森見登美彦、自著『夜は短し』舞台化に「原作も工夫しとけば…」

『夜は短し歩けよ乙女』原作者の森見登美彦 写真提供/KADOKAWA
作家・森見登美彦の累計売上160万部を超えるベストセラー小説『夜は短し歩けよ乙女(以下、夜は短し)』。2017年には星野源や花澤香菜らで劇場アニメ化され、大ヒットを記録。冴えない男子大学生の「先輩」が、サークルの後輩「黒髪の乙女」に恋をし、さまざまな騒動に巻き込まれる様を描いている。
そんな『夜は短し』が舞台化。脚本・演出を手掛けるのは、同作のアニメ映画の脚本をはじめ、長年森見とタッグを組み、「フィクション永久機関」と小説家・万城目学に称されるほどの間柄、ヨーロッパ企画の上田誠だ。森見が「集大成となる」と期待する、今回の舞台について話を訊いた。
取材・文/吉永美和子
「ミュージカルっぽい、今までで一番密度のある脚本」
──『夜は短し』は、天衣無縫な「黒髪の乙女」と、彼女が好きだけどなかなかアプローチできない「先輩」が、京都の街で次々と不思議な出来事に出くわす、キュートな冒険物語です。アニメはともかく、舞台化は難しい作品ではないかと思ってました。
そうかもしれないですね。僕は小説を書くとき、目で読むことを想定しています。とくに『夜は短し歩けよ乙女』はそういう方向で一番とんがっていた時期のもの。舞台は耳で聞かないといけないので、見る人は大変なんじゃないか、というのは少し心配でした。
──確かに「詭弁(きべん)踊り」とか「路傍(ろぼう)の石ころに甘んじる」とか、音で聞いただけだと、数秒ぐらい迷子になりそうな言葉が多いかもしれません。
僕は、その漢字を「見た」ときのイメージで、「ここはあえて、難しい漢字を使いたい」と思って文章を作っていくところがあるけど、それはやっぱり音読に向いてないんですよね。でもそこは (今回演出を担当する) 上田さんも、できるだけ原作の言葉を活かしつつ、耳から入ったときにわかりやすいというバランスをすごく考えてらっしゃるとは思います。
──舞台版の脚本は、すでにご覧になったそうですが。
僕がこれまで上田さんから聞いたアイデアがいろいろ詰め込まれていて、今までで一番、ボリュームも密度もある脚本でした。乙女が進んでいくに連れて、舞台全体の世界も動くという、演劇の舞台では普通避けると思うような見せ方をするともおっしゃってましたね。今回は結構、言葉を音楽に乗せて語っていくそうです。
──しかも「ラップが多用される」と、小耳にはさみました。
仮(のヴォーカル)で上田さんが歌ってる(劇中の)音楽も聞きましたよ(笑)。さっき言ったバランスのことを考えたときに、上田さんは音楽を選んだんじゃないかと思います。そういうミュージカルっぽいところは、アニメ映画の方でも湯浅(政明)監督が入れられていましたし、なにか歌を使いたくなる原作なのかな? と思います。

「どこまでが上田さんの脚色なのか、どんどん曖昧に」
──それに加えて、先輩と乙女のキャラクターを魅力的に描けるかどうかも、大きな鍵になるかと推察します。先輩役の中村壱太郎さんと、乙女役の久保史緒里さん(乃木坂46)には、どういう印象を抱いてますか?
壱太郎さんは、一度対談でお話しましたが、とても上品な雰囲気の方で。実際に自分が、あの小説のような生活をしていた頃は、ボロい四畳半でウダウダしていたので(笑)、そこはちょっと気が引けましたね。久保さんは映像で拝見しただけですが、やはりこちらも僕がボンヤリ思い描いた乙女像より、ちょっとゴージャス。だからこそお2人が、どういう風に「先輩」と「乙女」になっていかはるのかな? というのが楽しみです。
──ほかに気になっている、俳優とキャラクターの組み合わせはありますか?
李白役の竹中直人さんですね。僕が想定していた李白さんとは、全然違うんですけど、上田さんの脚本では、かなり竹中さんを想定した台詞が書かれているので、一体どうなるんだろう? と。
──とはいえ、今まで上田さんが脚本化した作品を振りかえると、原作を結構イジっているにもかかわらず、最終的には「すごく森見ワールドだった」という感じに収まりますよね。
その辺の狭間が、上田さんはすごく上手なんですよ。原作の要素と、上田さんならではの要素を、すごく巧みにバランスを取ってやってはるなあと思って見ています、毎回。
──たとえばアニメ版の『夜は短し』では、パンツ総番長の想い人をほかのキャラに替えることで、意外な伏線回収につなげるという離れ業を見せてましたし。
あれはですねえ、僕が「ああいう風にしようとしたけど、できなかった」という話をして、それを活かしてくださったみたいです。今回の舞台でも、そういう部分があると思うんですけど、どこからが僕の言ったことで、どこまでが上田さんの脚色なのかが、どんどん曖昧になってきています(笑)。
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