「映画史に残る悪役」を描く白石和彌監督「作り手の誠意」

2021.8.28 20:15

メガホンを取った白石和彌監督

(写真8枚)

「これくらいやらないと、日岡の相手として足り得ない」(白石和彌監督)

──そもそも、鈴木さんを上林役に選んだ理由は?

白石:上林って、脚本を作ってるときにはやりたい放題書けるけど、「こんなの誰が演るんだよ!?」ってずっと思っていて。あぁ、故・渡瀬恒彦さんしかいないよな、とか(笑)。でも、僕の過去作『ひとよ』(2019年)に出てもらったときの亮平くんの役者としての取り組みがすごかったんで、彼なら作りこんでくれる、任せられるなという安心感があった。

※編集部注/渡瀬恒彦:『仁義なき戦い』シリーズなど東映のヤクザ映画に多く出演した俳優 兄は2020年に亡くなった俳優の渡哲也さん

──作品資料を読んだら、上林という役について最初から「日本映画史に残る悪役にして欲しい」って、鈴木さんにオファーされてるのが可笑しいなと。

白石:造形としてやりすぎてる感はあるんですけど、それくらいやらないと日岡(松坂)の負け戦の相手として足り得ない。どうせなら思い切ったところまで作ってみて、そこから引き算していこうかなと考えたんですが、意外と周囲から評判良くて。そのままいくことになりました。

上林役の鈴木亮平(左)と、日岡(松坂)のスパイで上林の舎弟・チンタ役の村上虹郎 (C)2021 「孤狼の血 LEVEL2 」製作委員会

──間違いなく日本映画史に残る最悪キャラになった。やることが本当に無残極まりなくて、親に盾突くどころじゃない。でも、上林が抱えるトラウマ含め、過去を描くシーンがあります。美術セットや撮影含め非常に鮮烈に作られていると思うんですけど、その背後の赤い原爆ドームが巨大な怒りの意味を浮き上がらせる。

白石:上林の原動力である「怒り」の表れですね。実録ヤクザ映画をずっと書いていた脚本家・笠原和夫さんが、ヤクザを掘れば掘るほど、在日と被差別部落に行き着くと。逆にそこを描かずヤクザは描けないから、(タブーに触れることを恐れて)みんなヤクザ描くのを辞めていくんですね。エンタテインメントとして面白いものを作るのは当たり前なんですけど、そこに1秒でもそうした問題意識を入れるのは、今の作り手としての誠意だと思ったんです。

──そこで上林が在日だってことが分かるし、日岡のスパイとして彼の懐に入りこむチンタ(村上虹郎)と、その姉の真緒(西野七瀬)も在日。同じ民族としての繋がりみたいなものと愛憎がしっかり描かれる。

白石:この映画のなかで何かしらの犠牲になっていく人たちは、「差別される側の人たち」ということが分かれば、何か感じてもらえるんじゃないかなって。

──それが日岡を代表とする公権力との戦いのなかで展開されるわけですね。一応『孤狼の血』ってヤクザ映画であると同時に刑事モノ、警察内部の戦いもしっかり描かれる。日岡の目上には前作にも登場した不穏な空気の滝藤賢一がいて、本作で新しくバディを組んだ中村梅雀も、さすがの存在感でした。

白石:前作でも、日岡対ヤクザ、対刑事の戦いがあって。続編では同じことは出来ないかなと思っていたんですけど、脚本の池上純哉さんと話してるうちに、敢えてもう1回入れることによっていろいろ見え方も固まってくるだろうと。すごく上手くいきました、キャスティングの妙も踏まえて。

映画『孤狼の血 LEVEL2』 R-15

全国の劇場で公開中
監督:白石和彌
原作:柚月裕子「孤狼の血」シリーズ(角川文庫/KADOKAWA刊) 企画協力:KADOKAWA
出演:松坂桃李 鈴木亮平 村上虹郎 西野七瀬
斎藤 工 ・中村梅雀 ・ 滝藤賢一  中村獅童  吉田鋼太郎 ほか
配給:東映

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