細田守監督、仮想空間への想い「虚構の方が現実をさらけ出す」
「叩かれなきゃネットの世界って感じがしなくて」
──その仮想空間において未来や希望を映す一方、細田さんはネット空間特有のネガティヴな一面も常に扱っていますよね、今回は特に。
そこがやっぱり10年前の『サマーウォーズ』や、20年前の『デジモン』と違うところですね。一言でいってインターネットの世界が誹謗中傷の世界になっちゃった。それを無視して、もはやインターネットの世界を描けない。若い人がネットのなかでなにかやろうとしたら、すぐ叩かれるわけじゃないですか。
そんな誹謗中傷は乗り越えてやって欲しい、という思いで描きましたね。すずもネットのなかでベルという歌い手になったら最初はすごく叩かれる。でも叩かれなきゃネットの世界って感じがしなくて。
──そのアンチの存在があったからこそ、ベルのシンパ(共鳴者)も現れて、ぐんぐんフォロワーが増えていく。竜も〈U〉の嫌われ者だけど、若年層には「かっこいい!」と圧倒的に支持されている。そうした世代格差、ネットの捉え方の違いというものも描かれている。最初、〈U〉のアナウンスとして「現実はやり直せない。でも〈U〉ならやり直せる。さあ、世界を変えよう」って言葉が出ますが、なんか胡散臭いんですよね(笑)。でも終盤でそれがリフレインされたときには、本当にネットで世界が変えられるかも知れないというポジティヴなところに持っていかれる。
同じ言葉でもすごく違って聞こえるなぁ、っていうのがありますよね。最初は「え~本当?」みたいな、なんかあやしい水素水でも買わされるんじゃないか(笑)、みたいな感じなんだけど。ナレーションをやってくれた日テレの水卜麻美アナもそれを踏まえて夢を持たせて言ってくれたので、全然違って聞こえますよね。
──ベルが最後、三日月を背景に鯨に乗って宙に上っていく。最初、出てきたときはあまり気がつかないんですけど、シルエットになると鯨の身体にケーブルみたいなものが長くたなびいてるんですよね。あ、これってハーマン・メルヴィルの『白鯨』だ、モビー・ディックにエイハブ船長が刺した銛なんだなと。『バケモノの子』からやっぱり繋がってるだな、と。
そうですよね。「どうしてそんなに鯨を出すんですか」とよく言われるんですけど、鯨ってエイハブの時代には悪魔みたいに描かれているし、ひるがえって現代では平和の象徴みたいなイメージを押しつけられている。つまり人間の都合のいいように弄ばれてるのが鯨って存在。同じように、狼もそうじゃないですか。どこかそういう存在に肩入れしたくなるっていうか、人間の都合でいろいろ言われる動物を僕は応援したくなるんです。
──竜というか、ドラゴンもそうですよね。架空の生物ではあるけれども、悪魔でもあり聖獣でもあり、どっちの意味合いもある地域も多い。そういえばすずの親友・ヒロちゃんの家にもさりげなく河田小龍の有名な龍の衝立があったりする。そういえば、河田小龍の生まれは、この映画の舞台となっていた高知ですよね。
そうです。高知県って、今回の映画のモチーフと一致したんですね。まず坂本龍馬がいるし、竜もいるし、鯨も。鯨といえば実は高知県なんですよ。
──土佐湾は名産地ですもんね。
そのうえ、仁淀川っていう綺麗な川が流れていて。「限界集落」っていう言葉が生まれたのがその仁淀川沿いらしいんです。
──え~、そうなんですか!
高知大学の大野晃さんていう社会学の人が、90年代に作った言葉で。まぁ、確かに実際に行ってみると、小学校の4校に3校が廃校なんですよ。そのぐらい子どもが少なくて。
──すずが通学に使ってるバスも、もうすぐ廃線になっちゃうくらいですもんね。
実際、心配になりますよ。ロケハンでバスに乗るじゃないですか、路線バスなのに全速力でバス停、どんどん通り越して誰ひとり乗ってこないんですよね。でも高知だけじゃなくて、僕の田舎の富山もそうですけど、これから日本って、東京や大阪、名古屋、福岡みたいなところに集中して、ほかの地域って多かれ少なかれ過疎化していくのは避けられないわけですから、そんななかで若い人たちがどうやって生きていくかってところに考えが行き着いちゃう。
──そういう意味では、どこに住んでいてもネットの存在は世界中を瞬時に繋ぎますよね。監督、高知県は個人的に馴染みがあるんですか?
いや、今回行くのは初めてだったんですけど、20代の頃に司馬遼太郎の小説を読むとですね、龍馬が脱藩したときの高知から京都までの道のりを辿りたくなる。そういう意味で憧れの土地だったんです。実際に行くと、自然はメチャクチャ美しいのに現代の社会問題がたっぷり入ってる。そのギャップっていうか、地域の二面性ですよね。歴史的にすごい蓄積とか風土がある一方で、すごく重い社会問題がのしかかってる。そうしたなかで真実をどうやって見い出すか、みたいなことなんだろうなと思いますね。
──監督は『おおかみこどもの雨と雪』みたいに、田舎へ移り住んで自給自足で畑をやって、でも現実的な問題に直面して、みたいなところもちゃんと描かれるわけだから。
映画だと田舎って理想的に描かれがちですけど、僕は富山出身なんで、全然そうじゃない田舎っていうのを知ってもらうのもいいと思うんですよね。
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