入場は招待客のみ、自慢の品を褒めてもらう…京老舗の『洛趣会展』とは?

43分前

洛趣会展で展示をおこなった28店(2025年11月3日撮影)

(写真10枚)

京都には老舗が集まるさまざまな「会」がありますが、そのなかでも伝統工芸品の各ジャンルを代表するような老舗が集まるのが『洛趣会』。同会が原則毎年おこなっている「洛趣会展」は、招待されたお得意様しか入場ができないため謎に包まれています。

筆者はお得意様ではありませんが、今回、特別に招待していただいたので、秘めたその内部をレポートします。また、「洛趣会」について、江戸時代より御所人形をつくる「有職御人形司 伊東久重」の伊東庄五郎さんにお話を聞きました。

昭和3年(1928年)から開催の『洛趣会展』

『洛趣会展』は、昭和3年(1928年)から、戦争やコロナ禍でやすんだ時期を除き、毎年開催されています。京都のお寺を中心に、毎年異なる場所でおこなわれており、第91回となった今年は「浄土宗大本山 くろ谷 金戒光明寺」(京都市左京区)が会場になりました。

参加するのは、着物やバッグ、扇、茶道具、京菓子、懐石料理などの京都の老舗28店。「売り申さず お褒めいただきたく候」…つまり、販売はせず、各店の自慢の商品や作品を展示するので、お客様に褒めて欲しいという、なんとも独特な会です。

2025年の来場者は、2日間で約3300名。筆者が訪れた11月3日は、入場に列ができていました。あいにく雨天だったこともあり、着物の人は想像より少なかったものの、筆者の普段の生活では見ることのない着物率の高さです。おそらく招待される側も、自慢の着物で来場しているのでしょう。迎える当主も紋付羽織袴(女性当主は着物)着用と決まっているそうで、会場が歴史ある寺院ということもあり、タイムスリップしたような気持ちになりました。

入場に列ができていました(2025年11月3日撮影)
入場に列ができていました(2025年11月3日撮影)

展示は、同じサイズの展示スペースに、各店が今年自慢したい“もの”をならべています。その内容は、商品そのものだったり、イメージだったりと異なりますが、当主の想いが伝わります。また、お得意様が来るだけあって、あちこちで当主やその家族が、来場者と挨拶を交わしていて華やかな雰囲気です。

展示の様子(2025年11月3日撮影)
展示の様子(2025年11月3日撮影)

途中、虎が描かれた金の襖がある大方丈で、お菓子とお抹茶の接待もありました。お菓子は「とらや」、お抹茶は「一保堂」のもので、11月3日は表千家、4日は裏千家によるもてなしが習わしとなっています。

お茶席のお菓子「山路の菊」(2025年11月3日撮影)
お茶席のお菓子「山路の菊」(2025年11月3日撮影)

洛趣会・会員「有職御人形司 伊東久重」13世嗣、御所人形師・伊東庄五郎さんに、お話を聞きました。

老舗の御所人形師に話を聞いた

──洛趣会に名を連ねることについて、どのように感じられていますか?

昭和3年以来、違う分野で活躍する名だたる老舗が「売り申さず お褒めいただきたく候」という言葉を掲げ、作品や商品を自慢する天狗の会。売り上げを求めないおおらかなこの会の一員でいられることは、名誉なことだと思います。

「有職御人形司 伊東久重」の展示(2025年11月3日撮影)
「有職御人形司 伊東久重」の展示(2025年11月3日撮影)

──来場者も目が肥えている方が多そうで、展示に力が入りそうですね。

その分野を代表する者として「恥ずかしいものは出せない」という意識はありますね。その年の展示が終わり、次の会場が発表されるとすぐ「来年は何を出そう?」と考えています。毎年11月3日と4日は、私や家族にとって特別な日です。うちの場合は、店というより作家という立場で参加していますが、自分が招待する方だけでなく、他のお店から招待を受けて来場された方の意見や感想を聞けるありがたい機会でもあります。

「有職御人形司 伊東久重」13世嗣、御所人形師・伊東庄五郎さん
「有職御人形司 伊東久重」13世嗣、御所人形師・伊東庄五郎さん

──現在28店が入会されていますが、会員の増減はありますか?

コロナ前にあまりにも来場者数が多くなったのと、会場スペースの関係で、「30店を上限としよう」というのが暗黙の了解となりました。うちは、昭和5年(第3回)から参加したと聞いています。会員になるためには、会員の推薦と会員全員の賛成が必要なので、入会へのハードルは高いと言っていいと思います。ただ、その厳しい入会条件が「お客様と会員の質を保っている」と言えるのかもしれません。

──全会員の賛成はハードルが高いですが、開かれているのですね。洛趣会の未来については、どのように考えられていますか?

毎年お越しいただいているファンの方だけではなく、京都の老舗が誇る素晴らしい作品(商品)の魅力を、まだご存じない方々、特に若い世代の方々に知っていただけるよう発信することは大事だと思っています。いろいろな趣向を取り入れ、会をさらに魅力的なものにしようという努力も必要でしょうね。

──各店のお子さんも、会場で横のつながりをつくり、大人を見て学ばれていると聞きました。伊東さんも子どもの頃から会場に入られているのですか?

生まれてから50年以上、毎年この会に参加しています。子どもの頃は、お寺の庭や縁側で一日中遊んでいました(笑)。時代が進んだ今も、同じ光景が会場で見られるのは本当にうれしいことです。また、昔は酔っ払って顔を赤くした祖父世代の当主が、楽しそうにお客様と話されていました。実は今もそのあたりはおおらかな会なんです(笑)。京都の「雅」や「粋」の象徴ともいえるこの洛趣会展は、お客様と会員のそんな微笑ましいやり取りによって繋がれてきたのだと思います。

自慢の品を天狗になって披露します(2025年11月3日撮影)
自慢の品を天狗になって披露します(2025年11月3日撮影)

◾️第91回洛趣会・会員(順不同)
風呂敷 袱紗「宮井」、扇「宮脇賣扇庵」、京友禅染「岡重」、高級帯地「若松」、御所人形「伊東久重」、京菓子「とらや」、蕎麦 蕎麦菓子「本家尾張屋」、京呉服「ゑり善」、京友禅「千總」、京染呉服「野口」、西陣織物「川島」、ハンドバッグ 特選服飾品「香鳥屋」、京銘茶「一保堂」、京人形「田中彌」、京すだれ 京竹工芸「西河」、茶懐石「辻留」、染と織「千切屋」、茶道具「龍善堂」、八ツ橋「聖護院」、宝石・時計「寺内」、京寿司「いづう」、薫香「松榮堂」、創作京履物「伊と忠」、五色豆「豆政」、懐石料理「瓢亭」、京うちわ「阿以波」、漆器「象彦」、京指物「宮崎家具」

取材・文・写真/太田 浩子

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