SNSに囚われた女性と写真家「人から見られないと自分は存在しない」

2021.3.1 19:20

淡々と趣味で写真を撮り、写真館ではリタッチがメインとなってしまっている械を演じる永井秀樹。(C)2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.

(写真4枚)

「『自分らしく』なんて言葉は死語と言っていい」

──この映画の写真家も、生計はほとんどレタッチ(コンピュータでの写真修正)に拠っちゃってる。まあ、写真芸術そのものも、生のまま提出するのは少なくなって、ほぼ加工工程込みのものになってますしね。写真学校でもその技術を教えるし。

そうです、今では多くの写真家がそうなってますね。僕が在籍する会社はピラミッドフィルムっていうんですけど、そこの会長が操上和美さんといって、今84才くらいでまだ現役なんですよ。

──あ、そうなんですね。大写真家さんじゃないですか。映画も撮ってられるけど(2008年の『ゼラチンシルバーLOVE』)。

1960年くらいから写真家やってるんですけど、写真は2回変わったって言ってて、1回目はデジタルになってモニターで写真が出るようになった。自分が撮ってる写真を自分以外の奴らが見てて「う~ん」とか「違うな」とか言ってる。

それがすごくストレスだったって。自由にできないわけですよね。そして2回目はレタッチですね。撮ったあとになんでもできるということは、撮るときは素材撮りでしかないんですよね。

ついには被写体である本人が、自分がこういう風に自分を見せたいというのに口を出すようになって、「このほくろ消して。これは活かして」とか。そうなると写真家は、どんどん周りから消費されていく自分を感じはじめますね。

──まさに『写真の女』の、お見合い写真のレタッチに偏執的になる女性のように。しかし、モノをありのままに撮るべき写真家であるはずの男も、膨張していく女の注文に粛々と荷担してるわけだから余計に事態は難しくなるわけで。でも、「他人を通してしか自分を愛せないの」って、ああもはっきり言われちゃうと(笑)。

でも、正しくそうだと思いますね。写真が人に見せるものになった以上、人から見られないと自分は存在しないというのは。ちょっと前まで「自分らしく」なんて言葉がありましたけど、今や「自分らしく」なんて言葉は死語と言っていいと僕は思ってるんで。

今、世の中で起こっていることは人から見られるということを意識せずにはいられないですね。リモート打ち合せでも自分で自分を見てて、他人を意識してる自分の顔が見える。

他人の目線を意識せざるを得ない。他人を通してしか自分が何者かというのを感じられないというのは、やっと人々が気付き始めたところだと思いますよ。

いいねの反応に一喜一憂する今日子役を演じる大滝樹。(C)2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.

──ただ、この映画の女性は、自分から望んだものではないにしろ、身体に傷を負うことで同調性から外れたひとつの特殊性を得てしまいます。

これは視覚的な問題ですね。描くものを画で語らなければいけないので。心の傷は見えないわけで、それを感じさせるにしても何かビジュアル的なものが必要だから、ことさら傷を大きく作りましたね、あれがリアリズムかと言われたらそうじゃない。

──しかも特殊メイクに西村喜廣さん(日本屈指のホラー系特殊造形師)をわざわざ連れて来てるっていう(笑)。

あれは彼女の心の傷の比喩表現と捉えてもらって良いんですけど。男は心の傷を隠しているんですよね。だから他人には嘘をつき、触れないようにしておこうとしてるんです。

でも、この女性は男に傷を見せるんですよ、これが私よと。傷を隠さずに明かされて、その人の傷に触れることによって深い関係に陥ってしまう・・・というようなストーリーをかなり視覚的にやってみたわけです。

──傷へのフェティシズムみたいなところは大いにありますね。サディズム=マゾヒズムにも通じるような。

重なるところはあるんですよね。結局どっちがコントロールしているのかというと、サディストをコントロールしているのはマゾヒストだという。

──「奉仕するサディスト」というのはよくある相関関係ですから(笑)。そういう風なところは確かにあるし、交尾直後のオスをメスが食うカマキリをメタファーに持ってくるくだりも、抽象的ではあるけれども存外具体的なセックス・バトルの関係で。あのあたりも分かりやすいかもしれませんね、海外で。

シンボルを愚直に出してるので、その潔さを感じられたかもしれないですね。「今、これを見せるカットです」と明らかに分かる漫画的フレーミングでやりましたし。

──カマキリが動く音であるとか、ものを食う音であるとか、食われる音であるとか、音響が思いっ切りクローズアップされますしね。もちろんそんな音は作られたんでしょうね。

作りました(笑)。実際にカマキリの食べる音とかは聞こえないので。あれは僕たちがいろいろ食べて作りました。演じる方々にも「食う・食われる」を意識しろと。

『写真の女』

脚本・監督:串田壮史
出演:永井秀樹、大滝樹、猪俣俊明、鯉沼トキほか
配給:プラミッドフィルム
(C)2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.

関西の映画館:第七藝術劇場(2月27日〜)

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