大阪の人気スパイスカレー店、突如閉店→1カ月後に復活!? 10年ごとに変わる店主の人生とは

5時間前

「はらいそParade」店主のジョルさん(Lmaga.jp撮影)

(写真15枚)

関西では人気の“スパイスカレー”界隈で、「とんかつカレー茶漬け」などの独自のメニューで異彩を放っていた「スパイス居酒屋 はらいそSparkle(スパークル)」(大阪市西区)。ファンが多いなか今年6月20日に突如閉店した。

元・広告代理店勤務から、意外なきっかけで飲食業界へと転向。実は店主本人にとっても想像もしていなかったそうだ。そこで、「きっとまたどこかで面白いことをしているのでは……」と探ったところ、7月末に大阪天満宮(大阪市北区)近くで新たな挑戦が始まっていた。

■ 店主の人生は濃かった…カレー店を始めた理由

「店を閉じたときは、次に何をするかは全く決めてなかった」と店主のジョルさん。しかし、閉店からおよそ1カ月後、場所を新たにカムバック。もちろん、十分な評価も実績もあるカレー店…ではなく、「酒場」としてのリスタートを切ったのだった。

「はらいそParade」のインスタグラムでは移転やオープンの告知が
「はらいそParade」のインスタグラムでは移転やオープンの告知が

大阪出身のジョルさんは元々、大手広告制作会社「リクルート」の東京本社で働いていた経歴を持つ。ただ飲食には昔から興味があり、会社員時代も友人とフードイベントを開くなどをしていたとか。

会社員時代のジョルさん
会社員時代のジョルさん

「いつかやれたらいいな」と思いながらも、現実はどこか少し遠かった飲食の世界。飛び込むことを決意したのは、2011年3月11日「東日本大震災」だった。職場の高層ビルは激しく揺れ、いつか自分にも必ず来るとわかっていたはずの「死」という存在を、生まれて初めて実感したことがきっかけだった。

■ 人の縁が広げてくれた次へのステップ

「やろう」と決意を固めたものの、どうやれば飲食の仕事にありつけるのか道のりがわからず悩んでいたジョルさん。そんな時に連絡をくれたのが、今はなき千日前の「味園ビル」にあった、とあるバーの店主だった。

閉館した「味園ビル」(Lmaga.jp撮影)

「新しくバーを立ち上げるから、そこで一緒に働かんかって声をかけてくれて。地元に帰った時は絶対に顔を出してたお店だったし、すごく嬉しかった。そこでお世話になった方が『ただ働くだけなら会社員時代と一緒やぞ。お前は自分でやりたいことをやれ』って言ってくれたんです」と話す。

ジョルさんが会社員時代に実施していたイベントの様子(Lmaga.jp撮影)
ジョルさんが会社員時代に実施していたイベントの様子(Lmaga.jp撮影)

その言葉に背中を押され、働いていた店でカレーイベント「私のカレーは左利き」を開催。味園ビルで知り合った堀江の「おでん○」店主だった紙谷さん(現・レコード店「Roundish Music Store」店主)からの誘いを受け、間借りのカレー店をスタート。飛び込んだ先の世界でスパイスカレーの扉を開いた。

初期のカレーはレシピ本通り作っていたが、独特すぎるスタイルに繋がる転機となったのは、自身のイベントに出店した間借りカレー店「マタタビ」の石井さんが持ってきた「豚軟骨の筑前煮ビンダルー」だった。

数多くのカレーを食べてきたジョルさんでも、あまりにも未体験すぎるカレー。『筑前煮がインドを旅したらどうなるのか考えた』という発想の自由さに衝撃が走ったという。「もし、〇〇がインドを旅をしたら」というレシピの方程式を掴んだジョルさんは、独自路線のカレーの開発を加速させる。

「はらいそParade」外観(Lmaga.jp撮影)
「はらいそParade」外観(Lmaga.jp撮影)

「ずっとコンプレックスでもあるんですけど、僕はどこかで習って料理の修業をした経験がないんです。だからこそ恥知らずな組み合わせというか、『これとこれを繋げたら面白いんちゃう?』 って自由な発想でずっと料理をしてきた。それは自分の強みでもあると思います」。

■ 「もし、とんかつ茶漬けがインドを旅したら」?

間借り店であるものの、ユニークなカレーの作り手としてメディアで紹介されることも増えてきたある日のこと、常連のカレーマニア・トミモトリエさんから「カツカレーをやってほしい」という要望が届いた。

唯一のカレーメニューになったミニカツカレー茶漬け(1000円)。ミニサイズになったが味はそのまま(Lmaga.jp撮影)
「はらいそParade」で唯一のカレーメニューとなったミニカツカレー茶漬け(1000円/Lmaga.jp撮影)

「東京でサラリーマンをしていた時、とんかつ茶漬けで有名な店に行ったことがあったんです。茶漬けだから和ダシのカレーで、わさびの代わりに東インドで使われるマスタードオイルをそのまま使うのはどうだろうって、連想ゲームみたいにレシピを組み立てていくんです」。

そうして完成した「カツカレー茶漬け」が、これまでにないほどの大ヒットを記録。当初は1週間限定での販売予定だったが、瞬く間に店の看板メニューに。その名を知れ渡らせたジョルさんは、全国各地のイベントから出店の依頼が届くようになり、自らが旅をすることも増えた。

「カツカレー茶漬け」に使用しているマスタードオイル(Lmaga.jp撮影)
「カツカレー茶漬け」に使用しているマスタードオイル(Lmaga.jp撮影)

その後ついに、「はらいそSparkle」の実店舗を2017年にオープンすることに。毎年全国から12店舗だけ選出される『Japanese Curry Awards』のメインアワードや、食べログカレー百名店にも選出、TVや雑誌などメディアへの出演は数知れずと、華々しい経歴を持つのに、今年6月20日をもって閉店した。

■ 代名詞のカレーは封印…違うスタイルに

人との出会いで、自分の人生が面白い方へ曲がっていく。しかし、カレー店として10年が経ち、物価高や機材の老朽化など、店舗経営の壁にぶつかったジョルさんは店の仕切り直しを判断。

「はらいそParade」店内(Lmaga.jp撮影)
「はらいそParade」店内(Lmaga.jp撮影)

閉店をSNSで告知すると、すぐに「一緒にやらへんか」と連絡をくれたのが、イベントで知り合って以来仲の良かった間借りカレー「カリクロ」。またもカレーが繋いだ縁に導かれるように、南森町での新店舗オープンが決まったのだった。人が好きで、人とおもしろい時間を共有すること。いろんな出会いから人生が動き出したように、自分もまた出会いが生まれる場所を作ること。それが、ジョルさんが「酒場」をはじめた理由だ。

屋号を「エキゾチック酒場 はらいそParade(パレード)」にあらため、大阪天満宮のすぐ東側に店を構えた。L字のカウンターの造りは以前の形態と変わらないが、ビル2階の最奥で営業していた肥後橋時代より席数が増え、立ち呑みの酒場へと生まれ変わっている。

取材時のおすすめメニュー。この日はパンナコッタ以外の全てが「エキゾな〜」だった(Lmaga.jp撮影)
取材時のおすすめメニュー。この日はパンナコッタ以外の全てが「エキゾな〜」だった(Lmaga.jp撮影)

「カレーは『シメ』のミニサイズで1種類だけで、メニューの扱いで言うたらサブのサブ。以前とはかなり変わりましたね」と、店主のジョルさん。メニューに並ぶのは酒場ではお馴染みの顔ぶれ。ただし、ほぼ全ての料理名の頭には「エキゾな〜」という言葉がついている。

たとえば、『エキゾなアジフライ』には、中東の伝統的なミックススパイス「ザータル」の要素を取り入れたタルタルを添えているし、『エキゾなよだれ鶏』には、ジョルさんがタイに行った時に食べた辺境の民族料理からヒントを得た「ニラミント醬」がかかっているといった具合。

エキゾなアジフライ(950円)オレガノなどのシソ科のハーブや炒り胡麻を混ぜたミックススパイス「ザータル」を、しば漬けのタルタルで表現(Lmaga.jp撮影)
エキゾなアジフライ(950円)オレガノなどのシソ科のハーブや炒り胡麻を混ぜたミックススパイス「ザータル」を、しば漬けのタルタルで表現(Lmaga.jp撮影)

「初めての人がスパイスカレーの世界にハマるには少し勇気がいる。だからその一歩前の段階として『スパイス飲み』というカルチャーを広げられるように頑張ってきたけど、カレー店を9年やってみて『スパイス』という言葉の強さが、どうしても辛さやクセの強さを連想させて間口を狭めていることに気づいたんです。複雑で想像がつかないメニューより、誰もが知ってる定番料理に異国情緒を足して『エキゾ』な料理として打ち出すことにしました」。

エキゾなよだれ鶏780円。爽やかなミントが口に広がる「ニラミント醬」は、東南アジア諸国に接する中国の雲南省の調味料がベース(Lmaga.jp撮影)
エキゾなよだれ鶏780円。爽やかなミントが口に広がる「ニラミント醬」は、東南アジア諸国に接する中国の雲南省の調味料がベース(Lmaga.jp撮影)

「スパイス」を追求してきたジョルさんのエキゾな料理たち。最初はカレーを手放す!?と驚いたが、カレー茶漬けで、わさびではなくマスタードオイルを使用するなど、唯一無二と呼ばれたスパイスカレー店時代から地続きになっている気がしてならない。

■ 「お客さんの反応が見られるのは楽しい」目指す先は?

新しい店では、ジョルさん自身が立ち飲みカウンターの「前」に立つスタイルをとっている。

「前の店はずっと厨房の奥で料理を作り続けてたから、知り合いが来てても全く気づかないこともあって。新しい店では調理をスタッフに任せられるようにしてます。やっぱり前に立ってお客さんの反応が見られるのは楽しいし、ゆっくり話せますからね」。

「店のコンセプト自体が大きく変わった」と、「はらいそParade」店主のジョルさん(Lmaga.jp撮影)
「店のコンセプト自体が大きく変わった」と、「はらいそParade」店主のジョルさん(Lmaga.jp撮影)

「10年周期で転換期が訪れている」というジョルさんのスパイシーな人生。30代をカレーに捧げ、40代からは酒場という新たなフェーズへ突入した。

国産の日本酒、焼酎、ジンなどが店の推し。1杯550円〜。こちらは酒粕を原料にした珍しい焼酎『七田』(Lmaga.jp撮影)
国産の日本酒、焼酎、ジン(1杯550円〜)などが推し。写真は酒粕を原料にした珍しい焼酎『七田』(Lmaga.jp撮影)

「僕がこの店で本当に売りたいものは体験なんです。おいしい料理やお酒は、その出会いを演出するための要素のひとつ。僕がしてもらったように、この店で生まれた出会いから、少しでも人生が楽しい方に変わったらこれ以上なく嬉しいし、そんな人間交差点のような酒場を作りたいと思ってます」。

「はらいそParade」営業中の様子(Lmaga.jp撮影)
「はらいそParade」営業中の様子(Lmaga.jp撮影)

「エキゾチック酒場 はらいそParade(パレード)」(大阪市北区天満4-17-12)の営業は18時〜24時(金曜18時〜2時、土・祝日17時〜24時、日曜17時〜23時※料理ラストオーダーは1時間前)。月曜休。

取材・文/関戸ナオヒロ 写真/Lmaga.jp編集室

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