覚悟決まらない“甘ちゃん主人公”…イメージ変わった“悲劇のヒロイン”が「喝!」【豊臣兄弟】

2時間前

『豊臣兄弟!』第31回より。越前・北庄城で市(宮﨑あおい)に詰め寄られる小一郎(仲野太賀)(C)NHK

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豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。


8月16日放送の第31回「これで、お別れにございます」では、非常に対照的な織田信長の2つの葬儀が登場。実際の葬儀の大規模さとその狙いを探るとともに、市と秀長のシンパシーを感じ合う点についても考察した。

■ 孤立した秀吉、葬儀をおこなうも…第31回あらすじ

信長の三男・信孝(結木滉星)は、織田家の跡取り・三法師を、安土城が再建されるまで預かると言って、自分の元に置いたままにする。この言い訳を封じるため、羽柴(豊臣)秀吉(池松壮亮)は小一郎を通じて、丹羽長秀(池田鉄洋)に普請を急ぐよう通達。

しかし長秀は、秀吉が勝手に所領の取り決めや、各地の大名と書状を交わしていることに怒りを見せ、共に三法師を支えることはできないと、小一郎に告げた。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。京・大徳寺でおこなった織田信長の葬儀で、兄・羽柴秀吉(写真右、池松壮亮)を見つめる小一郎(写真中央、仲野太賀)(C)NHK

秀吉は大徳寺で織田信長(小栗旬)の葬儀を盛大に行うが、重臣たちは誰一人出席しなかった。名代の家臣を送った長秀は、大きな巻物を受け取る。それは多くの織田家の家臣たちが、秀吉に忠誠を誓った起請文だった。

長秀は秀吉に屈服し、羽柴方に付くと前田利家(大東駿介)に告げる。さらに、黒田官兵衛(倉悠貴)が信孝の兄・信雄(山脇辰哉)を調略したことで、秀吉は信孝に戦を仕掛ける口実ができた。

■ “家族葬”の市 VS “7日間フェス”の秀吉

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。写真左:羽柴秀吉(池松壮亮)が京・大徳寺でおこなった葬儀、写真右:市(宮﨑あおい)が京・妙心寺でおこなった葬儀(C)NHK

この第31回の大きなポイントとなったのは「織田信長の葬儀」だった。信長の法要は、妹・市(宮﨑あおい)、信長の乳母だった池田恒興(堀井新太)の母、秀吉の3人が執り行った記録がある。

このうち秀吉が主導した大徳寺の葬儀には、秀吉の養子となった四男・羽柴秀勝(柊木陽太)以外の身内や、重臣クラスの武将が出席しなかったのは事実。その理由は諸説あるが、『豊臣兄弟!』では、市と秀吉の対立を象徴するものとして描かれた。

信長の葬儀がなかなか行われなかったのは、やはり織田家の中心となる信雄&信孝兄弟が対立していて、足並みがそろわなかったのが理由とされている。

そこで市が、夫となった柴田勝家(山口馬木也)の勧めで、百箇日法要を行った。これはドラマでも描かれていたが、著名人の葬儀でよくある「近親者で済ませた」レベルの法要だったようで、当時の最高権力者としてはあまりにも慎ましやかなものだった。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。京・妙心寺で織田信長の葬儀を執り行う妹・市(写真右、宮﨑あおい)(C)NHK

それとは完全に逆の路線を行ったのが、大徳寺の法要だ。ドラマの描写も十分豪華なものだったが、実際の葬儀はそれとは比べ物にならない。プログラムは実に7日間にも及び、あらゆる宗派の僧侶たちが集まり、何千人もの人が参列。

ハイライトでは、信長の遺体代わりに香木の木像を収めたピッカピカの棺を、特設会場で盛大に火葬したというから、葬儀と言うより完全にフェスティバル。見物客も身分を問わず「雲霞のごとく」押し寄せたと、記録に残っている。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。京・大徳寺でおこなった織田信長の葬儀で能『敦盛』を舞う羽柴秀吉(池松壮亮)(C)NHK

この葬儀を目撃した人は、支配階級から庶民に至るまで、ここまでド派手でエンタメ色あふれた葬儀をぶち上げることができる羽柴秀吉という武将の名を胸に刻み、「もしこの人が天下を取ったら、楽しいことをやってくれそう」という希望を抱いただろう。

さらに信長を慕っていたけれど、妙心寺の法要に呼ばれなかった関係者たちは、別れの儀式に立ち会わせてくれた秀吉に感謝したはずだ。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。前田利家(写真右、大東駿介)に、羽柴方へつく家臣たちの起請文を見せる丹羽長秀(写真左、池田鉄洋)(C)NHK

葬儀の連絡を誰にするかということは、現在でも結構遺恨を残しがち。丹羽長秀が屈服するほど数多くの配下が、秀吉の起請文に名を連ねたのは、この葬儀に出席を認められたことで「織田家よりも羽柴殿の方が、自分を評価してくれている」と感じたのもありそうな気がする。

それに対して、葬儀の政治的な影響力を考慮せず、秀吉への嫌がらせのためだけに、限られた人しか葬儀に呼ばなかった市。信長の威光が急速にしぼんでいることが、内部にも外部にもさらされて、むしろ多くの人たちが秀吉側に寝返る結果となった。この判断ミスは、あまりにも大きかったと言える。

■ 戦国の悲劇のヒロイン→勇敢&聡明な女性へ

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。越前・北庄城で話す市(宮﨑あおい)(C)NHK

史実の市は、表立って政に関わったという記録がないこともあり、「信長の妹」に生まれたがゆえに数奇な運命を送らざるをえなかった、戦国の可哀想な女性の代表・・・みたいなイメージでとらえられることが多かった。

しかし、前回の戦国大河『どうする家康』(2023年)では、戦いの指揮官にもなる勇ましい女性として描かれ、今回もまた、武芸に秀でて兄・信長にアドバイスを与えることもできる、聡明なキャラクターとして登場した。

最近の大河では、秀吉の明るい面よりダークサイドを強調することが流行(?)しているのと同じように、今後のお市様像も、黙って男たちの思惑に流される姫君ではなく、政や戦にも積極的に働きかける女性に変わっていくのかもしれない。

そういう意味で今回、秀吉&秀長が織田家を乗り越えるための大きな障壁となるのが、従来の柴田勝家ではなく、市に置き換わったというのは、象徴的だったように思える。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。越前・北庄城で小一郎(仲野太賀)に詰め寄る市(宮﨑あおい)(C)NHK

そして、市と豊臣兄弟の決定的な別れとなるのが、今回の秀長&市の対話だったのは、兄弟(妹)関係に焦点を当てている『豊臣兄弟!』らしい分岐点だった。

自分には敵わないと思える才覚を持ち、憎んでもおかしくない状況に追いやられても慕ってしまう、カリスマ的な兄を持つ弟&妹。市が秀長には特別に面会に応じたのは、そういう「偉大すぎる兄」を持つ者同士のシンパシーを、どこかで感じ取っていたのだろう。

さらに、自分も男であれば秀長のように、兄の手足となって働くことができたという、羨望の気持ちもあったはずだ。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。柴田勝家(山口馬木也)に嫁ぎ、秀吉からの書状を読む市(宮﨑あおい)(C)NHK

市の秀吉への怒りは、単に織田家をないがしろにしただけでなく「サルごときに兄の代わりが務まると思うな!」という、ブラコンのこじらせもやや入っているように思う。

甥たちがそろってボンクラで、誰にも信長の代わりができないのだから、いっそ自分がその遺志を継ぐという覚悟の塊のような市に対して、秀長はどうか? 秀吉がこっそり諸武将と、勝手に連絡を取り合っていたことを知ってたしなめる姿は、まだまだ兄の思惑よりも、周囲とのバランスを優先していることが見て取れる。

■ 覚悟、全然固まってない“甘ちゃん主人公”

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。無理に作った笑顔を見せる小一郎(仲野太賀)(C)NHK

前回のコラムで「秀長も秀吉とともに、泥をかぶる覚悟を決めたのでは」と推察したが、今回の秀長を見て、素直に「私の思い違いでしたごめんなさい」と考えた(笑)。まだ彼は、一つの家を滅ぼしてでも、自分たちの望みを達成しようという覚悟が、まだ全然固まっていなかった。

秀長にとって次週の「賤ヶ岳の戦い」は、まさに市にかけられた言葉を実践する・・・それこそ初めて人を斬って、もう農民には戻れなくなった「姉川の戦い」同様の、侍としての重大な岐路になるだろう。

『豊臣兄弟!』第31回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第31回より。越前・北庄城で小一郎(仲野太賀)と話す市(宮﨑あおい)(C)NHK

そして、もう一つ言えるのは、ここで秀長を自分たちの方に取り込むのではなく、むしろ秀吉とともに覇道を突っ走るよう発破をかけてしまった時点で、市も兄・信長に成り代われる器ではなかったということだ。

信長ならここで秀長を始末して、秀吉に再起不能なほどのダメージを与えていただろうに・・・。次回はどうやら、道義的には絶対的有利であったはずの市や勝家の敗因が、一体なんだったのかが続々と明らかになっていきそうだ。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。8月23日放送の第32回「賤ヶ岳の決闘」では、秀吉が信孝から三法師を奪還し、勝家との対立姿勢を深めていくなか、前田利家の元に、思いがけない人物が訪ねてくるところが描かれる。

文/吉永美和子


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