神戸市とコロナ禍の軌跡、報道と患者プライバシーの間で葛藤

2020.7.24 07:15

253ページにも及ぶ詳細な報告書。神戸市の公式サイトで公開されている

(写真10枚)

保健師の使命感「患者さんを守り、感染を拡大させない」

では、現場の実情はどうだったか。患者と接触し、行動履歴などの聞き取り調査にあたる保健師を統括する、健康局 保健企画担当部長の山﨑初美さんに話を訊いた。

患者の情報をなるべく早く集めるため、保健師は病院だけでなく、入院調整中の陽性患者宅を訪問することも多く、「家に入る時点で防護具をつけていると近所に知られてしまうので、玄関で装着して患者さんから聞き取りをし、家を出る前に脱いで・・・という点に、もっとも気を配りました」と山﨑部長。

(1)自身の感染予防、(2)患者への聞き取りと心のケア、(3)近隣に知られないための工夫、と3つの配慮が同時に求められていたのだ。

報道や情報共有についての反省点
報道や情報共有についての反省点

行動履歴をヒアリングするなかで、「『感染しただけでもショックなのに、調査されて公表までされては、ここに住めなくなる』と感情的になったり、涙を流す患者さんもいらした」と明かした山﨑部長。

「私たちが感染拡大防止のために公表すべきと考える情報と、市民のみなさんが知りたい情報のレベルには差があります。それをどこまで出すかが難しかった」と振りかえる。

寺﨑前副市長も会見で、「報道記者と接し、できる限り情報を提供したい事務職員と、感染者に寄り添い感染拡大防止を目的とする現場の職員の間に、コミュニケーションの齟齬、いわば対立が発生し、一時は深刻な状況になった」と述懐している。

こうした困難がありながらも、保健師たちの「患者さんを守り、安心して治療を受けてもらう」「感染を拡大させない」という使命感が薄れることはなかった。

患者の不安をやわらげるため、逐一「こういう報道の仕方なら問題ないか」と確認したり、患者が子育てや介護をしている場合は預け先を紹介したりと、入院に際しての不安をひとつずつ取り除いていった。

また患者が安心して元の生活に戻れるよう、職場など患者の接触者に対しては「ウイルスはいつまでも生きているわけではない」などの説明も。保健師たちは患者の数の何倍もの人とコンタクトを取り、感染拡大防止に努めていたのだ。

山﨑部長は、市民に向けて「新型コロナウイルスに感染する可能性は誰にもありますが、ほとんどの人は感染しても発症しないか、軽症で済みます。検査で陽性になることと発病は別なので、恐れすぎずに正しく恐れてほしい」と話した。

一方で「重症化のリスクが高くなる基礎疾患のある方、高齢の方、たばこを吸う方は、ご自身や周りの方も心配りをしてください」とも。そして、感染予防に何より大切なのは、「手洗い、咳エチケット、換気」とのこと。初心を忘れないようにしたい。

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