【連載vol.21】見取り図リリー、ルーヴル展で”愛”を観る

2023.8.6 11:32

フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》が、ひと部屋目に。ハートに矢が刺さっているところが描かれ、下には不要になった弓矢を燃やす姿も

(写真12枚)

アート大好き芸人「見取り図リリー」が、色々なアート展へ実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けするという企画「リリー先生のアート展の見取り図」第21回でございます。今回は、「京都市京セラ美術館」(京都市左京区)で9月24日まで行われている『ルーヴル美術館展 愛を描く』です。

フランスのルーヴル美術館の作品が展示される展覧会というのは色々とあり、何度も行ったことあるのですが、今までとは毛色の違うものでした。サブタイトルにある「愛を描く」というのが良い仕事をしてくれています。

まず、いきなり出迎えてくれたのが、ブーシェの《アモルの標的》。18世紀に活躍したフランソワ・ブーシェとはロココ(注1)という美術様式を作ったといっても過言ではない超大物。いきなり出迎えてくれました。NGK観に行ったら「トップバッター阪神巨人師匠かい!」みたいなサプライズ!

この絵がまさに「愛」。キューピッド達がハートの的に矢を打っています。結びつけたい相手に矢を放つと好きになってしまうという神話のやつですね。キューピッドがいるなら矢を借りてみたいものですね。1日40〜50本は射ると思います(ちなみに、今回の展示ではキューピッドをクピドと表記)。

次に進むと、壁に第1章の最初のテーマである「欲情-愛の眼差し」と記されています。神話がベースであっても、人と言うのは決して純潔ではなく欲のある物だと教えてくれる絵画が並んでいます。ニンフ(妖精)を無理やり眠らせて眺める凌辱的なものや、旦那をさしおいて不倫相手を見つめる女神の姿も。愛への欲望が、目線だけで伝わってくるのです。

そのなかで、ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ(注2)の《眠るアモルを見つめるプシュケ》に、目が釘付けになりました。ある国の美しすぎる王女・プシュケとギリシャ神話の愛の神・アモル(先ほどのクピドとアモルは神話では同一人物)との愛にまつわる1幕が描かれているのですが、絵の美しさはもちろん、ストーリーが今にも動き出しそうな雰囲気。ゾクゾクしました!

次は「暴力と魔力」。女性を我が物にするためさらう瞬間などは、今までは「愛がゆえの衝動」的な言い回しなどでごまかしていたと思うんです。それをしっかり「暴力」と表現した今回の企画に感動! 相手の心を無視したら、それは愛ではなく暴力だという学芸員のメッセージがしっかりと伝わってきます。

ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ(兄)の《デイアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス》。ケンタウロスがヘラクレスの妻をさらう姿が描かれています

そのなかで気になった《デイアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス》という作品では、ヘラクレスの妻をケンタウロスが略奪する瞬間が描かれています。めちゃくちゃアカデミックで綺麗な絵だなと思って画家名を見ると、さっきと同じ、ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネの作品だったんです。勉強不足で初めて知る画家だったんですが、ラグルネのことを知れたのは今回の大きな収穫でした!

そして、テーマ「死が二人を分かつまでー恋人たちの結末」では、本当に愛が誕生するところから、死までを流れで見せてくれます。レオナールト・ブラーメルの《ピュラモスとティスベの遺骸を発見した両親たち》は、この展覧会でもっとも絶望感のある作品。恋人同士の結婚を親が反対し、勘違いしたことから、2人とも自害してしまう…その姿を親が発見するというものです(ロミオとジュリエットと同じ!)。愛というのが全て明るい方向に行くとは限らないなと改めて心に突き刺さりました!

そして第2章では、キリスト教を主題とした作品が並びます。聖母マリアが幼子イエスに愛を伝えている作品が並びます。まさにキリスト教を象徴する「愛」の形ですよね。次の第3章は「人間のもとに-誘惑の時代」で、第1部は、オランダ絵画です。オランダ黄金時代を代表する、ヘラルト・テル・ボルフやハブリエル・メツーの作品があります。服の素材なども描き分けが、緻密ですごい技術に感動しました。

サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》。人物が描かれている作品ばかりとあって、異質さが際立つ愛の表現方法

面白いなと思ったのは、サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》。手前から3つの部屋が描かれていて1番奥の部屋の壁に妖艶な絵画がかけられています。そして鍵を差したまま開いた扉、その下には今にも急いで脱ぎ捨てたであろう部屋履き。奥の部屋での慌ただしい情事を想像してしまいます。人物が描かれていないのに、1枚の絵でこれだけ想像させるのはすごすぎ!

次は、フランスが舞台となり「優雅な牧歌的恋愛」、ロココらしい作品が並びます。今回ロココの作品の多さから、「愛」が主題の作品が多いんだなと改めて思いました。貴族がお出かけして遊んでいる姿が描かれていて、彼らにとっては良い幸せな時代だったんでしょうね。フランス革命が起きるまでの幸せで牧歌的な時代背景をロココの絵画を通じて感じとってください!

そんなロココのスター、フラゴナール大先生(注3)の作品もあります。《かんぬき》という作品がまぁエロティック! 寝室で抱き合う男女、少し抵抗したのか寝具は乱れています。しかし、嫌がっているような感じでもあり、まんざらでもなく受け入れているような表情でもある女性と、誰にも邪魔されないように今まさに部屋のかんぬき(当時の鍵的なやつ)を閉める男。いやぁさすがフラゴニキ。やってくれます。

ジャン・オノレ・フラゴナール《かんぬき》、かんぬきを急に閉めるということは…想像が膨らむシチュエーション

そして最後の部屋のテーマは、ロマン主義(注4)。まさにロココが終わりロマン主義へ、美術の歴史も感じることができます。そして、今回のメインビジュアルにもなってる、フランソワ・ジェラールの《アモルとプシュケ》。これはすごい。鳥肌たつくらい美しい滑らかさ。愛の神と人間の恋の一場面です。今回の展覧会では、アモルとプシュケが度々出てくるので、2人の神話を知っていると、作品についてわかりやすいはず(注5)。

なんでこんなうまいんじゃ、とキレそうになって調べたら、ジャック=ルイ・ダヴィッド先生(注6)の弟子でした。そら、うまいわ! 先生が世界で最も絵のうまい1人に入るような人。関係ないけど、《ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠》なんてうますぎて涙出てくるよ! 話が逸れました・・・俺の絵画への愛が溢れてもうた!

純愛、家族愛、不義の愛含めて、やはり「愛」というのはどの時代も人間の中にある普遍的なものなんでしょうね。神話や聖書の内容がわからなくても心に響く何かがあるんです! 今も昔も同じやんと思うところもあるので、観て欲しい!

(注釈1)ロココ(ロココ美術)…18世紀にフランスの宮廷からヨーロッパへ広がった様式。立役者といわれているのはルイ15世の愛妾としても有名なポンパドール婦人。貴族がパトロンとなって、今でいうとコンプライアンス的にアウトと思われるような「自由奔放」な作品も(今回展示されているジョン・バティスト・パテルの《ぶらんこ》では、女性がブランコにのって、スカートがフワッと広がっているところを男性が覗き込む姿も)。小花模様など愛らしく華美なモチーフが多く、ピンク色を多様し、美しい女性が主役に。

(注釈2)ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ…18世紀のフランスの画家を代表するひとり、王立絵画・彫刻アカデミーに所属していたことも。弟と同名なので区別するためラグルネ(兄)と表記されることも。今回紹介しているラグルネの作品は、両方とも兄によるもの。

(注釈3)ジャン・オノレ・フラゴナール…18世紀のフランスで活躍し、ロココを代表する画家。今回展示されているブーシェに弟子入りし、最初は歴史ものを描いていたが、貴族からの仕事が次々と舞い込み、貴族の遊びや男女の関係を描くように。

(注釈4)ロマン主義…ロココ→新古典主義→ロマン主義。それまで理性が重視されていたが、個性や感性を大事にし、多様な美しさを表現。18世紀末から19世紀前半のヨーロッパ全体での芸術運動で、絵画だけでなく、文学・音楽・哲学なども含む名称。

(注釈5)アモルとプシュケ…美の女神ヴィーナスが、王の娘であるプシュケの美しさに嫉妬。そこで、息子のアモル(クピド)の愛の矢で、醜い男と結婚させようとしますが、アモルが自分自身を矢で傷つけて、プシュケに恋をしてしまう。最初はアモルは、プシュケに絶対に自分の姿を見てはいけないと言いつけ、神殿で暮らしはじめるが、プシュケは寝ている間に夫の本来の姿を見てしまう(そのときの絵が《眠るアモルを見つめるプシュケ》)。そして、約束をやぶったプシュケの前からアモルは消えるが、プシュケがアモルを探す旅へ。プシュケは数々の試練を乗り越え、最後は不死身となり、アモルと幸せに。

(注釈6)ジャック=ルイ・ダヴィッド…18〜19世紀に活躍した、フランスの新古典主義の画家。もともとロココ色が強かったが、イタリアに留学した際はカラヴァッジョ、プッサンなどを研究して、新古典主義に。ナポレオンが白い馬に乗って片手を掲げる《ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト》も有名、きっと観たおぼえある人も多いはず!

『ルーヴル美術館展 愛を描く』

ルーヴル美術館に所蔵される約38万点以上の作品から、16〜19世紀の西洋絵画で愛をテーマとした73点を厳選。ギリシア・ローマの神話画、キリストやマリアらが主役の宗教画、家族や夫婦、娼婦と客などを描いた風俗画など、幸福感あふれるものから悲哀に満ちた作品を4章にわたって紹介。今回の注目作品のひとつ、ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》は26年ぶりの来日。開館時間は8月1日から、1時間早めまり9時〜。期間は9月24日まで。一般2100円、高大生1500円、小中生1000円。

【見取り図リリーの近況】

バラエティ「見取り図じゃん」(テレビ朝日)での企画で、9月下旬に見取り図リリーが絵本作家デビューします! 岡山出身とあって桃太郎から着想した『ももからうまれたおにたろう』(サンマーク出版)、母親への親子愛や相方とのコンビ関係などについても投影させた内容に。8月から岡山・東京・福岡・仙台(全公演完売)を巡る見取り図初の全国ツアーに、最後は大阪で12月に予定(詳細は後日発表)。最新情報はオフィシャルファンクラブ「見取り図ポッセ」でいち早く発信、先行販売もあります!

『ルーヴル美術館展 愛を描く』

期間:2023年6月27日(火)〜9月24日(日)・月曜休館(9月18日は開館) 
時間:8月1日から9:00〜18:00(入場は閉場の60分前)
会場:京都市京セラ美術館 本館 北回廊1F・新館 東山キューブ(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
料金:一般2100円、高大生1500円、小中生1000円
電話:0570-200-888【キョードーインフォメーション】

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