「伝えたい。でも、言葉はない」ダンサー田中泯が踊り続ける理由

2022.1.27 21:30

俳優としても活躍する、世界的ダンサー・田中泯

(写真6枚)

『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)や『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)などの代表作を持つ犬童一心監督が、ダンサー田中泯の踊りと人を追ったドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』が1月28日から公開される。『メゾン・ド・ヒミコ』以来交流を続ける2人が、田中泯=踊りであり、踊りの本質に迫った野心作だ。

取材・文/春岡勇二

「ただ踊りを撮った映像は息をしていない」(田中泯)

──この『名付けようのない踊り』、映画製作に至るまでの経過を教えてください。

犬童監督と知り合ったのは、『メゾン・ド・ヒミコ』に出たときです。以来、犬童さんは何度も僕の踊りを観に来てくれて、折りにふれ踊りについて話をするようになったんです。「どうやってこの踊りを作ってるの?」って。ときには議論というか口論のようになったりもしながら。それでいつしか自然な流れとして、踊りの映画を撮ることになったように思います。

──田中さんは、踊りを撮られることについてはどのようにお考えだったんですか?

踊りを映像で記録しても、そこにあるのはもう踊りじゃなくなっていると、僕はずっと言ってきました。なぜなら、踊る現場は外が多いわけですが、いちばん大事なのはそこの空気を通して伝わってくるものなんです。匂いだったり、音だったり、風だったり。あるいは観ている人の様子ですね。

──たしかに、田中さんの踊りでその要素は渾然一体です。

そう。立ちどまって観てくれる人、どっか座って観てくれる人、後ろを走る子どももいたりする、その場その場で全然違うわけです。ただ踊りを撮った映像では、そういうものが息をしていない、呼吸していないんです。だから犬童さんに言ったんです、「もし、田中泯の踊りを撮るなら、犬童さんが観て感じたその田中泯の踊りを再現して欲しい。映像の上の踊りを実現するのは犬童さんですよ」と。

──そのためには、犬童監督自身の踊りに対する深い理解とアプローチが必要ですね。

犬童組と最初に行ったのがポルトガルでした。僕はポルトガルのトレス・ヴェドラス市が主催する『Novas Invaoes』という芸術祭にダンサーとして呼ばれて行ったんだけど、同行してくれた犬童組にとっては、あのときが映画の実験段階だったと思います。

現地で計6、7時間は踊ったんですが、それを犬童さんが編集して十数分の映像にまとめてくれた。それを観せてもらって、正直おもしろいと思いました。全然飽きない。それで「おもしろいですね」って返事をしたら、犬童さんも「ひょっとしたら踊りの映画が撮れるかもしれません」ということで、撮影が始まったんです。

映画『名付けようのない踊り』の一場面 (C)2021「名付けようのない踊り」製作委員会

──実験で手応えを得た、と。

それで僕も言ったんです。「僕の踊りをどんなに切り刻んでもかまわない。順番を入れ替えてもひっくり返してもかまわない。ほかで踊った踊りがここにきてもかまわない。僕の方は、踊ったものの権利を一切放棄する。素材になります」と。そうしたら、踊りのほかにも僕が言ったこととか、書いたものとかがどんどん映画のなかに入り込んできたんです。

──映画を観ていても、その挿入が巧みでワクワクしました。

さらに子ども時分の部分はアニメにしてと、だんだん映画の全体像が見えてきて、犬童さんが「泯さん、ひょっとして観る人が2時間踊りを感じながら観られるのなら、これは踊りの映画だよね」って言う。僕も「それはすごい、すごい、すごい」って。だから、ほんとに時間を掛けて、犬童さんが熟成させていった感じなんです。

映画『名付けようのない踊り』

2022年1月28日(金)公開
監督:犬童一心
出演:田中泯
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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