「伝えたい。でも、言葉はない」ダンサー田中泯が踊り続ける理由

2022.1.27 21:30

俳優としても活躍する、世界的ダンサー・田中泯

(写真6枚)

「怒っても、笑ってもらってもいい」(田中泯)

──そうして始まったお付き合いが、今また新たな作品に結実しているのも素敵です。今回の映画で、田中さんが「わたしのこども」と呼ぶ、ご自身の子ども時代の思い出が、『頭山』(2002年、米アカデミー賞・短編アニメ部門正式ノミネート)などで知られるアニメ作家の山村浩二監督によってアニメ化されていますね。

あんなに可愛い坊主じゃなかったですけどね(笑)。僕のなかに圧倒的に記憶している子ども時代が在るんです。どんなに大人になっても、あの頃を忘れちゃいけないし、裏切ったり、抹殺したりする恥ずかしい大人になっちゃいけないと、30代の頃に子どもの側から規制したんです。だから今でも親しくなる人は、その人のなかに子どもっぽさを感じる人ばかりです。子どもがいるから正直になんでも言える。そういう守るべきお城なんです。

世界的アニメ作家・山村浩二が手がけた劇中アニメシーン (C)2021「名付けようのない踊り」製作委員会

──そのお話をうかがっていると、劇中でも紹介されているフランスの哲学者、社会学者ロジェ・カイヨワの著作『遊びと人間』を思い出します(註:1958年に出版された「遊び」に関する研究書。遊びのすべてに通じる不変の性質として競争・運・模擬・眩暈を提示し、これを起点に文化の発達を考察している)。

1978年に初めてパリで踊ったとき、どうしても踊りを観てほしくて、彼の部屋に行きました。彼はものすごい集中力で観てくれました。本当にかっこいい大人でした!

──映画の撮影期間中に、それまで封印していた舞台公演を復活させていらっしゃいますが、これは偶然ですか?

まったく偶然です。映画のために復帰したわけではないです。犬童監督は「東京芸術劇場」にスタッフを連れて3日間ずっと撮っていました。

──踊りを撮るという初めの取り決めを守り、田中泯=踊りであり、その踊りとはいったいなにかということをなんとか映画にしようという努力が伝わります。

ええ、懸命に取り組んでくれました。

映画を観て「怒ってもらっても、笑ってもらってもいい」と田中泯

──実は僕、2006年に京都「春秋座」でおこなわれた田中さんの公演を観させてもらっているんです。

ああ、そうでしたか。あのときは公演が終わってもロビーに人がいっぱいいて、「どうしたの?」って訊いたら、お客さんが帰らないんだって。僕がロビーに出ていったら多くの人が寄ってきてくれて、うれしかったですねぇ。

──僕もそのなかにいました(笑)。最後に、この映画をどう観てほしいとかありますか?

怒ってもらっても、笑ってもらってもいいです。むしろ実証として認識するためには、そこが飾られちゃダメだと思います。みんながこう思った、なんてことは僕は頭から信じてないので。少数派の意見の人が1人増えることの方がずっとおもしろいです。

映画『名付けようのない踊り』

2022年1月28日(金)公開
監督:犬童一心
出演:田中泯
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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