【京都・老舗の継承】和紙工芸品の3代目……実は社名が知られていない理由とは?

長谷川松寿堂の現在の建物(2026年1月撮影)
京都の三条通沿いにある「長谷川松寿堂」(京都市中京区)は、色紙・短冊・和紙工芸品などのメーカーです。知らず知らずに同社の和文具などを使用していることはあっても、社名まで知っている人は少ないかもしれませんが、特に京都では知られた存在です。代表取締役社長・長谷川忠夫さんにお話を聞きました。
同社は、長谷川さんの祖父が大正8年(1919年)に創業しました。現在の三条の地には昭和11年に移転し、平成7年に建て替えをしています。色紙短冊の製造を本業としており、3階のショールームには色とりどりの和紙や工芸品、文具などが大量に並べられています。特に目を引くのが、型友禅の職人さんが1枚1枚染める和紙「友禅紙」で、和柄から洋柄まで多様な柄が用意されています。
ほかに、型押しで手編みのような模様をつけて漆を塗った「文箱」や、和紙のカレンダー、人形、和文具なども。「京都や日本の文化、季節に合わせた商品で成り立っていますから商品数が多いんです。京都は呉服に携わる方がたくさんおられますので、そういう伝統産業を礎にやらせていただいています」と長谷川さん。

これらの商品は、和文具などを扱う文房具店などに卸しています。「お得意さんがオリジナルとして売ってくださっているわけですから、メーカーとして製造責任はありますが、社名を入れるということを私はしていないんです」。そんなわけで、一般消費者にはあまり知られていない存在です。
父が亡くなった30年前、45歳のときに長谷川さんは同社を継ぎました。「自分が継ぐんやろうなというのは、高校の時には思っていましたね」。同志社大学を卒業後、東京で生活雑貨などを扱う老舗問屋「丹波屋」で3年間修業します。

「ヨーロッパの買い付けに連れて行ってもらったり、社長のハイカラなセンスも学びました。家に戻ったときには、昔ながらの商売をしていましたので、これではあかんというのは思いました。ただ、商品を覚えて、新しいものを作るとか、若い頃はもう必死でございましたね」
祇園祭では、大切な役を担っていた
そんな同社は、祇園祭の後祭で山鉾が三条通を通っていた頃(昭和13年~40年)に、くじ改め(山鉾巡行で、巡行順が正しいかを確認する儀式)の場所だったという顔も持ちます。

そのころは祇園祭になると、祭りがメインになって仕事にならなかったそう。「後祭の挨拶回りの休憩所にもなっていたので、やたら座布団とタバコ盆があった」と、長谷川さんは笑います。

しかし昭和41年(1966年)からは、前祭と後祭が合同でおこなわれるようになったため、山鉾が三条通を通らなくなります。その後、祭の本義を取り戻すために、2014年に後祭が復活しますが、電柱電線・商店街のアーケードなどがあり、もはや三条通を山鉾が通ることは難しい。その結果、山鉾は御池通を通るようになり、くじ改めの場所も京都市役所前になりました。
「コロナで祇園祭が取りやめになったとき、後祭の日に、榊を持って三条通を歩いて行進したいと山鉾が言わはって、うちのところに門川市長が来ましてくじ改めをしました。それは大変嬉しかったですし、うちの先祖も喜んでいたと思いますわ」
また長谷川さんは、祇園祭の運営をサポートするために八坂神社の氏子によって明治8年に組織された奉賛団体(募金組織)「清々講社(せいせいこうしゃ)」の幹事長も2年前から担っており、祇園祭関連だけでなく、普段から八坂神社に奉仕しています。
「おじいさんも祇園で生まれて、仕事も伝統産業のもんですし、ましてや後祭のくじ改めもさせていただいていた。親父も清々講社の役をさせていただいておりましたのでお受けするのは自然の流れでした」
「京都は特に祇園祭がなかったら、いろいろなものができない。祇園祭は伝統産業の塊です。自分のとこの商売に結びつくのももちろんあって、観光の方も来ていただいて、花街の芸妓さんや舞妓さんも協力してくれはる。こんなありがたいことはないと。私のライフワークやと思っています」
ほかに長谷川さんは、京都の文化・商品の魅力を発信する「京都のれん会」の理事もしています。専務理事や会長だったころは、全国でおこなわれる「京都展」に年50ヶ所くらい同行し、出張は150日にも及んでいたそうです。
精力的にさまざまな活動をする長谷川さんは、現在75歳。長谷川さんの弟は東京で営業を担い、長男と次男も一緒に仕事をしています。「息子たちに継ぎなさいというようなことを言ったことはありませんが、ずっと後ろ姿を見てきて、長男は大学を卒業後に東京で2年間修業して戻ってきてくれました。引き継ぎは少しずつしています」

「社員には、自分のところが良かったらええというのではなく、全てに礼を言う心がないとあきまへんよといつも言っています。紙の『不易流行(ふえきりゅうこう)』(変わらない本質)を忘れないように、京都の感覚を忘れずに、ほんまもん、ええものを作っていってほしい」と、次の世代への願いを語りました。
取材・文・写真(一部)/太田浩子
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