2020年下半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

2021.1.2 09:15

大伴恭一演じる大倉忠義、今ヶ瀬渉を演じる成田凌。©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

(写真8枚)

新型コロナウイルス感染の影響で、公開が延期されていた映画がようやく公開されはじめた2020年の下半期。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が歴代1位という記録を打ち立てたものの、上映期間が短かったり、通常のように俳優や監督が舞台挨拶などでアピールできる場を失ってしまった作品も少なくないような状況に。

そこで、数々の映画メディアで活躍し、Lmaga.jpの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2020年・下半期公開の日本映画からベスト3を厳選、そのほか見逃したくない映画についても紹介。

文/田辺ユウキ

田辺「日本映画はトータルして行定勲イヤーでした」

斉藤「今年は新型コロナの影響もあって上半期に上映する予定だったものが下半期にずれこみ、日本映画、外国語映画、どちらも前代未聞の公開本数に。しかも、ネットフリックス、アマゾンプライムなんかのオリジナル映画も増えているよね。僕はなるべく全部、追うようにしているけど」

田辺「そんななかで大きなトピックスは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットでしたね。まだまだ記録を伸ばしそうですが、ここではあえて触れずに・・・日本映画はトータルして行定勲イヤーでした。上半期はリモート映画『A day in the home Series』で今年のコロナの状況にいち早く反応して作品をつくり、下半期は『劇場』、『窮鼠はチーズの夢を見る』という2本の傑作が公開されました」

斉藤「行定さんが自ら言っていたんだけど『劇場』は『嫌いだ』という人も少なくないらしい。でもその気持ちも確かに分かるよね。近親憎悪的な感覚。『自分もこいつらと同じようなものだけど認めたくない』という方がいると」

春岡「山﨑賢人が演じた演劇作家・永田が、まぁ酷すぎるからね。そして、松岡茉優扮する恋人・沙希もあれは結局、男をダメにする子だよなあ」

田辺「だけどダメ男を好きになってしまう沙希のような女性は現実的にたくさんいるし、結局はどちらもかなり酷いから、ミルクマンさんがおっしゃったように『嫌い』という意見も確かにあると思います。でも松岡茉優の芝居のアプローチの良さもあるから、あのやさしさについつい甘えてしまう気持ちも頷けます」

斉藤「松岡茉優は、そういう男に惚れる自分に自覚的なところがあるはず。だから賢人のネガティヴな自己嫌悪の甘ったるさに本当にキレたときすっと素に戻ってさ、逆襲するシーンの怖いこと、怖いこと!」

主人公の永田演じる山﨑賢人と、沙希演じる松岡茉優。©2020「劇場」製作委員会

田辺「ずーっとあの優しい声色で永田を受け止め続けてきたのに、一瞬『でも、私って頭良いとこあるじゃん?』って。全部、あなたのことを分かってやっているし、それでも好きなんだからねという」

春岡「『そんなにバカじゃないじゃん?』ということだよな。あの言葉も本気だし、何より沙希にとって永田は同志なんだよ。地方から出てきた人間が東京で暮らしていくための同志であり、互換関係。おかしいのは、沙希が『私もう東京ダメみたい』って言ったときに、永田は『彼女にとって東京のほとんどである俺がやっぱりダメなんだ』ってなるところ。自惚れんじゃねぇよ、お前それは違うんだぞって(笑)」

斉藤「最後まであいつは自虐癖だけど、ナルシストでダメな奴。最後も下北のちょっと大きな劇場をいっぱいにしているくらいで、それくらいしか成功していないのよ。King Gnuの井口理が扮した劇作家は大劇場で蜷川幸雄作品みたいなことをやっているわけやんか? 元から才能が違う」

春岡「ラストはきっと2、3年後になっているよね。俺は、松岡の指に指輪があるかどうか気になったんだけど、一応そこはないんだよね。でも本当に結婚していないのか、永田の芝居を観劇する前に指輪を指から抜いたのかは、分からない。そんなのはどっちでも良いんだけど、ただちょっと気になる。指を見せるような感じで、でも見せていないのは大事だよね」

田辺「そういった『赤裸々ではない』という部分の良さが『劇場』は光っていました。沙希とバイト先の店長の関係とか。家に上がっているシーンもあるから、実は何度か肉体関係を持っていたのかどうかとか、それとも一緒に演劇を観ただけなのか。語られない分、生々しい」

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