芋生悠「豊原さんは絶対的に信頼、小泉さんは姉御」

2020.8.23 20:15

高齢者施設で働く、山下タカラを演じる芋生悠

(写真6枚)

「『ソワレ』チームは頑固な人ばかり」

──あともう一つこの作品から感じ取れるものは、「逃げる勇気」が生きる上で大切であること。多くの人は、困難に立ち向かうことを強く訴えます。しかし昨今の自然災害やSNSの状況もふくめ、すべてに対して立ち向かったり、受け止め過ぎたりすると心を失います。タカラは父親の手から逃げ出せずにいたから、心が壊れていた。そして、その場から逃げたからこそ立ち上がっていけた。この作品からは、逃げる大切さを感じました。

これは私自身の話なのですが、学生のときにイジメにあっていて、そのことを親に言えなかったんです。でも親は、家に帰ってきた私の表情で気がついた。取り繕っている私に、「何かあったでしょ?」と尋ねてきたので全部を話したんです。そうしたら母親が「それなら、無理をして行かなくて良いから」と言ってくれたんです。

──そのひと言は助かりますよね。

そうなんです。それからは、逆にいろんなことにチャレンジができるようになった。絵を描く楽しさを知ったり、あらためて自分と向き合ったり。逃げる勇気の大切さを、あのお母さんのひと言で気づきました。逃げることって、実際には逃げていることにはならない。闘うための逃げなんです。何かをやることが面倒臭いから逃げる、とは違います。

私の実体験から言いたいのは、「逃げ」が普通に許されるということを知ってほしい。ここで無理をしてずっと同じことの繰り返しや負の連鎖にはまってしまうと、もっと迷ってしまうし、壊れてしまう。「逃げていいんだよ」って思います。

──撮影現場の様子についてもお伺いしたいのですが、制作陣、出演者陣も個性的な人ばかりですね。

『ソワレ』チームは頑固な人ばかり。作品づくりにおいて、確固たる気持ちで見据えているものがある。そういう姿勢の方たちに囲まれていたから、頑張れた部分があります。

和歌山県御坊日高が舞台となっており、スタッフとして豊原功補と小泉今日子が支えてくれたそう

──主演の村上虹郎さんの頑固さは、どういうところですか。

村上さんは、自分が見てきたもの、信じている言葉、それらをずっと大切に持っていらっしゃる気がします。信頼している人からもらった大切な言葉を、一言一句変えずに自分のなかに持っている。そういう部分で、良い意味での頑固さを感じます。

──外山文治監督は過去作を観ても、粘り強くワンシーンを撮っている印象があるので、いかにも頑固そうですよね。

そうですね、監督はかなり頑固です(笑)。テイクを何度も重ねていきますし、何があっても曲がらない。どんな状況でも「自分は監督としてここに立っている以上、やらなきゃいけない」という気迫を感じます。

「死ぬ気でやる」とおっしゃっていましたが、撮影が進むにつれてどんどん痩せていくので、「大丈夫かな」と本当に心配になりました。でもそういう監督だからこそ付いていくことができました。

──あと何と言っても欠かせないのが、プロデューサー陣の存在感の大きさですね。

豊原功補さん、小泉今日子さんは、役者ということもあって、映画に対して、そして演じる場に対しての感謝を持っていらっしゃる方々。どうすればその場所をもっと豊かにできるか、より自由に表現できるようになるか、それを考えていらっしゃいます。

これから出てくる若い役者や作り手のために、「映画ってこんなにおもしろいんだよ」と感じてもらえるようなチャレンジをしていて、必ず物事の先を見ている。ブレない、というところでの頑固さを感じます。

役柄については、村上虹郎とは「あえて何も話さなかったです」と芋生。© 2020ソワレフィルムパートナーズ

──豊原功補さんはプロデューサーとして作品の世界観を作り出す役割を担っていらっしゃいますが、印象はいかがでしたか。

豊原さんは、脚本の読解力がずば抜けています。「そんなこと、考えもしなかった」という視点で物事を見て、そして指摘してくださるんです。豊原さんは、選ぶ方向に迷いがない。絶対的に信頼できるものがあります。

──アソシエイトプロデューサーの小泉今日子さんは、誰もが知る国民的スター。でも東京でおこなわれた完成報告会では、現場で送迎のドライバーをつとめていたことなどが明かされました。芋生さんは、小泉さんにどんな言葉をかけられましたか。

小泉さんからは、「芋生はまあ、大丈夫だよね」という感じでした(笑)。以前にも舞台のお仕事をご一緒させてもらいましたし、そこでいろいろと見てくださっていたので、「今まで通りやれば良いよ」って。小泉さんは私にとって姉御という感じ。

──すごく良い関係性ですね。

いろんな世界を見てきた小泉さんが、映画をイチから生み出すことに挑戦されていて、自分も刺激になっています。私も映画作りを同年代とやったりしていますが、すごく大変ですから。だからこそ、小泉さんのチャレンジする姿勢は格好良いです。

──映画の内容面もそうですし、キャスト、スタッフにとってもこの先を感じさせる作品ですね。

そうなんです。私もできることなら、いま救いの手を差し伸べている人たちをみんな救い出したい。でも自分自身、まだ余裕がないし、これからどうなるんだろうという不安もある。

ただ、そんな私にとって『ソワレ』はお守りのようなもので、これを観ると「とりあえず、明日までがんばってみよう」と希望を見いだせる。路頭に迷っている人、どうやったら前に進前に進めるか悩んでいる人、そんな人たちに観てほしいです。

『ソワレ』

2020年8月28日(金)公開
監督・脚本:外山文治
プロデューサー:豊原功補 共同プロデューサー:前田和紀 アソシエイトプロデューサー:小泉今日子
出演:村上虹郎、芋生悠
配給・宣伝:東京テアトル

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本