行定監督、山﨑賢人主演の映画『劇場』に込めた意味(ネタバレ編)

「脚本の蓬莱竜太は『映画でやっていいのか?』と言ったけれど、ラストシーンは僕が提案した」と行定監督
「二人の人間を阻むのは、舞台と客席」
──物語の題材に「演劇」があることも魅力を感じましたか?
そうですね。僕も舞台の演出もするし、小劇場演劇をやってきたわけではないですけど、小劇場の人たちとは仲もいいし、人もいっぱい知っていますからね。彼らの思いや、いまでも打ち込んでいる人もいれば、夢かなわず、やめていった人もたくさん見ています。
物語の主な舞台となっている下北沢は小劇場の聖地ですし、やっぱり「演劇」は題材として魅力ありますよね。それに「演劇」が題材であったおかげで思いついたのが今回のラストシーンの仕掛けなんです。
──主人公二人の部屋の壁が突然倒れて、実はその部屋が公演中の舞台の上に造られていたものだったことがわかる。つまり、観客が映画としてずっと観ていたものは、本当は劇中の舞台だったという大仕掛けですね。
あの壁が倒れる手法は、演劇では「屋台くずし」って言うんですけど、本来は芝居だと思って観ていた空間が突如現実とつながってしまう仕掛けなんです。それを逆手にとって、映画として観ていたものが実は主人公の男が作った演劇舞台で、その舞台を主人公の女が客席から観ている、ということにしたんです。つまり彼女は、映画の観客と同じ位置で、かつての自分たちを題材にした芝居を観ていたわけです。
──彼女がどんな気持ちで観ていたのかと考えると、複雑な思いが膨らみますね。
男の横にいるはずだった自分が、いま男は舞台に居て、自分は客席にいる。自分は『降りたのだ』という思いはあったでしょう、それが正しかったのか正しくなかったかは別として。
この物語は「劇場」というタイトルですが、同じ劇場にいる二人の人間を一番阻むのは、やはり舞台と客席という違いですから、そういった構図的なものも考えました。

──確かにあの仕掛けは「演劇」というモチーフがなければ生まれなかったでしょうね。
原作に書かれてあるラストシーンも素敵なのですが、映画としてやるのだったら、「演劇」という題材を活かして、主人公二人の思いを、はっとさせる形で露呈させられないかと考えたんです。
情感が一番盛り上がるクライマックスで終わらせたいという気持ちもありました。ただ、今回脚本を頼んだ蓬莱竜太は、自身の劇団の作・演出を手掛けるバリバリの演劇人なので、映画で「屋台くずし」やっていいのかなって悩んでましたが。僕は「いいんだよ、映画に制限はないんだから」って説得しました。
──多くの映画ファンは、寺山修司監督の『田園に死す』(1974年)を想起したと思います。
そうでしょうね。ただ、あの作品では、映画の空間が突如現実とつながる、いわば演劇的な「屋台くずし」でした。
──本作のあのシーンで、芝居を観ている彼女の指に結婚指輪があるかどうかが気になりました。
そこもポイントですよね(笑)。あそこでの彼女の指には指輪はないです。でも、それは結婚していない証しにはならない。劇場に入る前に抜いたのかもしれないし。演じてくれた松岡茉優とも話し合いました。松岡は「結婚してるでしょう」って言ってました。
芝居が終わったあと、劇場を出た彼女がひとりで下北沢の街を歩くカットを入れようかとも考えたのですが、結局やめました。実は、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんにも、ワン・シーンだけカメオ出演してもらっているんですが、そのとき「原作は読まずに脚本を読んだけど、主人公の二人って、『アニー・ホール』(1977年)みたいだね」って言ってもらったんです。
──ウディ・アレンとダイアン・キートン。
そう。似てるとかじゃなくて、二人の間の思いが、ですよね。これってすごい褒め言葉だなあって、うれしかったです。
──ほかに観てもらった方から、なにか言われたことってありますか?
先輩監督から仕掛けについて「コワイことするなあ」って言われました。そのあと「うまくいってるよ」とも言ってもらいましたけど(笑)。ただそのとき、もしもお客さんが「どういうことかわからない」って反応したらどうするんだとも訊かれましたが、僕は最近、お客さんにわかってもらおうとは思わないようにしているんです。
説明はしたくないし。僕にとって重要なのは、お客さんにわかってもらうことより、劇中の二人が、映画の世界のなかでシーンを理解しているかどうか、なんです。理解してくれていれば、そういう芝居になるはずだし、お客さんはそれを観て勝手に解釈してくださればいいと思うんです。
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