊臣兄弟!』だが、勝家の役割はほとんど外れることはなかった。

しかし、山口演じる勝家は、狙い通りヒールギリギリの老害キャラを貫いてはいたが、SNSを追っていても、否定的な言葉は皆無と言っていいほど愛される人物となっていた。

『豊臣兄弟!』第32回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第32回より。柴田勝家(山口馬木也)の手を握る市(宮﨑あおい)(C)NHK

これはやっぱり、秀吉たちへの当たりはきつくても、自分が大好きな信長や市には、しばしばかわいらしかったり、ちょっと天然な対応をしてしまうところが絶妙だったのが大きい。先週の市との新婚生活の様子も、これだけでドラマ1本作って欲しいと願うほど愛らしかった。

どうしようもない石頭で無骨なイメージと、ふと見せる人間的なかわいさのギャップ。その硬軟のバランス感覚の良さこそが、山口の演じる勝家が支持された要因だろう。最後まで徹底的な「老害」でありながらも、お市と共に天守から飛び下りる直前に、秀長たちに向けた眼差しには、どこか「これから頑張れよ!」とでも言わんばかりの温かさがあった。

これもまた、山口ならではの人物造形だろう。映画『侍タイムスリッパ―』のヒットにつづき、この勝家役で名実ともに「時代劇の顔」と言える存在となった山口。大河に限らず、また彼が主役となる時代劇が見られることを願おう。

■ 眼差しに狂気…強烈キャラ確定・千利休

『豊臣兄弟!』第33回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第33回より。茶を点てる千宗易(吉岡秀隆)(C)NHK

というわけで、かなりしんみりした終わりになることを覚悟していた市&勝家の退場回だったが、その寂しさを上書きするように現れたのが、今回初登場となった千利休(宗易/吉岡秀隆)だ。

茶の宗匠でありながら、お茶は苦いから苦手(薄茶じゃなくて濃茶だから余計にね)と言い放つ利休とか、なにをどうやったら考えつくのか(笑)。これだけでも強烈キャラ確定だけど、割れた茶碗を見つめる眼差しもどこか狂気を宿していて、名優・吉岡秀隆はまたとんでもない人物像を作ってきたものだ。

『豊臣兄弟!』第33回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第33回より。大徳寺で千宗易(写真左、吉岡秀隆)から茶を振る舞われる小一郎(写真右、仲野太賀)(C)NHK

ただこれぐらい、浮世離れしているけど妙な説得力を持つ人物ではないと、秀長の大きな迷いを完全に払拭するという、重要な役割を担えなかったのは確か。おそらく、利休と豊臣兄弟がタッグを組んだ暁には、この調子でいろんな大名たちを自分たちのペースに巻き込んで、様々な無茶を押し通していくことになるのだろう。

この怪物たちの活躍が非常に楽しみすぎて、この関係が秀長亡きあとに悲劇的な結末を迎えることは、ちょっと考えたくないぐらいである・・・。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。9月6日放送の第34回「最強のライバル」では、秀吉との対立を深めていく織田信雄(山脇辰哉)が徳川家康(松下洸平)に近づくところと、秘められた家康の背景も同時に描かれていく。

文/吉永美和子


【コメント】山口馬木也「最後まで“老害”でいようと」

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