真摯に役を生きる宮沢氷魚、発達障がいを抱える天才画家に挑む

2023.5.26 07:45

映画『はざまに生きる、春』で主演を務めた俳優・宮沢氷魚

(写真8枚)

■ 「僕は透くんがうらやましい」

──そんなこと言いだしたら、それこそレオナルド・ダ・ヴィンチとか、ゴッホとか、モーツァルトとかベートーヴェンとか発達障がいの特性を持っていたと言われていますもんね。

透くんもあれだけ素晴らしい絵をたくさん描いてて、天才であって。みんながみんなそういうわけではないですけれども、発達障がいの特性を持っている方は拘りが強い分、その道で才能が開花したときはほかの人よりもすごく優れているというのは演っていて思いましたね。透くんの場合、自分のライフワークを見つけられたということに関してはすごく恵まれているんじゃないかと。

──無意識ではなくね。自分で絵を描くことを選んでいる。

みんながみんな自分のパッションをぶつけられるものとか、ライフワークにしたいと思うものを持てるかと言ったら、そうじゃない人の方が多いですよね。だから、ある意味僕はそういう透くんがすごく羨ましい。自分が生きていく道がちゃんとはっきり見えていて、自分が描く絵には自信があって、それをいろんな人と共有していく思いがあって。僕もそうでありたいなと思わせてくれる作品でした。

──しかも透くんには志向性がハッキリあって、青に対するこだわりがものすごく強い。

そう、びっくりしました。青もあんなにいろんな種類があるんだって。あと、ペットボトルのことを語るときとか。

──あれ、すごいですね!ペットボトルの底に光が溜まってるんですよね。乱反射を起こしていて。

そうですよね。やっぱり自分が興味を持ったものには、ほんとにもうそこに熱量ががーっと注ぎ込まれていって、なんか独りよがりなことじゃなくて、自分だけのためにやってるんじゃなくて、「この素晴らしさを分かって!」という。自分の思いを誰かに伝えたいって心がすごく美しいなぁと思って。

──ああいう、なんでもないところから見えてくる宇宙観というものが透くんにはあるんだな、というカットでした。

透くんに見えてる世界というのが、我々に見えてる世界とちょっと違って。それこそ僕の好きなシーンで、取材を受けた後に外に出たら雨が降ってて、透くんが傘も差さずに外にワーッと出て「雨だ!」ってはしゃぐシーンがあるじゃないですか。僕、あそこで本当に透くんって素晴らしいなって思ったんです。僕も子どもの頃に雨が降ったら楽しかったし。

──台風が来たらちょっとワクワクしたりとかね。

そう。そんなドロドロになっても構わないみたいな。あの純粋さが子どもの頃にはあったのに、今だったら、面倒くさってなるじゃないですか。あの純粋な気持ちはどこにいったんだろうって思うんですよね。だから、あれだけ目の前にあるものを後先考えず楽しめるのは深いなと思って。

■ 「はざまで生きる」に込めた想い

──その一方、透くんは自分自身にレッテルを貼ってるようなところもある。僕は障がい者だから他人のことが分からないという漠然とした思いに、囚われてるところもあるんですよ。それが一番最後のシーンで別の光の美しさを見つけることになる。その構造が恋愛映画としても素晴らしいなぁと。

透くんもだし、春ちゃんも、お互いに影響し合ってどんどん変化していく。確かに透くんの場合はその成長スピードが遅いかもしれないんですけど、でも春ちゃんと出会ってなかったら、あの絵は描くことがなかったと思うし、透くんのなかで「幸せとは何か?」という答えは出なかったと思うんですね。人と繋がることで、自分の知らなかったことが活性化されていく、そこに僕はすごく希望を感じました。

──はざまで生きる、はざまで生きていくって決意させる。あの絵自体も素晴らしいですもんね。

素晴らしいです。僕が描いた訳じゃないんですけど(笑)。監督の中学の同級生である泉桐子さんが描かれていて、脚本を読んで、監督からこういう男の子です、ってことを聞いていくつか絵を描いてくださったらしいんですけど。見事に透くんの心を理解していて。僕も見た瞬間に、「あ!確かにこれは透くんが描きそうな絵だ」って。

映画『はざまに生きる、春』

2023年5月26日(金)公開 
(c)2022「はざまに生きる、春」製作委員会

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