【光る君へ】段田安則の円熟の演技が光る、兼家の衰退と哀愁

2024.4.6 13:45

『光る君へ』第13回より、晴明の言葉に顔をしかめる兼家(段田安則)(C)NHK

(写真9枚)

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。3月31日放送の第13回「進むべき道」では、藤原道長の父・兼家の威光が急速に落ちていく様が描かれ、兼家役の段田安則の圧巻の演技に、絶賛の声が集まった(以下、ネタバレあり)。

■ 第13回「進むべき道」あらすじ

一条天皇(柊木陽太)の即位から4年が経ち、藤原道隆(井浦新)の娘・定子(高畑充希)が入内。藤原兼家(段田安則)とその息子たちの天下は安泰となった。しかしその頃から兼家は、突然関係のないことを言い出したり、記憶が曖昧になったりなどの、衰えが見え始める。そんな兼家の見舞いに訪れた藤原道長(柄本佑)の妻・明子(瀧内公美)は、兼家に扇をねだり、兼家は言われるままにそれを渡した。

『光る君へ』第13回より、兼家(段田安則)にねだって扇を手に入れた明子(瀧内公美)(C)NHK
『光る君へ』第13回より、兼家(段田安則)にねだって扇を手に入れた明子(瀧内公美)(C)NHK

道隆と道兼(玉置玲央)が家の後継を虎視眈々と狙うなか、道長は正気に戻った兼家と会話を交わす。兼家に「民におもねるようなことだけはするな」と忠告され、逆に「父上の目指される、真の政とはなんでございますか」を問い返す道長。兼家は「家の存続だ」と応え、たとえ自分が死んでも家は生きつづけるということを説く。そして「その考えを引き継げる者こそ、わしの後継だと思え」と力強く語るのだった・・・。

■ かなりの衝撃、老いる兼家の描写

天皇の外祖父ということで「摂政」の地位に付き、文字通り位人臣を極めた藤原道長の父・兼家。しかし駆け上がった地位が高ければ高いほど、そこから転落したときのダメージは大きいもの。この第13回では、まさに兼家の転落直前の様子が描かれたわけだが、周囲の手のひらの返しぶりや、彼自身の老いの描写は、かなりの衝撃をもって受け入れられたようだ。

『光る君へ』第13回より、政の場でおかしなことを口走る兼家(段田安則)の様子に驚く周囲(C)NHK
『光る君へ』第13回より、政の場でおかしなことを口走る兼家(段田安則)の様子に驚く周囲(C)NHK

そのはじまりは、政の場で人の名前を間違えたり、トンチンカンな命令を出したりという、あきらかな認知症のきざしだった。これによって周りの貴族が「あれはもうダメだ」扱いをはじめたのも、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の兼家に対する態度が、なんともぞんざいだったことが象徴している。もしかしたら晴明は「朝だから寿命が見えなかった」のではなく、先が短いのを見抜いた上で、「もう用済みだ」とばかりにあしらったのかもしれない。

それにしても、父に対する態度が一番冷徹だったのが、もっとも兼家に従順な長男・道隆だったのは、なんともやるせなかった。娘を入内させ、兄弟のなかで出世に一番近い位置にいるのは明白だから、つい感傷よりも野心の方が前に出てしまったのかもしれない。そして次男・道兼は道兼で、兄への競争心の方が先に立って、こちらも父の心配は後回し。結局兼家とは一番距離を取っていた道長が、父の衰えを直視できないほど動揺しているというのが、良くも悪くもおぼっちゃま気質の柄本道長らしい。

■ 前半最大の功労者は段田兼家

そんな道長だからこそ、兼家はこっそりと「民とかどうでもいい。家の存続を一番に考える奴を選ぶ」と、後継者レース勝ち抜けの大きなヒントを与えたのかもしれない。この方針には「政治家がそんな態度でいいのかよ!!!!」と庶民の怒りが爆発しそうだけど、民などは自分たちを活かすための奴隷ぐらいにしか考えてなかった平安貴族たちの政治意識なんて、まあこんなものだろう。今はまひろの言葉で理想に燃える道長が、こんな政をくつがえすのか、あるいは父親の轍を踏むのかは、今後の注目ポイントになりそう。

『光る君へ』第13回より、真の政とは「家の存続だ」と力強く答える兼家(段田安則)(C)NHK
『光る君へ』第13回より、真の政とは「家の存続だ」と力強く答える兼家(段田安則)(C)NHK

それにしても、この13回を味わい深くも緊張に満ちた空気にしたのは、間違いなく兼家を演じるベテラン・段田安則の名演だろう。認知症による恍惚とした空気感、一瞬我に返ったときのとまどい、自分の心身が思うようにならない悲哀、そして道長と語らうときの、往年の力を取り戻したかのような威圧感・・・まるで荒れ狂う海に投げ込まれた小舟のような兼家の心の動きを、巧みな表情の変化で余す所なく視聴者に伝えてくれた。

SNSでも「今日は段田安則劇場」「非情な判断もするけど、筋は一本通っていて、修羅場をくぐって来た男の生き様を演じさせると天下一品」「ラストクレジットかくあるべし」と、改めて段田の演技力に平伏したというような声が相次いだ。初回から憎々しさ極まる演技で視聴者のヘイト(含む感心)を一身に集め、道長が超えるべき大きな壁として君臨した、まさに前半の最大の功労者といえる段田兼家。その退場は静かなものになるのか、ショッキングなものになるのか? 合掌をしながら、しかと見届けたい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。4月7日放送の第14回「星落ちてなお」では、現実の壁にぶち当たるまひろの姿と、藤原兼家の後継者問題とその最期が描かれる。

文/吉永美和子

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