行定監督、山﨑賢人主演の映画『劇場』に込めた意味(ネタバレ編)

「脚本の蓬莱竜太は『映画でやっていいのか?』と言ったけれど、ラストシーンは僕が提案した」と行定監督
「撮影時にはほんとに泣きはらした顔でくるんです」
──若い男女のラブ・ストーリーにもかかわらず、ベッドシーンのようないわゆる『濡れ場』がないのも、ラストの仕掛けのためだったのでしょうか?
そう考えてもらってもいいのですが、僕はあれは主人公の男の、ある種の基準の反映だと思っています。物語の途中で、彼がほかの女と浮気していそうなシーンがあるじゃないですか。彼はほかの女にはいくらでも手が出せるんです。
ところが、主人公の女性にはできない。もちろん、二人は若くて一緒に住んでいるのだから身体の交わりもあるでしょう。でも、彼は彼女を大切に思っているからこそ、性行為に拠らない、依存していないところがあるんです。
性行為を含めて、敬意を抱くと容易にはできないことってあると思うんです。彼女もそんな彼を理解して、どこかで許している。ところが、彼にするとそこで許されてしまうのがまたなんとなく嫌で、自分にも彼女にも腹立たしくなってしまう。純粋に思い合うがゆえの行き違いというか。まあ、男がダメなんですけどね(笑)。
──そんな二人を山﨑賢人、松岡茉優という魅力的なキャストが演じています。お二人は、どちらが先にキャスティングされたのですか?
山﨑ですね。山﨑がやってくれた役は原作では関西弁で書かれているんです。だから脚本も初めは関西弁で書いたのですが、細かいニュアンスが難しいので、原作者の又吉さんに標準語にしていいかってお尋ねしたんです。そしたらいいと言ってもらえて。
ただ、地方出身者というのは変えないでほしいと。それで脚本を標準語にしたら一気に配役の可能性が広がって。そんなとき山﨑賢人はどうかって話が来て、面白いと思いました。なにしろこれまでのキャリアからは想像できない役柄で、山﨑賢人に『汚し』をかけるわけですから、そんな彼を見てみたいとなったんです。
──ご本人もやり甲斐があったでしょうね。
本人がぜひやりたいって言ってくれたんです。それでヒゲは生やせますかって訊いたら、そこから伸ばすようにしてくれて。彼はよくやってくれました。役柄の嫌味な感じも出せたし。ただ、彼はやっぱり色っぽいですよね。人を惹きつけるものがあります。

──山﨑さんが決まり、松岡さんにオファーされたのですね。
松岡は『万引き家族』の公開直後でした。松岡はニュートラルで賢いですよね。彼女がヒロインを演じてくれたら、山﨑とのコンビでこれまでにない感じになるなと思いました。
彼女はほんとに役を読み込んでくるのですが、彼女が考えてきたものの一つが、髪をさわるというヒロインの癖でした。これは、やはり地方出身者であるヒロインの自意識が、『東京』に負けそうになるとついやってしまう癖、ということで。
──細かいし、キャラクターを深く理解していないとできない役づくりですね。
僕の仕事は、彼女の髪をさわる仕草をコントロールすることでした。松岡は演技中はもうヒロインになりきっているので無意識にやっちゃうんです。それを僕が、ここはないほうがいいなと判断したら「ここ、それいるかな」って訊くんです。そうすると松岡は「あ、わかりました。ここではしません」と、意識してやめる、そんな感じでした。
──自分で考えてきた役柄の癖を無意識に、それこそ癖としてやるというのもすごいですね。
松岡はほかにも、役柄にさりげない「あざとさ」を付けることもしてました。僕はそれも全部取るんじゃなくて、内容に合わせて残すようにしました。その結果、映画の中の主人公二人の関係に沿って、前半は『少し痛い』あざとさのあった女性が、後半はお酒を飲むようにもなって本音を語りだす。
そこには、本人は変わりたくないのに年齢や環境によって変わらざるをえない、女性ならでは悲しみがあります。一方、男はずっと変わらない。

──この物語が描く恋愛の、本質的な悲しさですね。
二人の演技にもそれがちゃんと表現されていて、松岡は毎シーンよく理解してきて、シーンごとにさまざまなアプローチをしてくる。泣きのシーンでは準備段階から泣いていて、撮影時にはほんとに泣きはらした顔でくるんです。一方、山﨑には、ずっと変わらない、その場での瞬発力重視の演技を求めました。
その結果テイク1~3がいい松岡と、シーンを徐々に理解して、テイク4以降がいい山﨑の演技があって。その交錯点が、少しずつ早く、また深くなっていくんです。これは演出していて充実感がありました。
──お二人にとっても代表作になるでしょうね。最後に一つ、関西フォークのファンとして訊いておきたいのが、劇中で使われているザ・ディランⅡの「君住む街」のことです。すごく良かったのですが、あの選曲は?
あれは原作に書いてあるんですよ。だから、又吉さんの『推し』です(笑)。物語にもぴったりで最高でしたね。
※こちらは2020年2月におこなわれたインタビューです。
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