2020年下半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

大伴恭一演じる大倉忠義、今ヶ瀬渉を演じる成田凌。©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
春岡「彼に対しては、褒め言葉としての木偶の坊」
田辺「あと、『映像研には手を出すな』が僕は好きです。乃木坂46の齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波のキャラクターへの没頭度がすさまじい。漫画的な演技とか言っている人がいるみたいだけど、そんなことないですよね」
斉藤「全然、そんなことはない。ちゃんと落とし込んでいる。だってあまりデフォルメしてへんやん、あの3人は」
田辺「ロボット研究同好会との共同作業で、ロボット作りについてどこまでリアリティを求めるかという話も良い。庵野秀明監督の“シン・ゴジラ論”みたいなものですよね。巨体を支えて前に歩くには、どういう造形にするべきかとか、もう一本の足代わりになる太い尻尾が必要であるみたいな。あと何より音響部の存在ですよね。ドキュメンタリー映画を除けば、音響制作者にスポットあてた日本の劇映画はあまり見当たらない」
斉藤「音響部には、先輩がためにためた音のサンプルがいっぱいある。リールが山ほどある。その貴重さに気づいた映研が、自分たちの部室に全部引越しさせる。アジトみたいな地下室でずっと作業しているんだよな(笑)」
田辺「で、音圧がすごすぎて、地下室から地響きが聞こえてくるという。演じた桜田ひよりは注目の役者のひとりですね」
斉藤「沖田修一監督の『おらおらでひとりいぐも』は観た? 」
田辺「沖田監督の一つの集大成でしたね。老人の寂しさをあんなに楽しく描けるなんて、びっくりですよ」
斉藤「山崎努の『モリのいる場所』(2018年)の延長線上みたいなもの。原作もおもしろいんだけど、悲しみをあんな表現にはしてない。あれがやっぱり大きいな。主演の田中裕子が圧倒的。今年の主演女優賞は間違いないかな」
春岡「白石和彌監督の『ひとよ』(2019年)もそうだったけど、田中裕子みたいな怪物はいないよ。あと図書館で受付をしている鷲尾真知子がいい味を出してるじゃない。田中裕子に太極拳を勧めたりするけどダメで、それでも粘り強く勧めたら最後に『行ってみようかな』というやりとり。田中裕子を説得できるのは、鷲尾真知子くらい。女優同士のバチバチではないんだけど、そりゃ見応えあるよな。だって、宮藤官九郎、濱田岳、青木崇高の三人が寄って集って田中裕子に立ち向かっても、田中裕子は『なんすか? それ』って感じなんだからさ」
田辺「東出昌大の、食堂シーンで一人称の『おら、おら』を連発するところも見事。飯をがつがつ食いながら、そんな自己主張、あるかよっていう(笑)。でも東出がやると妙に素朴に見えたりもするし、すべて成立するんですよね。映画の画になる。あらためて、東出昌大は映画的な俳優であると感じました」
斉藤「東出くんは何を観ても良くってね。同じく蒼井優と共演した『スパイの妻』も含めて。あの映画は、蒼井優、高橋一生がいわゆるオペラティックな演技をしていれば良いわけであって、現実に引き戻す人間を東出くんがすべてやっている。蒼井優を相手にそんなことができるなんて大したものだよ、やっぱり」

春岡「東出はうまくない。下手なんだけどさ、それが良いんだよ。いつも言ってるけど、褒め言葉としての木偶の坊(でくのぼう)。皮肉でもなんでもなく、スターの証だよ」
斉藤「そうそう。田辺くんがこの鼎談の記事をまとめて書いているけどさ、多分気を使って『東出は木偶の坊』ってコメントは毎回削っているよな(笑)。でも、木偶の坊が良いのよ。かつての松竹映画の俳優っぽい。佐野周二、佐田啓二とかさ。あと昔の三浦友和。相米慎二監督の『台風クラブ』(1985年)に出てから上手くなっちゃったけど。昔のハリウッドならロック・ハドソンみたいな」
田辺「はい、一応気を使って消してますね(笑)。でも確かにロック・ハドソンは分かります。日本で昭和の七三分けが一番似合うのも東出昌大、軍服が似合うのも東出昌大。体がデカくて見栄えするし、独特のカタさがまた良い。『おらおら』の蒼井優との食卓の周りを追っかけっこするところとか」
斉藤「ただね、『スパイの妻』は画が薄いのが難点。8Kが合ってへん。陰影の人やん、黒沢清監督って。白さの陰りとかさ。NHK BSのスペシャルドラマが元々だけあって、明晰すぎてもうひとつ薄い。撮影なども全然下手ではないんだけどやっぱ質感が黒沢映画のキモではあって、その点で不満はすごくある」
春岡「アングルも良いんだけど、でも黒沢組の撮影・芦澤明子さんならそのあたりがまた違って見えたんだろうなってのはあるね」
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