未曾有の事態でどうする?関西の劇場の挑戦「E9」の場合

2020.6.14 21:15

2019年6月にオープンした「THEATRE E9 KYOTO」の外観

(写真5枚)

「何のためのコロナか、E9はどこへ向かうのか」

そんななかでいま、E9にできることは何か。「小劇場の運動は、いつの時代にもなければいけない。メジャーがあれば、絶対マイナーがあるわけで。玉石混淆のものを磨き続けた、そのなかにメジャーが潜んでいる。いつも実験をしないといけないし、小劇場はそのために存在し続けなければならないと思います」と茂山。

しかし現実的に、小劇場は民間の力で支えるのか、公的資金で運営するのか、という大きな命題も。「E9は、税金を1円も使わずに建てましたが、活動を拡張していく上で、公的な助けも必要になってくるはず。給付金10万円だって欲しいですし(笑)」とあごうは正直に話す。

「でも地域に根ざした文化活動の、新しい方向性を探るのも、E9の基本。そこで100%税金に頼ったら、運営は安定するでしょうけど、活動の仕方や芸術の世界観が、極めて限定的なものになってしまう恐れがある。そこが難しい判断」と頭を悩ませているようだ。

地域との交流イベントのひとつ、『東九条夏祭り』での茂山あきら・茂山千之丞による狂言の様子(2017年8月)
地域との交流イベントのひとつ、『東九条夏祭り』での茂山あきら・茂山千之丞による狂言の様子(2017年8月)

また一方で、「ご飯を食べたり空気を吸うように、劇場で芸術を楽しむことが当たり前になっている街を、地域の方たちと一緒に作っていきたい。だから劇場を再開するにしても、周辺住民の方たちに、不用な心配の種をまくようなことはしたくないんです」と自らのスタンスを説明。

茂山も、「人が集まる所はやっぱり、安全性が保たれてると感じられないといけませんよね。危険なお家には帰りたくないように、危険な場所には行きたくない。家をちゃんとフォローするのは、家主である僕らの責任です」と気を引き締める。

「その点でE9は、業務用の強力な換気扇を入れてるので、むしろ家にいるより安全かもしれない(笑)。今は短距離的な視点ではなく、世間の状況の推移に合わせながら、運用ルールを定めようとしている所です」と、再開への準備を進めているという。

自ら表現者として活動を続ける2人。あごうは、「世間との同調も大事ですけど、表現者としての自由な空気も勝ち取りたい。そのバランス感を、劇場を運営する私たち1人ひとりが持てているか。コロナの後に、劇場文化が発展するかしないかは、そこにかかってると思います」と緊張感も。

茂山も同じく、「そこで間違えたとしても『これだけ進んだから、戻るのは惜しい』と思わないことですね。右に曲がったのが間違いとわかったら、すぐ左に曲がったらいい。そういう気持ちでコロナとは戦っていかなきゃいけないし、そこで本当に何も変わらなかったら、何のためにコロナがあったのか? という話になりますよ」と気を引き締めた。

『無人劇』のような「劇場を使わない演劇作品」に特化した仮想空間「THEATRE E9 Air」を、今月から本格始動させるE9。「小劇場は実験をする場所」の言葉通り、「新しい生活様式」に対応した演劇を作る実験に、どこよりも積極的に取り組んでいる。京都の若い才能はもちろん、手練の館長や芸術監督が作る刺激的な舞台を、約100席の小さな空間から、彼らは今後も発信し続けていくだろう。

取材・文/吉永美和子

「THEATRE E9 KYOTO(シアター イーナイン 京都)」

電話:075-661-2515(10:00〜18:00)
住所:京都市南区東九条南河原町9-1

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